「あれ…?」
テントに戻ると、赤毛の少年がそこにいた。
カントー学園は色々な地方から生徒が集まっているが、赤色の髪をもつ人物をレッドは一人しか知らない。
「シルバー」
振り向いた彼に、笑みを浮かべる。
「どうしたんだ?ここは3年のテントだぜ?」
「…レッド先輩。ドリンクの補給です。オレ、体育祭の運営委員になったんで」
「あぁ、そういえばあいつが言ってたような……。そっか、大変だな」
体育祭運営委員とは、体育祭の開会式の司会から放送、怪我人の救護まで、一切を取り仕切るなんとも忙しい体育祭運営委員会の委員のことである。
レッドのルームメイトもまた運営委員だ。
「ちょっと待ってろよ。見てくる」
「…ありがとうございます」
テントの一角に設置された給水ポットに近寄る。
どでかい円柱の下部に蛇口のようなものがついていて、捻るとドリンクが出てくるという代物だ。
持参の飲み物だけじゃ足りない、という(主にトレーナー科の)要望により設置されたものだが、生徒の群がり様を見ればシルバーが近付こうとしなかったのも頷ける。
半端ない熱気に溢れている。まぁ、トレーナー科の男子比率が他の科に比べて高いことも要因だろうが。
「ちょっとごめんなー、通らせてくれ」
「レッド、横入りは駄目だぜー?」
「馬鹿、んなことするわけないだろ。運営委員の手伝いだって。…ったく、お前らがむやみに飲むから委員に迷惑かけるんだろ。――…あー、もう無いな」
残量を確認して、蓋をしめる。
次の補給まで遠慮して飲めよ、とクラスメイト達に伝えて、テントの外で待つシルバーに歩み寄った。
「シルバー、悪いけどすぐに補給してくれ。あと少しで無くなりそうだ」
「分かりました」
「それと…、いや、なんでもない。それじゃ、補給よろしくな」
「はい。…レッド先輩」
「ん?なに?」
「明日、オレやあいつが相手になったとしても、本気で戦ってください」
「『本気で戦ってください』って……」
「…オレ、いつも本気だよな?」
「お前は『戦う者』だ。相手が誰だろうと手を抜くことはない」
呟いた自問自答に、答える声があった。
「びっ…くりした。グリーン、仕事、終わったのか。――オレが本気で戦ってないって、お前も思ってるのか?」
「本気で戦ってないわけじゃない。お前が本気で向き合っていないということだ」
「そんなわけ」
「無いとは言い切れないだろう。お前も感じているはずだ。…そうだな、今は『先輩として負けるわけには』というところか」
「それは…しょうがないだろ?あいつらは後輩なんだから、先輩としてやらなきゃいけないことがある。お前だってやってるじゃないか」
「お前がこの状態で満足するなら、これ以上言わない。だが、これがお前が見せるラストバトルになることに変わりはない」
「あぁ。卒業したら、カントーを離れるからな」
もう二度とマサラに戻らない。カントーを離れて、ジョウトを越えて、ここからもっと、ずっと遠くへ旅立ちバトルを極める。
彼以外には伝えていない。伝えずに消えるつもりだけれど。
「お前は誰だ」
「…レッド。マサラタウンのレッド。『戦う者』だ」
「ならば『戦う者』の極致を見せろ」
オレがオレであることを証明する場は一つしかない。
だって、オレの能力は……。…なんだ、最初から分かってたじゃないか。
「オレは、誰にも負けない。これまでも、これからも。相手が誰であっても、オレがオレである限り全力で挑むだけだ。――サンキュ、グリーン。目が覚めた」
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『これより30分後、男子団体【騎馬戦】を行います。出場する方は開始10分前に各自エリアテントの前に集まってください』