体育祭一日目最後の競技、男子団体種目【騎馬戦】。
言うまでも無く、体育祭の花形種目の一つである。
汗が飛び身体がぶつかり合う非常に激しい競技であるが、体育祭前は連日練習する風景がどこでも見られるほど男子生徒たちは力を入れている。
ついでに上半身裸がルールであるが、今のところ女子にも保護者にも概ね好評である。
学部ごとに規定数の騎馬を構成し、2回ずつ、計3回試合を行い、合計得点が高い順に順位をつける。
基本的に、騎手を騎馬から落とす度に1ポイントがつき、終了時に合計ポイントが多い方が勝ちとなる。
特別ルールとして敵の大将騎を倒せば無条件に勝ちとなり、更にタイム内に敵の擁する全ての騎馬を倒せば完全勝利。この場合、ボーナスとして更に得点が加算される。
もちろんレッド達が狙うのは最も困難な完全勝利。
そのために綿密な調査を重ね、いくつもの戦略を立ててきている。
たかが騎馬戦、されど騎馬戦。
女子団体の玉入れと並んで、団体戦を制した学部が総合優勝(『学部』の部)を制すと言っても過言ではない。
「――…よしっ!気合十分だぜ!!」
騎手用の長いハチマキをきつめに締めて、レッドは両手で頬を叩いた。
トレーナー科のテントエリアの前に集まった200人の男子たち。研究科、そして総合科のテントエリアの前にも同数ずつ固まっているはずだ。
法螺貝の音を合図に総勢600人が一斉に戦場…グラウンドへと走る。そして騎馬を構成、陣をつくるのだ。
「レッド、自分の役割は十分理解してるだろうな」
「オレの役割は敵をひっかき回して陣形を崩すこと。今年こそ悲願の完全勝利だ!」
「熱くなるのは結構だが、冷静に周りを見渡すことだ。お前の弱点は背後からの攻撃だ。お前の動き次第で試合が有利に働くんだ、ちゃんと指示を聞くこと。分かったか?」
「分かってるって。去年の失敗は繰り返さない。それに…今年は去年とは違うんだ。じゃ、また後でな。――健闘を祈るぜ、軍師殿!!」
しん、と静まり返った陣中。
双方睨み合う中、彼らの視線は一人の男へと注がれていた。
「…では、オーキド博士。合図を」
「うむ。では、僭越ながら、わしに戦いの火ぶたを切らせてもらうぞ」
バチを持った手が、ゆっくりと大きく振り上げられた。
そして、勢いよく振り下ろされ、
ドォンッ!!
太鼓の音とともに、400人もの人間が一斉に駆け出した。
「特攻隊長レッドたぁオレのことだ!怪我したくない奴は今すぐ逃げろ!!」
ひたすら叫びながら敵陣の中を走る。
隙があれば突撃をするが、レッドたちの役割は特攻して敵の陣形を崩し、後からやってくる攻撃隊を入れやすくすること。
そして出来るだけ多くの敵の気を引くこと。
騎馬戦はなにより団結力が重要である。騎手、そして騎馬役のうち一人でも気を抜けばすぐに騎馬は崩れてしまうものだ。叫びながら駆けまわっているのは、それを狙ってのこと。
だがその分標的にされる危険性は高い。
そのために学年を越えて身軽な騎馬役を選出しているのだが、思ったよりもずっといい動きをしてくれている。練習の成果が十二分に出てるな、と嬉しく思うが、ここは戦場、とゆるみそうになる頬を引きしめた。
<ポイントN>
「…ぁ、先輩たちっ!!」
「囲まれてますね。相手は5か…。2時方向に走れば、もしかしたら切り抜けられるかもしれません」
「無理だな。助けがあったらどうにかなるかもしれんが。…ここまで敵を引きつけたんだ、グリーンも納得すると思うぜ。けどレッド、お前は納得しないんだろ?」
「当然だぜ。んな簡単に諦めてやるわけにいかないだろ?それに、」
「レッド先輩、助けに来たッスよ!!―――おいお前らァ!レッド先輩に手ェ出そうたぁ百年早いだよ!!オレが相手になってやらぁ!!」
神の声と例えるには随分と荒々しいけれど、待ち望んだ救いの一手であることには違いない。
去年との違い。それは援護専門の騎馬を新たに設けたこと、そして司令塔の存在であった。
「サンキュ、ゴールド!!」
「グリーン先輩から特別指令『ポイントFまで後退、そしてKを叩け』とのことッス。…じゃ、行くっスよ」
「OK」
「「3、2、1…GO!!」」
<ポイントF>
いつの間にか、騎馬の数は半分ほどに減っていた。
敵の騎馬の数はそれより更に少ない。制限時間はまだ残ってるから、完全勝利もいよいよ現実味を帯びてきた。
『…――J隊およびN隊はポイント6まで前進、作戦Bだ。L隊はP隊の援護――…』
拡声器から、暗号ばかりの指示が飛ぶ。
各学部ごと、一台だけ使用の許可された拡声器(プラスチックのメガホンを使っても声が届かない)。その持ち手は、最初から決まっていたも同然だった。
やる気と身体的能力は十分なトレーナー科男子一同。
更に戦略や機微に気の配れる生徒なんて、そうはいやしなかったのだ。
それにしても、…本当にすごい男だ。伝令役の騎手たちが送った合図を読み取って、すぐさま戦略に比例させる。
親友ということを差し引いても、舌を巻かずにはいられない。
その彼に、最後の見せ場を与えられたのならば、オレはオレの仕事を全うするだけだ。
「…合図です。30秒後にKに突撃。後ろのことは気にするな、とにかく前に進め…だそうです」
「もうすぐ終わるんですね…。最後まで頑張りましょう!」
「さぁ、いっちょやったるかな。突っ走るぜ!!」
「みんな、ありがとな。大変なことを分かってたのに、オレの騎馬になってくれて。すっごく感謝してるよ。――じゃあ、行くぜ!!」
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一日目 午後 完