「グリーン」
無造作に置かれた椅子の一つに座り、競技を観戦していたレッドは、800メートル走を終えクラスのテントへ戻ってきた彼にタオルとスポーツドリンクを渡した。
ぶっちぎりだったな、と笑うレッドを無言で一瞥し、グリーンは受け取ったタオルで流れる汗を拭った。
いつもと変わらない態度に、少しくらい感謝しろ、と思わないこともないが、いざ感謝の言葉を呟く彼を想像しようとしてみても欠片も浮かんでこない。
このことを伝えたらどういう反応をするのだろうか、それともやはり反応しないのだろうか、と失礼なことを考えながら見上げると、緑の目をぶつかった。
遠慮を知らないまっすぐな彼の目は、心の奥を見透かされるようで、何年も付き合った自分でさえも時に戸惑ってしまう。
背もたれにかけた自身のタオルで顔を拭うそぶりをみせながら、不自然にならないようそっと視線を離した。
察しの良い彼のことだ、どうせ気づかれているのだろうが、と心中で呟きながら。
「お前は行かなくていいのか」
グリーンの言葉に、プログラムに目を向ける。
といっても、頭に入っていることを再び確認しただけであるが。
「ええと…一番近いのだと200メートルが20分後にある。次は1時間後だけど、110のハードル。あとは午後だ」
「準備を始めた方が良い。さっきゴールドを見掛けたが、随分やる気のようだったぞ」
「200メートル走、同じ組だと良いんだけどな。『絶対先輩に負けないッスから!』だってさ」
からからと笑ってから、レッドは眼を細めた。
矜持もある。だけどそれ以上に、負けず嫌いの血が騒いでしまう。
体に燻ぶる熱を自覚しながら、目線を落として拳を握る。
「うん、負けられないな」
握りしめた拳を解いて、レッドは立ち上がった。
「じゃあ、行ってくる」
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『男子200メートル走の出場者は、入場門前に集まってください』