男子100メートル走 その前に




「レッド先輩!おはよーございます!!」
「わっ!?…ゴールド!!いきなり飛びつくなって言ってるだろ!?」


突然感じた背中の重みに地面にへばりつきそうになるのをぎりぎりで耐えて、その原因をべろりと取る。
するとニコニコ笑った後輩がそこにいた。

成長期にも関わらず伸び悩んできた身長だが、まだまだ勝っている。その差が数ミリ数センチの差であろうと、勝ちは勝ちだ。
そこは先輩としての矜持に関わる重要なところであるのだ。

というわけで、後輩が背中に飛びかかってきたからといって、倒れるわけにはいかないわけである。
この気持ち、誰か分かってくれるだろうか。




次の競技の集合が始まっている。
このまま入場門の近くにいては邪魔になるだろうと、ゴールドの手を引いて、足早にトレーナー科のテントエリアへと向かった。


「ったく。ゴールド、」
「だって先輩に会えるのが嬉しいッスから!愛情表現ってやつですよ」
「毎日寮で会ってるだろ?」
「ご飯の時ぐらいじゃないッスか!?勉強教えてもらおうと思っても、部屋に行けばグリーン先輩怒るし……」


それは真剣に教わる気のないゴールドの所為だと思う。
まるで集中力が長続きしないのだ。

それにゴールドは、静かな場所を好むグリーンとは相性が悪い。だからあまり部屋に入れられないのだ。
一日中不機嫌な彼と生活を共にする自分の身にもなってほしい。


「まぁ、この話は後でもいいな。――レッド先輩、今日は何に出るんスか?」
「えーと…100と200、110のハードル、あとはクラス対抗リレーだな。ゴールドは?」
「110以外は一緒ッスね。あとは…あ、なんか変なやつ出るッス」
「変なやつ?」


うまく説明できないんスけど…、と腕を組み首を捻るゴールドによると、20メートル四方のコートを縦横無尽に動くバスケットボールのゴールのようなもの×10に、1分間に入れたボールの数を競う種目らしい。
去年そのようなものを見た覚えはないから、今年新しく作った競技なのだろう。


「コート内に入らなければ何を使ってもいいそうで、研究科はソレ用の機械を作るほど意気込んでるらしいッス。あ、これはクリスが言ってたんスけどね」
「あぁ…だからゴールドなのか。アレ使うんだろ?」


使うボールは拳ほどの大きさだというのだから。


「勿論ッス!オレにキューを使わせたら、研究科の変人どもだろうが負けるわけがねぇッスよ!あ、先輩、オレの生き様ちゃんと見ててくださいよ?」
「分かった分かった、ちゃんと見てるから、あんまり熱くならないようにな。ゴールドは冷静に状況を見極められるようになったらもっと強くなれるんだぜ。いつも言ってるだろ?」
「はい、ちゃんと分かってるッス。……頭では」
「こら」

最後にぼそりと呟かれた言葉に内心共感しながらも、一応先輩として叱っておく。


『男子100メートル走の出場者は、入場門前に集まってください』


「あ、呼ばれたッスね。行きますか?」
「いや、先に行っててほしいな。ハチマキ、テントに置いてあるんだ。ゴールドもちゃんと巻いてから行けよ?」
「分かったッス。じゃあ先行ってます。走る順番、一緒の組だといいスね!あーあと、明日っ、オレと当たる前に絶対負けないで下さいよ!!」


再度掛かった放送に入場門にチラチラと目を向けながら、ゴールドは口早に言い募った。


「当たり前だろ?オレを誰だと思ってるんだ?」
「オレの大好きな先輩ッス!」


じゃあまた後で!!


駆け始めたゴールドに軽く手を振って、テントに向かう。

最後の体育祭だ、どうせやるなら見知らぬ誰かじゃなくゴールドと競えたらいいのに、と思う。

団体戦やリレーで直接対戦することは無いだろうから、チャンスはこの100メートル走か200メートル走にしかない。
ポケモントレーナーとしてでなく、先輩としてでなく、師匠としてでもなく、ただのレッドとして。そんな機会も、きっと今日だけ。







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次は男子の100メートルか。早く並ばないと……

 

2009.12.13. up.

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