「グリーン先生って彼女いるの?いるよね?どんな人?美人?可愛い?」
「決まってんじゃん。あれだって、ヤマトナデシコだよ」
「いやいやめっちゃグラマーな金髪美女も捨てがたい。こうボンッ・キュ・ボンッってかんじの」
「古ッ、あんたおっさん!?」
どうしてこう、当事者を置いて盛り上がれるのだろう、女ってやつは。
「で、どうなの?」
「ノーコメント」
いつかの話
「彼女の話くらい良いやないか。生徒に好かれとる証拠や思って、答えたればええねん」
「オレが答えないからってあんたのとこに行ってるらしいな。どうだ、女子高生に囲まれた経験は」
「イケメン爆発せえ。仕事がやりにくくてしゃあないわ。あんさんが義理弟なんてうっかりもらしたわいがアホやった」
関西出身、関東在住。エンジニアと聞いていた義兄のマサキと、こうして学校で会うとは思わなかった。
なんでも月に数回出張し、システムの管理と教員向けの情報教育を行っているという。
それまで使っていたノートパソコンの調子が突然悪くなり、資料作りが出来なくなったグリーンが、シジマに言われて行ったパソコン室。そこで一人作業していたのが彼だった。
今は修理は畑違いやけどやったるわ、と二つ返事で引き受けてくれたマサキの雑談に付き合っている。
「女子高生に興味ないねん。わいはナナミはん一筋やで」
「本人に言え」
すげない義弟やなぁと流れてもいない涙を拭うマサキに、グリーンは舌打ちする。
彼がいなければ修理に数日は掛かるだけに、ともすれば出そうな手をどうにか理性で留める。惚気るにも相手くらい選べと言いたい。それとも、相手を選べない心理状態だから惚気られるのだろうか。
姉とこの義兄は、真剣に交際を始める前からお似合いカップルだと言われていた。
人前でベタベタすることはないが、傍目にも相思相愛でお互いがお互いを尊重していることは明白だった。少々頼りない男だが、そういう面にはグリーンも彼に一目置いている。調子に乗ることが目に見えているため決して口にはしないが。
里帰り出産のために今は離れて暮らしているが、マサキを見る限り、グリーンのあずかり知らぬところでうまくやっているのだろう。なんせ結婚式で泣くような男だ、会えなくなりもすれば仕事どころではない。
「それにしても、彼女なぁ。実際のところ、どうなんや?」
「いらない」
「おらへんやのうて、いらんと。難儀やなぁ、小さい頃からナナミさん見て育ったよってに、目が肥えとるんや」
だから惚気るなら相手を選べと。
しかしそれも否定できないと思い直す。幼少期からそばにいた異性といえば、計算高く抜け目のないブラコン女と中学入学まで周りに性別を勘違いさせていたぼくっ娘だ。見た目は身内の贔屓目を抜きにしても美少女。あいにくグリーンにはいろんな意味でたくましい彼女たちを女だと思ったためしはないが、審美眼は否応無く培われた。
「でもなあ、そう思っとっても、いつかはビビッってくる子と出会うもんや。わいがナナミはんと出おおた時みたいにな。…さあ、これで終いや。どや、試してみ」
マサキからノートパソコンを受け取り、立ち上げる。先ほど何をしても動かなかったソフトウェアをダブルクリックする。すると過たず文章ドキュメントが開いた。今までのデータを一つ一つ確認するが、何一つ消えずに残っている。
「…すごいもんだな」
「なんや、あんさんに褒められるとなんぞ裏がありそうで怖いなぁ。…まぁええわ、わいは仕事に戻るで、グリーンも頑張るんやで」
「あぁ。ありがとう」
「――あいつ、素直に『ありがとう』なんて言うやつやったかなぁ…。これはなんかあったで、ナナミはんに言うたろ」