「シゲルー、腹減った」
「何でそれを僕に言う…」
なんか作って。
インターホンに応えて開いた扉に向かって開口一番。
シゲルは海よりも深い溜息をついた。
「だって、ママ友達と映画行くからいないんだ。んで、お昼はシゲルくんに作ってもらってね?って」
「ハナコさん…」
通称マサラタウンのアイドルこと、サトシの母ハナコは、僕のことを一体何だと思ってるのか。
映画館に今すぐにでも乗り込んで問いただしたいが、恐ろしい返事が戻ってきそうで踏みとどまった。
サトシはダイニングテーブルの一席で、足をぶらぶらしながら料理を待っている。
断られることなど、微塵にも考えていないのだろう。
そこまで考えが至って、シゲルはふたたび深い溜息をついた。
なんで僕は断ることを微塵にも考えなかったのだろう。
「あ、シゲル。溜息つくと幸せが逃げるんだぜ?」
「…キミに言われたくないね。サートシくん」
なんだよ、俺の所為かよー?
ぶす、っとむくれる。
ころころ変わる表情は、見ていて飽きない。
「……ッ!」
自分がサトシの顔をずっと見ていることに気づいて、慌てて視線をはずす。
どうかしたのかシゲルー?と見上げる目線を無視して、
「で、何が良い?」
「なに、ってなに?」
「何が食べたいか、って聞いてるんだ。勿論、食材が無かったら作れないけど」
「え?何でも良いの!?」
じゃあハンバーグ!と元気なサトシに、冷蔵庫を開けて溜息をついた。
なんで食材揃ってるんだ、無かったら体よく断るのに。
…これじゃ、サトシが来るのを楽しみにしてたみたいじゃないか。
「うまい!!すっげー美味しい!!シゲル、やっぱり料理上手だな!!」
「…褒めても何も出ないぞ」
3つ目のハンバーグに手を伸ばすサトシに、机に肘をつけながらシゲルは呟いた。
本当だって!と続け上機嫌にフォークを扱う彼を前に、シゲルは先ほどからほとんど手をつけていない。
自分でもそれなりに美味しいと思ったが、目の前の光景に、すでにお腹いっぱい状態だ。
「シゲル?食べないのか?」
「キミの食べっぷりを見てたら、食欲無くしたよ。僕より小さいのに、どこに入ってるんだ」
「このくらい、普通だって。シゲルが食べなさすぎなんだよ。それに、シゲルの味、俺大好きだし。ママとかタケシのもすっごく美味しいし好きだけどさ、シゲルのが一番好きだぜ」
「キミは…馬鹿だよ。本当に、馬鹿だ」
はぁ!?と睨むサトシに、もう一度『馬鹿だ』と呟いて、シゲルは俯いた。顔に血が上る。きっと真っ赤だ、見せられない。
単純で、思ったことをすぐに口に出してしまう性格だから、嘘やお世辞は絶対に言えない。
だからこの言葉も、本心から出たもの。
幼馴染としてずっと一緒に育ったから、誰よりもそれを理解している。
理解しているからこそ、余計に恥ずかしくて…嬉しい。
「あ、だからさ。」
そんなシゲルの様子に気づかず、サトシは4つ目のハンバーグにフォークを突き刺した。
「シゲルがお嫁さんになってくれたらいいのにな!」