突然騒がしくなった周囲に、サファイアは首を捻った。
午後、2つ目の種目。誰かがすごい記録でも出したのだろうか、とグラウンドに目を向けるけれども、ちょうど今までやっていた種目が終わったところで、退場する生徒が足踏みをしているだけだ。
原因は、彼女の背後にいたのだ。
「サファイア」
名前を呼ばれて、振り向く。
目を見開き、そして喜色を浮かべながら駆け寄るサファイアを、彼は笑みを浮かべながら迎えた。
「レッド先輩!!わざわざ来てくれたと?嬉しか!」
「当然だろ?可愛い後輩たちを応援しないわけないじゃないか」
午前の結果聞いたぜ、すごかったみたいな。と屈託なく笑うレッドを、少しだけ目を細めてサファイアは見上げた。
ずっと憧れだった人が、手の届く場所にいる。それはとても幸せでとびっきり運の良いことだけれど、
「ん?どうかしたか?」
「何でもないとよ!」
先輩と後輩という立場で出会わなければ、もっと違った接し方をしてくれてたのかな、なんて思っても仕方がないこと。
「そうか?ならいいけど、言いたいことはちゃんと言った方がいいぜ。…あ、そうだ。ルビーを見ないけど、どっか行ったのか?」
「あん人ならたしか…あ、いたったい!――ルビー!!こっち向きn」
「ストーップ!!」
グラウンドに向って右手を大きく振りながら声を張り上げるサファイアに、レッドは慌てて手でサファイアの口を塞いで黙らせる。
もごもごと口を動かしながら不思議そうに見上げる彼女に、競技中じゃないか!と眉をつりあげた。
レッドが動いた途端に色めきたった周囲に、口を塞いでいた手はすぐに外され、そっぽ向かれてしまったけれど。耳がうっすら赤い。
「こほっ…。それなら心配いらないったい。だってあん人は……」
「――レッド先輩!ちょっと来てください!!」
「ルビー!?…ぅわ!!」
「先輩!?ルビー!あんた、」
「サファイア、レッド先輩借りるよ。…返さないけど」
突然現れた想い人に、憧れの人は連れ去られてしまいました。
「……心配はいらないったい、レッド先輩。だってあん人が出とるんは」
「借り物競走?」
「はい。…すみません、突然手を引いたりして」
「まぁ、初めはびっくりしたけどな」
手を繋いで走りながら、二人は小声で会話を交わす。
指定されたものを借り、グラウンドを一周すればゴール。
ルール上、借り物が物だったら装着して、人だったら手を繋いでゴールしないと失格である。
ゴールまであと200メートル。
順調に抜いて、現在2位。速度を上げましょう、というルビーの言葉に、レッドは足を速めた。
「それにしても、本気出してるんだな。体育祭なんて柄じゃない、とか言いそうなもんだけど」
「なんであれ、負けることは嫌いなんです。それに……手を繋げるチャンスなんて、きっとこれが最初で最後じゃないですか。それなら最高の形で終わらせた方が、貴方の心に残るでしょう?」
小さく呟かれた言葉は、誰の耳にも届かなかった。
「なんか言ったか?」
「いいえ、何も」
ふぅん…、と返して、レッドは視線を走らした。
「――飛ばすぜ、ついてこい!!」
「ぇ、わ…ちょっと、レッド先輩!!」
いきなりぐん、とスピードが増す。
体勢を崩したルビーが思わず抗議の声を上げるが、レッドは無言のまま繋いだ手に力を入れた。
その手を支えに、ルビーは体勢を整える。勿論足は動き続けたままだ。顔を上げると、振り返った彼が笑った。
「負けるのが嫌いなのは、オレも同じだぜ」
この時が永遠に続けばいいのに、なんて甘い夢は、発砲音によって残酷なほど見事に切り裂かれた。
「で、何が書いてあったんだ?なぁって」
「ですから、秘密です。秘密は秘密です。何度聞かれようと、お教えするつもりはありません」
うずうずしたレッドが隙をみて盗み見ようとすれば、白い紙はルビーの手によって粉々に破られ、空中に消えた。
「あぁっ!?ちょ、ま、…そこまですることないだろ!?協力した分、聞いてもいいじゃないか」
「その点に関しては感謝してますけど、それとこれとは無関係です」
「――ルビー、レッド先輩、お疲れ様ったい!!……なんね、ケンカでもしとると?あー駄目ったい先輩。ルビーは一度決めたら頑固やけん、何言っても聞かんとよ」
「キミに言われたくはないね」
「なんね!?」
溜息をついたのは、誰だったか。
サファイアの出場種目はそれから一時間後。
残念ながらそこまでの時間は無い。明日また会おうと手を振って、高等部に戻ることにした。
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暑いな…。テントで涼むか。
次の種目が始まるまで、まだ時間がある。テントで観戦するか。