あと二歩。

一っ…踏み込みと同時に、頭を突き出す!


パァンッ!

勝敗を決める発砲音が、空気を切り裂いた。


「は、ぁ……」


流れる汗が、頬を伝って地面に落ちた。拳で拭って、顔を上げる。
先にゴールテープを切ったのは、


「お疲れ様でした。これを胸につけ、待機していてください」
「二位のリボン…。…そっか、オレ、負けたのか」
「はい。でも、とっても…格好良かったです」
「…サンキュ。じゃあ、仕事、頑張ってくれよな」


見知らぬ委員からバラの形を模したリボンを受け取って、感触を確かめるかのように手の中で回す。その色は銀。
それから背を向けて、彼の姿を探した。


「おめでとう、ゴールド」
「レッド先輩。…ありがとうございます」


くしゃ、と笑う顔が普段の彼と違って、一瞬戸惑う。


「…どうしたんだ?」
「なんか…実感湧かなくて。先輩に勝てたのはすっげー嬉しいんスけど、けど…くそっ、まどろっこしい!」


ぐしゃぐしゃと髪を掻き毟るゴールドに笑みを浮かべ、レッドは呟いた。


「オレは、嬉しいぜ」
「え?」


ぽかん、と口を開ける彼に、もう一度繰り返す。


「オレは、嬉しい。ゴールドがオレに勝ったことが。…もちろん、オレは一切手を抜いてない。本気で走った。けど負けた。…それが、嬉しいと思う」
「な…んか、変じゃないッスか?」
「そうか?」
「だって、負けて嬉しいなんて」
「――…自慢になっちゃうけど、オレさ、ここに来て、体育祭とかで負けたことなかったんだ。まぁ、動くのは好きだし、一位になるのは嬉しかったぜ。けど…一人っきりで走るのって、燃えないだろ?本気で走れないまま終わっちまうし」
「…それは、そうッスけど」
「もしかしたら、オレは負けたかったのかもしれないな」


ふと浮かんだそれを、反芻する。
勝ちたいと思うのと同じだけ、心のどこかで負けたいと思っていたのかもしれない。

本気を出して、それでも勝てない相手に出会いたかった。
だから、今は、


「負けて悔しいけど、やっぱり嬉しい。それに…その相手がゴールドで良かった」


本気を出して、それでも負けたことが、すごく嬉しい。
こんなに嬉しいと感じるのも、随分久しぶりのことだ。何年ぶりだろうか。……あぁ、この学園にきてから、初めてかもしれない。


「ゴールド、ありがとう」
「オレも、レッド先輩と本気で戦って、それで勝てて、すごく嬉しいッス。ありがとうございました」





「――…あ、でも明日は別だからな。バトルは絶対に勝つ。オレが負けるのは、これが最後だぜ!覚悟しとけよ、ゴールド!!」





好敵手のいない110メートルハードル走は、一位だった。


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『これより、昼休みとなります。各自、休憩に入ってください。また、昼食場所は……』
一日目 午前 完

 

2009.12.13. up.

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