青い空、白い入道雲。
太陽が燦々と輝く夏空の下、カントー学園では体育祭が開催される。
待ち切れなかった体育会系の生徒が黒板の端で勝手にカウントダウンを始める中、レッド達のクラスでは種目の出場選手を決める話し合いをしていた。
「例年通り、体育祭は2日間よ。1日目と2日目の午前中はクラスと個人競技ね。2日目の午後からは…ホホ、勿論分かってるわね」
教卓の前に立つブルーが、美しく微笑む。
その後ろでは男子生徒が青ざめながら黒板に種目を書いていった。読めなくもないが、字が震えている。
「アタシ達の最後の体育祭よ、優勝以外は万死に値すると心掛けなさい。じゃあ、出たい個人競技を選んで。一つでも良いけれど、自信があったらそれ以上でもいいわ」
レッドは「熱いと過激になるんだなぁ」と思いながら、ぽけーと黒板を眺めていた。
今のブルーを見る限りあながち嘘や冗談では無さそうだが、それは考えないことにする。
グリーンは、と隣の席を見ると、ブルーの言葉には気もかけず、手元の本に目を落としている。
慣れとは恐ろしいものだ。
「さて。レッドは5つ以上出てもらうわよ。それにグリーン、貴方もノルマ5つね。最低でもよ」
「…ブルーは?」
ぺたり、と腕と顎を机に乗せて半目で見上げるレッドには答えず、椅子を横にして座ったブルーは、グリーンの手から本を取り上げた。
眉を寄せるグリーンに、難しい本ばっか読んでるとその内きのこが生えてくるわよ、と返しながらブルーは続ける。
「あら、勿論アタシも出るわよ。そうね、空いた女子競技は全部出てあげるわ。ホホ、今年の優勝クラスには金一封と一人当たり学食無料チケット5000円分よ」
好返事の理由に、ああ、そういう事かやっぱりと納得しながら、レッドは黒板に目をやる。
マンモス校なだけあって種目が多い。
更に、種目名の上には順位による得点が書いてある。さっきまでは無かったから、抜け目のない彼女が書き加えたのだろう。
やはり団体競技の得点が一番大きいが、個人競技の総合得点も優勝するには重大なポイントとなる。
「じゃあ、100と200、あとは…団体の騎馬戦と、クラス対抗のリレー……」
「110メートルハードル、それに得点の高い4×100リレーだな。2日目があるからこれが限度だろう、ブルー?」
「……そうね。グリーン、体力馬鹿の貴方にはロングを任せるわ。400と800メートルね。400のハードル、4×100も出なさいよ。あとは団体とクラス対抗、これで良いわね」
黒板を眺め僅かに逡巡した後、ブルーは深い溜息と共に決断した。
優れた運動能力を持つ彼らは、出ればそれだけ得点になる。
ゴールドらの属するクラスが脅威となった今年、優勝を確実にするには出来るだけ得点を得ておきたいところ。
ゴールド、シルバーの二人ならば女子枠が期待できるが、今年の一年は少人数クラスの研究科生がトレーナー科に交じる。
そのため偶然か因果か、超少女、クリスタルが彼らのクラスに参加するのだ。
まぁ良いわ、金一封と5000千円はアタシのものよ、と微笑むブルーにレッドは曖昧な笑顔を浮かべ、黒板へ進んだ。
一人ずつ、殆どの種目が埋まっている。
その隣に4つずつ二人の名前を書く。ついでにブルーの名前を書こうとして、チョークが止まった。
賞金のことばかり口にするが、ブルーはただ体育祭を憧れ、楽しみにしているように見える。
彼女の過去については、付き合いの長いレッドもグリーンも知らない。
けれど、幼い頃、学校や友達というのは輝きの象徴だったの、と学園への編入が決まった時、二人に向かってブルーは言っていたのを、今だに彼らは覚えている。
「…レッド?アタシ、全部出るって」
「これで十分だぜ。皆やシルバー達の応援も、ブルーの仕事だ。ちゃんと楽しまなきゃ損だろ」
俺たちの最後の夏だぜ、と壇上で笑うレッドを教壇の下から見上げたブルーは、そうね、と微笑んだ。
『シルバー』の名前に、彼女は相変わらず甘い。
黒板にかかれた彼女の名前は3つ。
女子団体も含め、全部で5つ出ることになる。
「優勝は俺たち全員の力で手に入れよう」
クラスメイトの呼応に満足気な笑みを浮かべ、レッドは続けた。
「絶対に優勝するぞ!!」
レッドたちの、最後の夏が始まる。