!お下品注意報!
下ネタが苦手な方はブラウザバックプリーズです。
どうして、こんなことになったんだっけ。
考える暇は与えられなかった。
空気が漏れるような小さな声と、布ずれの音がして、視界に影が掛かる。影を掛けてるのは、 の身体だった。ゴールドが誰よりも焦がれた、 の。暗闇の中でも輝く瞳が、今は薄暗い視界の中、情欲に濡れている。思わず唾を飲み込んだ。あぁ、アンタには全部聞こえているのだろう。もしかしたら、オレの考えていることまでも。心拍音が伝わりそうな距離で見つめ合いながら、オレは動けないでいる。目を、離せないでいる。
「……なぁ、ゴールド」
耳元に口を寄せながら、 は囁いた。耳に感じる吐息に、ゴールドの背中が泡立つ。身じろぐと、ベッドがきしりと小さく鳴った。それを見て、 がくすりと笑う。 はゴールドを見下ろしながら、いままで見たことも無いような笑みを浮かべていた。期待か、それとも先の見えない恐怖にか、ゴールドの身体が震える。それを宥めるように撫でながら、 は再び身を寄せた。
「楽しいこと、しようぜ」
「っだあぁあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「うるさい」
起き上がりざまに高速で飛んできた柔らかい何かに口を塞がれ、ゴールドはもが、と呻いた。
重力に負けてぽとりと落ちたそれを拾い上げてみる。青いペンギンの形をしたそれは、
「なんだこれ、委員長が置いてった人形じゃねえか。……毎度快適な目覚めをあんがとよ。で、いきなりなんだ。ケンカ売ってんのか?」
人形の飛んできた方向を睨む。
しかし部屋の真ん中に置かれたローテーブルで本を読むシルバーが、どこ吹く風とばかりに目線を手元に落としたまま続けた。珍しく、薄いレンズのメガネをつけている。
「うるさいのが悪い。起きるならさっさと起きろ、朝から無駄な労力を使わせるな」
「あ?…あー、もうこんな時間かよ」
枕元の目覚まし時計に目をやって、ごそごそとベッドから這い出す。
とりあえず握ったままだった人形を投げ返してから、パジャマ代わりのTシャツを脱いだ。
朝食の時間まではまだ余裕があるが、何分髪のセットに時間がかかる。うまく決まらなかったら一日ブルーに過ごすことになるのだから、これはちょっとした死活問題だ。時間は、あればあるほど良い。しかし、
「今日ぐれぇ、太陽もゆっくり動きゃあいいのによ。二度寝する余裕もねぇじゃねえか」
その言葉に興味が湧いたのか、初めて顔を上げるシルバー。
当たり前のことだが、寝れば折角決めたセットが崩れる。そのため風邪でも引かない限り、ゴールドは二度寝をしない。そんなゴールドが枕に未練を感じるほどの夢とは、一体。
シルバーは無言で続きを促す。
「はっきりとは覚えてねぇんだけど、なんかすっげぇ良い夢みたような気がするんだよ。ちょっと待て、今思い出す」
ジーパンを履きつつ、ゴールドは今の今まで見ていたものを反芻する。
夢の内容は、なんとなく覚えている。夢特有のトンデモ展開だったために、数珠つなぎに思い起こすことは出来ないが。夢の中の『オレ』が何していたのかは、覚えている。誰かといたのも覚えているが、それが誰であったか、思い出せない。
それにしても、なんともリアルな夢だった。ゴールドは思う。良い所というか、良いトコが始まる直前で終わってしまったのは残念至極だけれど、夢だと気づいた今でもあの撫でる手、吐息の温度を現実のように思い出せるのだ。けれど、一番頭に残ってるのは、熟れ過ぎた果実のような色をした誰かの瞳が、誘うように細められて、――…
「…あー……。シルバー、便所行ってくるわ」
「そのまま逝け」
ゴールドが言外に含んだものを正確に把握して、シルバーが嫌悪するように吐き捨てる。
振り上げられた右手から二発目が発射される前に、ゴールドは玄関のドアを潜り抜けた。我ながら素晴らしい身のこなしだと自賛する。
廊下を一歩踏み出したところで、背後の扉に何かがぶつかる音がした。
……これ、もしかしなくてもオレの秘蔵の一冊がご臨終する音ですか?
巻頭カラーの金髪姉ちゃん、モロタイプだったんだけど。出るとこ出てて、締まるとこ締まってて。もしそうだったらさ、シルバーさん、ちょーっと酷くねぇ?お前がちょっとそこらにいない位には純情なのは知ってっけどよ。
お陀仏になった御本(推定)に手を合わせて、合掌する。お世話になりました、色々と。
廊下には人気がこれっぽっちも無く、静かだ。ゴールドの履いたスリッパのぺたぺたという音だけが響く。
あと一時間もすれば、食堂に向かう住人達によって騒がしくなるのだろう。もしかしたら、地下のトレーニングルームはすでに賑やかかもしれない。それなら風呂場は駄目でもシャワールームは空いているはずだ。頭を冷やすにはもってこいだ。とにかく、さっきから脳内をぐるぐる回ってる映像をいち早く取り除きたい。邪念があると髪は決まらないのだ。
「まぁ、当分はオカズ無しでもいけそうだけどな…」
「オカズ?今日の朝メシは、メザシ、ホウレン草のおひたしに目玉焼き、あと白ご飯と豆腐の味噌汁だってさ」
「あ?……レッド先輩!?」
いきなり背後から続けられた言葉に思わず振り向くと、よ!と腕を上げながらレッドが立っていた。
もう一方の腕に、ファイルを数冊かかえている。
「な、なんでここにいるんスか!?先輩の部屋、2コ上じゃないッスか」
「ちょっと用事があってさ。ま、これで終わりだし、部屋に戻ってもっかい寝るつもりなんだけどな。いつもはもっとギリギリまで寝てるんだ。それにしても、ゴールドがこんなに早起きだとは思わなかったぜ」
偉いなーといつものように明朗快活に笑うレッドから目を背け、ゴールドは後ずさる。
「…ゴールド?」
不審げなレッドにいやいや何でも無いッス気にしないで、そう気にしないで部屋に戻った方が良いッスよグリーン先輩心配してるかもしんねぇしと思いつくままに並べ立てる。
やっべ、なんかマジで勃ってきた…。
「って何でだよ、何にだよ。もしかして……いやいやねぇって、それはねぇってしっかりしろオレ」
「おい、調子悪いのか?」
一人頭を抱えてブツブツ呟き始めた後輩にさすがに困惑して、顔を覗き込む。
そこでゴールドが頬の赤らめていることに気づき、もしかして、とレッドは額に手を伸ばした。そして観察するように、顔を近づける。
「うーん…熱は無いな。けどあんまり調子悪いようなら休んだ方がいいぜ。なんか潤んでるし、目」
「ぅわ、ちょ、レ、レッドさん!」
近い、近いって!!
混乱しすぎて呼び方が昔のものに戻っていることに気づくことなく、ゴールドは逃げるように身を捩る。
「ゴールド、」
「な、なんでもねぇッスから。やっぱ風邪かなんか引いてるみたいッスね、オレ。今日は部活休むんで、その、……じゃ!」
レッドの言葉に被せるようにして、一方的に会話を切る。
もの言いたげに目を細める彼に背を向けて、ゴールドは俯きがちに元来た道を引き返した。
最初は、小走りで。背後から掛けられた声を全て無視するために、終いには全力で走って逃げた。
「……さいあく、だ」
夢の相手が、分かってしまった。
「遅かったな」
「……よぉ」
ドアノブを引き抜く勢いで、扉を開ける。
その先には、数十分前と同じようにローテーブルで本を読むルームメイトがいた。
シャツの肩部分の色を濃く染める、濡れた髪から滴り落ちる雫。
いくら冷水を浴びても、取れなかった頬の熱。
シルバーの姿を目視したゴールドは、急に膝から力が抜けたのかドアに縋るように崩れ落ちた。フローリングに座り込む。
背中がドアノブにぶつかって鈍い音を立てたが、それに頓着せず、ゴールドは意を決するように俯かせていた顔を上げた。
「シルバー…、オレ……」
「……なんだ」
「先輩のこと、」
ゴールドの言葉は、そこで途切れた。気を失ったのである。
そういう目で、見てたらしい、
ピピ、と軽快な電子音が鳴る。
脇に挟ませた体温計を引き抜き、数字をグリーンは読み上げた。
「38.6度。風邪だな」
「やっぱそうだったのか。なんか様子が変だなとは思ってたんだ」
「………」
先輩二人の会話を聞きながら、シルバーは気づかれないように溜息をついた。
そんな大層なもんじゃない、いいとこ知恵熱だろう。寝起きは突然だったが、それでもいつもと全く変わらなかった。部屋に帰ってきたとき、何か思いつめていたようだった。頭を使うなんて似合いもしないことをしただけだ。
「じゃあ、シルバーは今日はオレ達の部屋で寝ること。運良く午前中の授業が自習になったことだし、昼まではオレが見てる。それからは交代で看病しようぜ。一応寮長にも言っとくよ、この調子じゃ普通のメシは食べられないだろうし」
「そうだな」
「オレだけで大丈夫です。寝るのもここで良い。この馬鹿と違って風邪ひいたりしないんで」
「シルバー。ゴールドのことが心配なのは分かるけど、困った時はお互いさまだろ。こんな時くらい先輩を立ててくれよ」
そうじゃない。アンタがいたら、休まるもんも休まらないんだ。特に、そこの馬鹿にとってはな。
無言で訴えるが、先輩には少しも伝わらないようだ。
けれどこんなこと、言葉にしたくない。追及されたらどう答えろと言うんだ。
仮に恥を承知で言ってみたとしても、後から『大きなお世話だっつーの!』と言われるに決まっている。赤面のオプション付きで。しかも同性。楽しいわけがない。
一瞬でシュミレーションを行ったシルバーは、結局自分にとって楽な方を選んだ。
「…じゃ、お願いします」
数日後、学園内で再び元気な姿を見せたゴールドだったが、何故かある先輩を見かけるたび、逃げ回るようになった。
そのまた数日後、今度はどこか諦めたような表情の彼とその先輩が連れだって歩くのが至る所で目撃されるが、二人の間に何があったかは、ルームメイトさえも知らないという。