生徒にとって、授業とは二種類に分けられると思う。
退屈なものと、そうでないものだ。
もしかしたら将来必要になるかもしれないが、興味の無いものは、どうしたって退屈。
そういう時は、思い切って眠ればいいと思う。
その方が、伸び悩み始めた身長にも良い。多分。
自分的には至極納得できる言い訳を思いついて、レッドは毎日居眠りに励んでいた。
隣に座る親友兼ライバルが呆れた視線を投げかけてくるのは、気づいていても無視する。
どうせ、ピンチの時は助けてくれるんだから。
無愛想な面をして、身内には甘い。そういう所は、割と好きだ。
ただ、もうちょっと分かりやすくても良いんじゃないかと思う。
今のところ、彼のことを一番分かってるのは俺らしい。ついでに、俺のことを一番分かってるのも彼だ。
それは嬉しいような嬉しくないような、複雑なところだ。
…そういえば、前にブルーが言っていたな。「あんた達、そんなんじゃ彼女もできないわよ」。余計なお世話だ。
板書を写しながら、グリーンは不自然じゃない程度に、隣の席へと目をやった。
自分の腕を枕にして、すやすやと安らかな寝息を立てている。
時折、瞼がぴくぴくと動いているのは、眠りが浅いからか。
((いつも寝起きに「腕が痛い」と言っていた馬鹿は誰だ))
目線を黒板に戻す。
【カントー史】
そういえば、隣で幸せそうに寝ている馬鹿の苦手教科の一つだったな。と、心中で呟いた。
もっとも、興味が無いだけでやれば平均程度はとれるのだろうが、数学や歴史関係は全て寝ているレッドにそれを言っても無駄である。
もちろん、そこにポケモンが関わると途端に目が輝きだすのだが。
「うむぅ……」
突然発せられた小さな声に、再び隣へと目を向けると、眉を寄せて何やら唸っている。
その声はごく小さなもので、周りの生徒は気に留めていないようだ。
起こしてやる義理はない、と放っておくことにする。
先生といえば、レッドが寝ていることに気づいてはいるようだが、特に注意しようとも思っていないようだ。
いっそ見事なほどにこうして堂々と眠られると、注意する気にもならないのだろう。
一心不乱に黒板へ板書する先生に、少しだけ同情した。
「んぅ……」
グリーンがちら、と盗み見している前で、レッドは、もぞもぞと小さく動くと、再び安らかな寝息を立て始めた。
童顔だと囁かれる彼が、さらに幼く見える。
ふっくらと丸みを帯びた頬、長い睫毛。薄く開いた口。
((……ッ、馬鹿か俺は!!))
無意識とはいえ彼をずっと見ていたことに気づいて、慌てて目線を離す。
黒板に目をやると、随分進んでしまっていた。
咄嗟にシャープペンシルを持とうとしたが、指から滑り落ち、挙句の果てに床へと落ちてしまった。
シャーペンを拾いながら、グリーンは背中を流れる冷たい汗を感じていた。そしてなんだか泣きたい気さえする。
((なんださっきのは…))
レッドが授業中に眠るのは、いつものことだ。
それを横目で見るのも、いつものことだ。誰だって隣の席の住人が寝ていたら少しは気になるだろう。
眠る姿を見るのも、初めてではない。何故なら、毎朝彼を起こすのは自分の役目だから。でないと朝から食事を取り損ねてしまうのだ。
ぐるぐると回る思考。
それに反して滑らかに動く右手。白紙だったページがカントー史で埋まっていく。
常に冷静を装える自分の癖を、この時ばかりは感謝した。
『仮面』を見抜けるただ一人の人間は、現在爆睡中である。だから誰にもバレはしない。
「レッド、起きろ」
顔を上げると、緑色の瞳が見下ろしていた。
いつのまにか顔を埋めていたノートが、ぺり、と音をたてて、頬から離れていく。
「んぁ…あぁ、グリーンか。お、もう昼休みじゃん。飯食おうぜ」
「ああ、…そうだな」
「……ん?なぁ、グリーン。俺になんか隠してる?なんとなくだけど、いつもと違うぜ」
別に、何も隠してなどいない。とそっぽ向く彼に、ふぅん、と呟いて、立ち上がる。
学ランの尻ポケットに財布を入っているのを確認して、教室の扉へと向かった。
今日は学食の日だ。偶には弁当も作るけれど、それは朝早く起きることの出来た日の話。
扉を潜り抜けて、廊下を歩く。
生徒の数は多いけれど、全員を賄えるほど、学食の数も多い。
よってそれほど急がなくてもいいが、成長期の体は「早く栄養素を」としきりに訴えている。
「まぁ、俺にどうにかできるなら言ってくれよ」
「だから、何でもないと言っているだろう!」
むす、と不機嫌そうに顔を歪めるグリーンに、分かった分かった、と返す。
機嫌が良くなっているようには見えないが、何も言ってこないからもう良いのだろう。
まったく、お互いのことが一番分かる、という機能も考えものだ。
「んー、今日は焼肉定食にしようかなー」
中等部のレッドは、ちょっと経験値の高い体育会系、のイメージです(どんなだ