想像以上




レッド先輩は、学校の先輩で、部活の先輩でもある。
でも『先輩』と呼び始めたのはもっとずっと前、オレが旅をしている時に、夏休みを使って武者修行にジョウトへ来ていたレッド先輩に偶然会った時からだ。
だからトレーナーとしても先輩で、その日、オレがカントーを旅をしていた時のことを無理に聞いてみると、照れながらもポケモンリーグで優勝した時のことを教えてくれた。

それは旅を始めたばかりだったオレにはとんでもなくワクワクする話で、いつかこの人のようなトレーナーになりたいと心底思ったものだ。

だから何度もバトルを求めたけれど、毎回「お前がもうちょっと強くなったらな」と笑ってかわされた。
その時はポケモンも2匹しか持っていなくて、しかもまだ進化すら出来ないレベルだったから、チャンピオンの彼とはあまりにも格が違うのは分かっていた。それほど彼のバトルは凄かった。相手は野生ポケモンだったけれど。

でも、お互いにトレーナー。それにカントーとジョウトじゃ遠すぎる。
だから一回だけでも、と強引にお願いしたけれどやっぱり断られた。「お前が一人前のトレーナーになったら、きっとまた会えるぜ」。がっちり握手した。プテラに乗って、大空の彼方に消えた。去り際まで無駄に格好良かった。


そんなわけで、レッド先輩はオレの憧れだった。





夢にまで見た再会は、思わぬ場所でだった。



カントーの学校に通うというシルバーの突然の発言に、『もしかしたらどこかで会えるかな』なんて思ってオレも行くことにした。
そしたらクリスも行くと言った。オーキド博士とかいうすごいじいさんに会いたいらしい。オレとは違って動機が真面目だ。
シルバーは姉さんに会いたいかららしい。オレは何も言わないことにした。

学校に行っている、とは言っていたけれど、どこの学校かは知らなかった。
こんだけ強いのに学校なんて行かなきゃいいのに、なんて思って聞かなかった自分を、後になって馬鹿ヤローだと心の底から後悔したけれど、それは後の祭りというやつだ。


そんなこんなで、ワカバタウンから遥々カントーへ。


長くてかったるい話が延々と続く入学式。
まぁこれはお決まりってやつだから仕方がない。
オレだって入学早々『問題児』扱いされたくないのだ、聞いてるふりをして寝てた。幸い入学者の数が多くて教師にはバレやしなかった。

そこで本格的に眠ろうかと快適な姿勢を探し始めたとき、耳に入った言葉。


「新入生歓迎の言葉 在校生を代表して、高等部一年…」


司会者には悪いが、そこまでは聞き流してた。


「レッドさん」


――叫ばなかった。思わず腰は浮いたけれど。この時ほど自分を褒めたいと思ったことはない。だって騒いだらあの人に迷惑がかかる。


なんでも中等部の生徒会長以下生徒会が、前日食当たりで倒れたらしい。
そこで困った先生たちが、高等部だけど知名度だけは誰よりも高い、チャンピオンことレッド先輩に代役を頼み込んだそうだ。
お礼はゴンことカビゴンのメシ代一か月分と、高等部の入学式の出席免除。レッド先輩は即決だった。


まぁこれは、後々になって部活の休憩時間にこそっと教えてくれたことだ。内緒な。




そんなこんなで、腹痛と称して入学式を途中で抜け、高等部へと向かうレッド先輩に文字通り飛びついたわけだ。
中等部と高等部は結構離れてるからもう会えないかもしれないと思ったし、同じ学部だなんてそん時は分からねぇしな。

レッド先輩は始めびっくりして、それからきょとんとしてたけど、すぐにオレのことを思い出してくれた。
んで、「強くなったか?」ってあの時と同じ笑顔で笑って、それで、「俺とバトルしたいなら、トレーナー部に入るといいぜ」と言って肩を叩かれた。
それから、レッド先輩は遠くに立っていた誰かに向って走っていった。それから一緒に歩いていった。


オレは、隣を歩くことなんて出来なかった。少しだけ後ろを歩いて、「どうした?」って振り向いてもらえることを情けない顔で待ってるしかなかった。
その間、格の違いってやつをオレはずっと感じていた。だからずっと修行して、大きな敵とも戦った。けれどレッド先輩の姿は、オレがどんなに頑張ってもその分前に進んでいて、どうやっても追いつけなかった。それが、この二年間。


トレーナー部の入部試験は何かと面倒だったが、憧れの先輩にもう一度会うため、バトルしてもらうため、とこれくらい我慢した。
バトルじゃ負けなかった。オレの目標はあの人なんだ。ずっとあの人を目指して修行してきたんだぜ。悪いがお前ら俄かトレーナーとはレベルが違う。

結果、百人以上いた希望者のうち、オレとシルバーとクリスが新入部員となった。
新入部員が3人もいるのは3年ぶりらしい。3年前は、レッド先輩が入った。それと、シルバーの姉さんと、レッド先輩のライバル兼親友のツンツン頭。


それからは何度もバトルを受けてもらえる。的確なアドバイスだってもらえる。
だけど、オレは一度だってレッド先輩に勝つことが出来なかった。


バトルはしてもらえる。レッド先輩や他の先輩に成長した、と褒められることもある。
けれど、アドバイスをされる度に、オレではレッド先輩の100パーセントの本気を出させることが出来ない、と気付かされてきた。余裕がなければアドバイスなんて出来ない、とはシルバーの弁だ。

レッド先輩の本気を引き出せるのは、ツンツン頭ことグリーン先輩だけ。
瞳の輝き、纏う空気。グリーン先輩とバトルする時の『レッド』は、何度挑戦してもオレの前には現れてくれない。


たった3年間のスタートラインの差。

それは、決して近づけない大きな壁となって、何年もオレの前に憚っている。



だけど、いつまでもこの立場に甘んじているつもりもない。
レッド先輩は、新米トレーナーだったオレ、そしてジョウトのチャンピオンになったオレの、ずっと変わらない憧れだ。けれど、絶対に越えてやる。オレのゴールラインは、もっと遠くにある。


そして、到達したその時は、自信満々にレッド先輩の隣を歩く、それがオレの目標。
その日まで、


「せーんぱいっ!明日、オレと二人で遊びに行かないッスか!?」

密かに牙を研いでいるんで、精々油断しててくださいね。

 

2010.10.07. up.

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