ある夫婦の話




「フッシー、はっぱカッター!ニョロ、れいとうビーム!……今だピカ、10万ボルト!!」
「ピィカ…チュー!!」


マサラタウンの外れ、大きな岩が散在する草原の間を、電撃が走った。
眩い光と煙が晴れると、粉々になった石。そして黒こげになった丸太が転がっている。


「よしっ!次は…ゴン、プテの番だ!!ゴン、あの岩に向かってメガトンパンチ!プテはとっしんだ!!」





一通りの技を全て出して、自分のポケモンのコンディションをチェックする。
日課となったそれに、明日は新しいトレーニング方法を実践してみようか、と考えながら、木にもたれ、タオルで頬を拭った。

見上げれば、昼を少し過ぎた太陽の光が、葉っぱの隙間からきらきらと降り注いでいる。
もたれながら、その光を眺めた。



一時に比べ挑戦者は随分減ったけれど、それでも全国の猛者が自分に挑みに来る。
負けてやる気は更々無いけれど、やっぱり一番燃えるのは、グリーンとのバトル。

出来れば、いつもいつでもアイツとバトルしたい。
けれど、肝心のグリーンはジムリーダーとして、いつも缶詰状態だ。

最後に顔を見たのは確か1ヶ月前。
バトルしたのはそれより更に1ヶ月前だ。


…電話はしてるけど。でも電話すら時々だ!

『恋人』としては、毎日とは言わないが(本当は言いたいけど!)1週間に一度くらいは会いたいのだ。


「グリーン…会いたいなぁ……バトルしたいなぁ…」


ぽかぽか暖かい陽気に包まれて、頭がぼぅ、っとしてくる。
しだいに落ちてゆく瞼。


「ピー…」
「んー…どうしたピカ……」


温もりを膝の上に感じて、重い瞼をこじ開けると、ピカが乗っかっていた。
レッドにつられたのか、とろんとした目をしていた。


「こんな良い天気だもんな。…みんな、出て来い!!」


その言葉に、ボールから5匹のポケモンが飛び出してくる。

フッシー、ニョロ、ゴン、プテ、そしてブイ。

ギャラは現在カスミに預けてある。
新しい水路をハナダシティに作るのにギャラちゃんの力が必要よ、だから貸して!とのことだ。


「トレーニングはここまでにして、今日はひなたぼっこだ!」


レッドの言葉に、喜びを顕にするポケモンたち。
トレーニングも嫌いじゃないけれど、レッドのすぐ傍にいる方がもっと楽しいし幸せなのだ。


「じゃあみんな、明日からも頑張ろうな。…ふぁ……おやすみー…」



3秒後、くぅ、と寝息を立てるレッドをちょっと眺めて、そろそろと眠りの体勢を作る。
おやすみ、と心の中で言って、ポケモンたちも瞼を閉じた。










「んぅ…ニョロぉ……きあいパンチだ………ん?」

目が覚めると、草原ではなく、ベットの上に横になっていた。
瞼を擦りながらきょろきょろと目を巡らして、自分の家でも無いことに気付く。

「…んー…ここって」
「起きたか、馬鹿レッド」
「起きた。…って、あれ、グリーン!?」


『馬鹿』という言葉に言い返すのを忘れ、ぱちぱちと瞬きする。

何度瞬きしても、目の前の光景は変わらない。
ベットの隣に置かれた、背もたれの無い丸い椅子にグリーンが腰掛け、手元に視線を下ろしている。

手には分厚い本。
中ほどまで読み進められているらしいそれは、レッドが寝ている間、隣でずっと読んでいたということか。


「なんでここに…って、おい、ここって!?」
「俺の部屋だ」
「そうそうグリーンの部屋…って、何で俺がグリーンの部屋のベットに寝てるんだ?それにお前、ジムの仕事は?あと俺のポケモンは?」


止まらない疑問を投げかけるレッドに、煩い、と一刀両断。
むぐ、とレッドが押し黙ると、ベット脇のサイドチェストに本を置いて、グリーンはレッドに向き直った。

ベットの上で胡坐を掻いて、グリーンを見上げる。


「いつもより早くジム業が終わった。マサラに帰る途中でお前を見つけたが、どれだけ殴っても起きなかったからここに連れてきて寝かせたのさ。お前のことだ、腹でも出して風邪を引くだろうからな。お前のポケモンは、回復中だ」
「そっか、ありがとな。……久しぶり、グリーン。ま・さ・かの1ヶ月ぶりだぜ」


1ヶ月、を若干強調して、にっこり笑いかける。
それに目を背けて、悪いとは思っている、と小さくかえってきた返事に、本当かよ?と切り返す。


本当は。
本当は、会おうと思えばもっと早く会えたはずなのだ。

それなのに、周りの心配の声を無視して、レッドとのつかの間の逢瀬の時間を削って、グリーンはジムの仕事に掛かりきりになっている。
こうして半日でジム業が終わらない限り、ジムで生活し、マサラタウンに帰るのも数ヶ月に一度。

まったく、責任感がありすぎるのも考えものだ。とグリーンと付き合いだしてから何度も呟いた言葉を、今度は心の中で呟いて溜息をつく。
そんなグリーンだから、これまでレッドは思っても決して「会いたい」などと口に出来なかった。

だけど、今は久しぶり…本っ当に久しぶりに会えたのだ。
少しくらい恨みごとを言っても良いだろう。


「…というわけで、俺、グリーンに三回まわってピカチュウって言って貰わなきゃ、なんだか気が収ま…」
「レッド、会いたかったぜ。愛してる」


はいぃぃぃぃ!?

いつの間にか椅子から立ち上がったグリーンに抱きしめられ、レッドは心中で絶叫した。
思わず身を引こうとするが、さらに腕に力を込められて動くことも儘ならない。

なんだこの展開は。
てか、こいつ人の話、聞いてたよな!?


「ちょ、っと!グリーン!!」
「なんだ」


近づく顔を思いっきり押して、声を張り上げる。
むす、と眉を潜めたグリーンに、一瞬力が抜けそうになるが、思い直して更にぐぐ、と押す。


「お前、疲れてるんだよな?そうだよな!?なら寝た方がいいって!ほら、俺すぐ退くからさぁ…ってあれぇ!?」


気がつけば、視界いっぱいにグリーンの顔。
ツンツン頭の向こうに、天井。むかつくくらいに白い天井が見えた。


「ちょ、何だこれ」
「人の顔見てこれとは何だ。…それにお前が言ったんだろう?『寝た方がいい』って」


意味が違う!!


「じゃ、じゃあ、みんなが!!てか、んな元気あるならバトルしようぜ!!」
「お前のポケモンはおじいちゃんの所だぜ。バトル?…するぜ、これから」


確信犯かよ!?というレッドの叫びは、音になること無くグリーンの口の中に消える。





1ヶ月分愛してやるから楽しみにしろよ、という声を遠くに聞きながら、レッドの意識は暗転した。

 

2010.06.19. up.
1ヶ月間会えなくて、グリーンのネジがどっか飛んでったという話。

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