「……、どういう意味?」
「正確にはの魂を持つ人間、だがな。この世界には二度と『暗黒の未来』は訪れない。
しかし、ダークライの野望を阻止できぬ世界が存在する以上、一度救われた世界であっても、『未来からの使者』の候補は常に生まれるものなのだ」
「ちょ、ちょっと待って…ついてけない」
伝えられた言葉を、噛み砕いて頭に入れる。
けれど、いくら粉々にしてみたって、まるで理解できない。
『未来からの使者』というのがというのは分かる。
そんじょそこらの探検隊とは比べられないほど各地を回ってきただが、未来から来たニンゲンが他にいるなんて噂だって聞いたことがない。
が知る限り、時を渡れるのはディアルガとセレビィだけ。
どちらも伝説や神と呼ばれるポケモンだ。
例えばは『時空の叫び』という能力を持っていたけれど、それは未来や過去を見るだけのもので、しかもモノやポケモンを通してのみ発動する制限つき。
実際にニンゲンを見たことはないが、時を越える能力なんて持ってるはずがない。
「平たく言えば世界は一つでないということだ。パラレルワールドという言葉を聞いたことがないか?可能性によって無限に増殖する同時平行な世界が、」
「ススス、ストップ!!難しいことは分かんないよ!でも、未来って先のことでしょ?なんでが生まれてるの?まだ生きてるじゃないか」
「オマエには理解できまい、しかしそういうものなのだ。あのダークライも、未来からたちが来ることを察知していただろう?」
ディアルガは言う。
《でない別のポケモンがダークライに打ち勝ち、世界を救う世界》
《未来から来た人間とそのパートナーが時の歯車を集め、星の停止を止める世界》
《闇のディアルガやダークライに敗れ、暗黒に包まれる世界》
この世には無数の世界が同時に存在し、その内いくつかの世界はダークライの陰謀によって危機に陥る。
そうして起こった事件全てに、未来からの使者が関わっているのだと。
「勘違いするな。納得させるために話したが、オマエの世界はここだけだ。オマエに関係しない世界に目を向ける必要などない」
…分かったような、さらに分からなくなったような……。
でも、確かに、未来からのようなニンゲンが来るって知っていないと、ダークライは攻撃なんてしなかっただろう。
「……でも、未来が分かってるんだったら、ディアルガなら対策できたはずでしょ?」
「わたしは全知でも全能でもない。全ての世界をダークライから護ることなど出来ないのだ。そのための『未来からの使者』だ」
時や空間を司るディアルガやパルキアは、世界がいくつあろうと存在するのは一体だけ。
しかしダークライ、クレセリアなど創世に関わらぬものはそうでない。
『未来からの使者』はもちろん後者だが、少し特殊で、一つの魂が循環…輪廻する。
使者としての役目を終えた後は、次の危機に備えて人間の母体に宿り、十月十日を経て、また新たに人間として生まれる。
「この世界の使者は『未来の使者』としての役目を終え、すでに『時空の叫び』を失っている。だから次の使者が生まれるのだ。――この輪廻を弄ることは、創世の神以外には出来ない」
「でも、生まれたばかりだったら赤ちゃんだよ?」
「先ほど言っただろう?候補だと」
一世に一人、それも人間として生まれたのでは、幼なすぎる、病弱、何らかの理由で死亡した直後など、危機が起きたとして使者が過去に行くことさえできない状況が起きるだろう。
そのため、『使者』になる能力をもつ人間はただ一人でなく、複数いなくてはならない。
――…仮に、世界がたった一つであれば。
未来は一つの『今』から複数派生するものであるから、派生した世界の数だけ使者として魂を引き継ぎ、何らかの能力をもった人間がいる。
事件の起こった世界には、その内一人が過去に送られてくるわけである。
セレビィやディアルガの力では一つの世界の行き来しかできないが、パルキアの力を合わせれば、空間を越え、違う支脈の世界に行くことも不可能でない。
そのために、一度救われた世界であっても、使者が生まれるのである。
「だから本来あの時は消えるべきであったのだ」
ディアルガは更に続ける。
どの世界の候補者にも、はじめから未来の使者として使命観があるわけでない。
しかし使者として生まれた以上、本人の意思と関係なく、必要となれば必ず過去に跳ぶ。まるで運命に突き動かされるように。
歴史が変われば、未来は無かったことにされる。未来に生きていたモノたちは、必ず消える。
どのように消えるかは、それを見ることが出来るディアルガ以外に分からない。
未来のものは、自覚せぬままに消える。けれど過去に跳んだものは、自分が消えることを知って跳ぶ。それはとんでもなく恐ろしいことだろう。それでもとジュプトルは納得して時を渡ったのだ。
「ニンゲンだったころの記憶が無いも、消えることに納得してたね…。でも、ディアルガはが消えないようにしてくれたじゃないか」
「わたしはが消える『時』を伸ばしたに過ぎない。が…いや、未来からの使者が、初めて生き続けたいと望んだのだ。それも、オマエと共に生きたいと…。叶えてやらねばと思わずにいられなかった。
だが、今から考えると、早計だったのかもしれない……。わたしの話は以上だ。あとはオマエが判断してくれ」
がそんな風に思っていたなんて、初めて知った。
もっと優しくすればよかった。もっとと一緒にいてあげればよかった。もっと話を聞いてあげればよかった。はぼくのことをおもってくれてたのに。もっと、もっと、もっと…っ!
「ディアルガ、は……ぼくの親友のは、消えるしかないんだね?」
震えつつ、しかし確かめるようにゆっくり発せられたの声に、ディアルガは項垂れながら深く息を吐いた。
「カイ…、すまない。わたしの力では、これ以上をこの世界で生きさせることが出来ないのだ。今でもわたしは、オマエたちはこの世界にとって必要だと思っている。しかし、わたしの力をもってしても、この世界が本来あるべきであった未来に作り直そうとするのを止められないのだ……。
…容態が悪くなることはないと言ったな。は、これから眠り続けるだろう。最後まで……。 オマエはあの時悲しみながらもの意思を継ぎ、消えることを受け入れていた。しかし、わたしがを生き返らすようなことをしたためにオマエは希望を、「ディアルガ!!」
自分を責めるように言い募るディアルガを、は強い口調で止めた。
「ぼくは、ディアルガにすごく感謝してるよ。がこの世界で必要な存在だって言ってくれたのも嬉しい。が帰ってきて、あれからプクリンのギルドを卒業して、ふたりでサメハダいわで生活して、新しい仲間も増えて、探検して……。すごく楽しかった。きっとも感謝してるよ。あのとき、を生きさせてくれて、ありがとう。本当にありがとう」