いずれ来るだろうとは思っていた、とを見るなり彼は言った。
「――という感じに、命ガラガラ登ってきたんだ」
「命『からがら』だ。……まったく、わたしが気づかなければ、オマエは今に死んでいただろうよ」
「うん、『ふっかつのたね』もあと二つだったし…、助けてくれてありがとう」
単独で幻の大地、そして次元の塔へと進んだ。
モンスターハウスに一度ならず踏み込んだり、自分にとって不利な『たま』を使われるなか、残り少ない物資と体力を気力だけでカバーし、足を動かした。
しかし最上部までわずかというところで運悪く縄張り争いに巻き込まれ、正直命を覚悟した矢先。
の命を救ったのは、鶴の一声ならぬ、ディアルガの咆哮。
プレッシャーのあるそれにポケモンたちが怯え、慌てふためいている隙に現れたディアルガの配下たちに連れられ、は今こうして塔の最上部で彼の前に座り込んでいる。
なぜこのような無謀な真似を、と問いかけるディアルガに、ここまで来た理由を呼吸を落ち着かせながらが語りだす。
そうこうしている間にも、の前には瑞々しいリンゴや色とりどりのグミを山のように盛った籠が次々に運ばれてくる。
ディアルガの命ではない、が来たと聞いて、階下の住人達から勝手に届けられたものだ。
おおむね平和になり、かの事件が過去となった今でも、一番の影響を受けた地域にはとのことを世界を二度も救った英雄として崇めるポケモンは根強くいる。
それでもぱっと見では正義の心をもった探検隊か、野心に満ち溢れた盗賊かは判別がつかないために、はこうして消耗してはいるけれど。
ここに山になった贈り物の中には、気付かずに攻撃したお詫びの気持ちを込めたものも入っているだろう。
住処を護るのは生き物の本能なのだから、が彼らを恨むことはありえないのだが。
届け物は以上です、とドータクンたちが一礼して去る。
それを見送ってからは山を指差した。
「これ、食べていい?」
指差しながら、窺うように見上げる。
5メートル超あるディアルガ相手だと、見上げるだけでも精一杯だ。
「好きにしろ、全てオマエのものだ」
「ありがと。いただきます」
神さま相手にぼくもずいぶん図太くなったものだなぁと思いながら、はパクつく。
メタグロスの群れをはじめ、様々なポケモンに襲われた時から『つうかスカーフ』を使って逃げ続けたために、おなかが減ってしかたがなかったのだ。
これから彼に話をつけなければならないのだから、そのまえに少しでも満たしておきたい。
昔から腹が減っては戦は出来ぬというし。
出来ればディアルガと戦うことなく、穏便に終わらせたいけれど。
「…気が立っていただろう」
「?」
とりあえず一山制覇して、腕に滴ったリンゴの汁を舐めていると、ディアルガが口を開いた。
「幻の大地からここまで、オマエは何度群れに襲われた?」
「えっとー…、」
「許してやってくれ、気が立っているのだ。原因は取るに足らない違和感だ。だがこの島に生きるポケモンにとっては十分警戒に値する。群れを作らない種族のポケモンが、今は群れで生活している」
いきなり何を言い出すのか、とは首を傾げ、手にしていた不思議な色のグミを籠に戻す。
たしかに問答無用で襲われたような気はする。
以前のままの幻の大地・次元の塔であれば、ほどの実力者であればたとえ一人であっても十分登頂できたはずだ。無事でいられるかはさておき。
ディアルガの助けが無ければ命を失うほどのダンジョンでないのは間違いない。
何か原因があって、気が立っているというのも分かる。
しかしそれがとどういうつながりがあるのだろう。
が眠りから覚めない理由と、この地域に生きるポケモンたちが苛立っている理由が、同じ問題と言うの?
「本題に入るぞ。オマエがここに来た経緯は先ほど聞いた。が目覚めないのはわたしが関わっている、と推測したのだったな」
「うん」
「答えはイエスでもあり、ノーでもある」
どういうこと、とが尋ねる。
いずれ来るだろうと思っていたと言っていたから、ディアルガが関わっていることは間違いないと思ったのだが。
「まず、の眠りはダークライによるものではない。わたしの、をこの地に留める力の供給が止まったわけでもない。
――…『冬眠』というのも言い得て妙なものだな。間違ってはいない……生命を維持するだけのエネルギーが足りないために、は眠りについているのだ」
ハピナスの推測は正しかった。
けれど、それだったら、ディアルガは直接関わってはいないんじゃ。
「わたしが関わっていることは確かだ。のことは心配だろうが、これ以上容態が悪くなることはない。さて…どう説明したらオマエは納得するだろうな」
「じゃあ、まずはが今どんな状態なのか、詳しく教えて」
容態まで断言するディアルガならば、ハピナスの診察以上のことを知っているだろう。
「……、どちらの『』だ」
「?どっち…って、はひとりしかいないよ?」
そこだ、とディアルガが嘆息する。
「率直に言おう。――未来で、が生まれたのだよ」