来客を知らせる合図。
既にコータス長老からは「腰痛を患ってのう…、着くのは早くても明日以降になりそうじゃ」と返事が来ているから、来客は残るひとりである。
プクリンの昔からの知り合いだとペラップが説明した医者は、遠巻きにするギルドメンバーの視線を受けて、ハピナスと名乗った。
ふわふわの体毛、プクリンと良く似た色彩をした、大柄なポケモン。
わざわざ入り口まで迎えにいったペラップに連れられて登場した彼女は、部屋の真ん中で眠るを見るなり、きりりと表情を引き締めた。
失礼ながらプクリンの知り合いだというからどんな人物…ポケ物かと思ったが、やはり医者は医者らしい。
扉の隙間から覗き込んでいたメンバー達はその表情にとりあえず一安心して、彼女のために、寝室の準備にとりかかることにした。たぶん泊まってもらうことになるから、はプクリンの言。
再び静かになった部屋で、ハピナスはの眠るベッドに歩み寄り、肩に掛けていた診療鞄を下ろした。
そこから聴診器を取りだし、の身体に当てる。
二、三箇所当てたかと思うと、今度は手で触れて、なにかを確かめているようだ。
医学的知識を少しも持っていないには、何をしているのかさっぱり分からない。
「どう?」
しばらくしてふぅ、と息を吐きながら聴診器を仕舞ったハピナスに、プクリンが声を掛ける。
「心配ない、って言ったら医者失格かしら。でもどこかが悪いわけではないわ」
「じゃあ今のはどういう状態なの?ハピナス」
「思い当たるものはあるわ。冬眠っていうの。ポケモンの中にはね、寒くなるとこうやって眠って、冬を越す種族がいるのよ。けどこの子は違うわねぇ。この種族が冬眠するなんて聞いたことないもの。第一今は冬じゃないし」
「とう…みん?それは、こんな風に眠るものなの?」
の素朴な疑問に、ハピナスは微笑んで答える。
「ひとえに冬眠といっても、色々な場合があるのよ。たとえばリングマのように何匹かで穴にこもるけれどちょっとの刺激ですぐ目覚めるポケモンもいれば、気温と同じくらいに体温が下がって、春になるまで起きないポケモンもいるの。この子はまだ何とも言えないけれど、こんなに騒がしくしても起きないんだから、とりあえずリングマタイプじゃなさそうね」
それにこんなに可愛い子とリングマを一緒にしちゃいけないわよね、と茶目っ気たっぷりにウインクを飛ばすハピナス。
は答えに窮して、曖昧に笑ってみせた。プクリンは、と横目で見てみると、完璧に流している。なんとペラップもだ。昔からこういう性格なのかとは心のメモ帳に書き加えた。
「ひとまず暖かくしてあげよう。でもハピナス、冬眠はどういう理由でするものなの?」
「たとえばね、体温を保つには大量のエネルギーがいるのよ。だからわたしたちはエネルギーを得るためにご飯を食べるの。でも、食料が少なくなる冬は、必要なエネルギーが簡単には摂れなくなるわよね。そのために冬の間眠ることで、エネルギーの摂取が少なくてもすむようにする……、と言われているわ」
「でも、はちゃんとご飯、食べてたよ?朝と夜はぼくが見てたし、昼はガルーラおばさんに任せてたから、ご飯を抜いたりなんてしてないはずだ。眠ってたらエネルギーをあまり使わずにすむんでしょ、だったらむしろ余るくらいじゃないの?」
「そうよねぇ、……」
ハピナスがの頬をつつく。
顔色は悪いし体温も低いけれど、ガリガリにやせ細っているわけでなく、見た目はいたって健康体だ。
ハピナスはもっと多くのことが分かっているのだろう。その結果、『どこかが悪いわけではない』と言っているのだ。隠し事をするようには見えないから、本当にそうなのだろう。
「では、反対に考えてみるのはどうでしょう。たとえば、大量のエネルギーが必要になる、また別の理由があるとかですね」
「エネルギーの必要な理由……うーん、うぅぅぅん……」
プクリンがより深く悩むのにつられてか、声が低く、地を這うようなものになっていく。
次第にピリピリと地面が揺れ始めるが、あわてて「おやかたさまー!」と声を掛けるペラップにも気づかず、更にハイパーボイスが膨らんでいく。
宝箱から物が溢れ、壁に掛けた布が落ちる。
あまりの揺れに思わず膝をつくの隣で、ハピナスがニコニコと笑った。
「あらあら。相変わらずね」
「ちょっとプクリン!止めてー!!……ん?」
ふと過ぎった変な感覚に、は動きを止める。
こんな揺れ、前にも体験した。
どこでだっけ…?考えようにも、揺れが邪魔をする。
――…今はどんな小さな情報でも必要なんだ。思い出さなきゃ。でも…ええと……
目を閉じる。真っ暗だ。地面が、空気が揺れる。全身で感じる。
見上げれば今にも落ちてきそうな岩が……
……あぁ、あれは塔の最上階だ。
あの時、どうして揺れが止まったんだっけ。どうしてはまた戻ってこれたんだっけ。全部思い出さなきゃ。セリフひとつひとつ、……
「……、そんな、まさか、」
「え、なに?」
ペラップの必死な声にはまるで反応しなかったのにの呟きには気づいたらしいプクリンが、地響きを止めて聞き返す。
がうん、と頷いて、顔を上げた。
「…プクリン、ぼく、分かったかもしれない」
「ほんと?」
「本当か!?」
「次元の塔にいってくる。たぶん、ディアルガの力が弱まってるんだ」