帰り道、進路について考える。
この街の多くの子は、彼と同じようにポケモンと共に旅に出るのだろう。マサラタウンには何も無い。働く場所なんて無かった。
だからほとんどの子どもはポケモントレーナーとなってこの街を出ていく。
けれどは彼らと同じ道を辿ることが出来なかった。
には、ポケモンが怖くて仕方がないのだ。ポケモンに接する仕事につくことは出来ない。けれどそんな仕事、どこにも無かった。
この世界はポケモンと共生しなくては生きていけない。
ポケモンが怖くて近づくことさえ出来ないは、世界からはみ出したままどうすることもできなかった。
生まれた頃からそうだったら、まだ諦めがついただろう。しかしそうではなかった。
昔は大好きだった。娯楽施設の無いマサラタウンにはポケモンと同世代の子ども以外に遊び相手がいなくて、達はいつもポケモンたちと遊んでいたのだった。
けれどある日、は事件に巻き込まれた。
見たことのない格好をした男達が森で何かをしているのを偶然見つけてしまったとき、はその男達のポケモンに襲われ、一命は取り留めたものの生死を彷徨うことになった。
その事件がトラウマとなってどうしても彼らに近づくことが出来なくなったのである。
当時はポケモンの写真を見るだけで、失神するほどであった。自分を襲ったポケモンとは違う種のポケモンであっても同様だった。
ポケモンが助手をしているから、と隔離病棟に入れられ、狭い病室でショック症状が落ち着くまで薬と飲食物を渡され何日も一人きりにされたこともあった。物心ついたばかりの子どもには耐えられるものではなかった。
面会が許されるようになってから母は毎日来た。
けれどの扱いについては何も聞かされていなかったようで、「看護婦さんは優しい?お医者さんの言うことはちゃんと聞きなさいね」と優しい顔で言ったものだった。
幼心に言ってはいけないと思ったは、今もそのときのことを誰にも伝えてない。
いっそ死んでしまえば楽になると思ったときも一度ならずある。
けれどその度に幼馴染の姿が頭にちらついて、一線を越えることは出来なかった。
ポケモンが大好きなくせに、私に会うときはポケモンの話を一切しなかったあいつ。
事件のフラッシュバックで苦しむ私を、必死に抱きしめてくれたあいつ。
彼のおかげで、は小さなポケモンであれば少し距離をとれば眺められるようにはなった。彼が迎えに来てくれるから、学校に行けるようにもなった。彼には感謝してもし尽くせない。
でも、あいつはもうこの街にはいない。
には二人の幼馴染がいる。
キザったらしい一人とはあの事件以降疎遠になり、半年前に旅立ったきり噂も聞かないが、もう一人の幼馴染とは今でも連絡を取り合う仲だ。
一週間前にも、休火山のある小さな島にいると電話があった。
でも、とは思う。博士とはテレビ電話で話すくせに、私には普通の電話しかしてくれない。
それはがポケモンを見ることが苦手だとを知っているからこその配慮だろう。
彼が電話をかけられるのはポケモンセンターしかないのだから、テレビ電話を使えばどうしたってポケモンの姿が映ってしまう。普通の電話を使うのは、彼の気遣いだ。
…そんなことは分かっている。でも、もう半年もあいつの姿を見ていないのだ。
「…会いたい」
今まで何度思っても決して口に出さなかった気持ちが、言葉になって零れ落ちる。
一度口に出せば、決壊したダムのように感情が溢れた。
「会いたいよ、サトシ…っ」
けれど、彼はこの街にいない。