突然だが俺は今、イッシュの玄関ことホドモエシティにいる。
ホドモエシティは別名から分かるようにイッシュ一の交易港を有する街で、人も物もポケモンも、多くが行き交っている。
作業員や交易商らしき風貌のいかにもな男たちと屈強なポケモンの姿、コンテナが積み上げられた埠頭からは磯臭さ油臭さが漂う光景は、イッシュ一の娯楽都市といわれるライモンシティで生まれ育った俺には見慣れないものばかりで、物珍しさできょろきょろとしてしまう。
とはいえ、俺は観光で来たわけでなく、卒業前のちょっとした小遣い稼ぎとして登録したアルバイトのために、ここに派遣されたのである。
「お疲れ様でした。それでは次行きましょうか。ともに戦うポケモンを選ぶドキドキなクジを選んでください」
「そうですね……。では、真ん中で」
いずれはイッシュ一のバトル施設になるらしい、名称もまだついていない施設のデモトレーナーとして。
ノボリが派遣されたアルバイトは『求ム!バーチャルトレーナー!戦って戦って戦いまくれ!!!』というタイトルと『※ポケモン持ち込み不要。全てレンタルします』という但し書きがなんとも魅力的な仕事だった。
バトルの巧拙は問われず、強きも弱きもバトルのデータとなって、そして映像はバーチャルトレーナーとして国内外のバトル施設で使われるのだそうだ。カラオケの映像の人みたいなものか。自分の戦術、自分の映像が自分の知らないところで使われるというのは少し恥ずかしいが、その分もらえる金額も多い。これも出来高制だというのか、戦えば戦うほど、勝ち負けに関係なく現金が支給される夢のようなアルバイトだ。
レンタルバトルとは、「自分でポケモンを育ててなくても、施設であらかじめ用意されているポケモンをレンタルしてできる」バトルのことだ。自分の可愛がるポケモンをバトルさせたくなくても、育てる才能がなくても、気軽にバトルができるということで、近年話題になりつつある。大体がランダムで選ばれた6匹のポケモンの中から3匹を選ぶ形式なのだが、ここでは、それに少し手を加え、『くじ引きバトル』なるものを考えているそうだ。
冒頭のやりとりのように、挑戦者はまずくじ引きをする。右、真ん中、左のクジがあり、それぞれ6匹のレンタルポケモンがランダムで選ばれる。
シングルバトルであればその内3匹、ダブルバトルとローテーションバトルなら4匹を選べ、トリプルバトルなら6匹ともバトルに参加させることになる(その順番、順序は、選び方で決められる)。
レンタルポケモンなだけあって懐き度は0。いくら連戦しても懐かないし、世話をする必要もない。バトルの度にいろいろなポケモンを使える。ポケモンじゃなくポケモンバトルが好きなノボリには願ったり叶ったりだ。
くじで当たったイワパレス、シビビール、ブルンゲル、マッギョ、ココロモリ、シンボラーから、目隠しで3匹選ぶ。今回は「タイプや相性、有名どころの技の効果」は知っているが「特性や能力値」を知らないトレーナーの設定だから、3匹の順番も適当だ。
「また会ったな、ノボリくん」
「ダツラさん! 」
対戦相手として現れたのは、大柄な体格でいかつめな男性。名をダツラさんという。よく見れば若いのに、イッシュとは違う黄色味の強い肌色と無精ひげで野性味のあふれるおっさんに見える。
リスクがあっても大勝負に出るワイルドさ、それでいて車や飛行機の整備や改造が得意な繊細さも併せ持ち、かなりカッコいい。男に憧れられるタイプだ。ダツラさんは他地方からの流れのポケモントレーナーで、ここへは己の知識を増やしにきたそうだ。カッコいい。
「バトル スタート!」
完全ランダムな俺の一匹目はシビビール。技は『ワイルドボルト あばれる かみくだく とぐろをまく』で、持ち物は『キーのみ』。ダツラさんの一匹目は バスラオ。見た目まんま、水ポケモンだ。となれば、タイプ相性的に、選ぶのは100パーセント『ワイルドボルト』だな。
「アクアテール!」おっと、相手の技が先に決まる。バスラオとシビビールの種族値上、順当だ。
遅れてシビビールの纏ったワイルドボルトがバスラオに直撃。かなりのダメージだが、反動でシビビールにもダメージがいく。
「おや。」
効果抜群だが、バスラオは瀕死になっていない。持ち物が『きあいのタスキ』だったようだ。それどころか再び『アクアテール』が刺さり、シビビールが瀕死になる。相性上は有利だったけれども、こうも簡単に覆されるとなぁ。種族値知らないと、持ち物の効果を把握してないと、運が悪ければここまでなんだな。
さ、次はどうしようか。それなりなトレーナーならバトル始まる前に把握してるんだけれど、初心者レベルの設定だから、ここで初めてパーティを把握する。
んー……。ブルンゲルとココロモリか。どちらを選んでも『ばつぐん』取れないなら、『いまひとつ』なブルンゲルを選ぶかな?見た目も水っぽいし、包容力(防御力)ありそうだし。
交代したブルンゲルにアクアテールが刺さる。もちろん効果は『いまひとつ』だ。ここでブルンゲルの技構成を今一度確認。『ハイドロポンプ たたりめ じこさいせい どくどく』。相手は気合いのタスキありきの体力1。たたりめでいい。うーん……、ここらで下手な手を打ってみようか。
「ハイドロポンプ」
……だがしかし当たる! 命中80パーセントなら当たるときは当たるよな。当たらないときは95パーセントでも当たらないくせに。ほんとにな。
瀕死になったバスラオに代わり出てきたのは、メブキジカだ。相性で不利。となれば替える。
交代して出したのはココロモリだ。技を再確認。『サイコショック エアカッター りんしょう メロメロ』りんしょうとかいう(シングルでは)よく分からない技は使わないとして、攻撃技として使えるのは『サイコショック』か『エアカッター』だ。『サイコショック』は特殊80、説明には『ふしぎな電波を実体化して相手を攻撃する。物理的なダメージを与える。』とあって、特殊なのに物理とかよく分からなかったがとりあえず特殊技。『エアカッター』は特殊55で『急所に当たりやすい』とある。ダメージ計算できないトレーナーなら迷わずサイコショック。一択。だけど相手がメブキジカ(草ポケモン)ってことが分かってるからエアカッターを選ぶ。
「エアカッター!」は、もちろん効果抜群。加えて急所に当たり、一撃でメブキジカが落ちる。
相手の3匹目。ママンボウだ。実物はすぐ死ぬことで有名なのにこいつのHPはかなり高い。見た目にも粘り強そうなのが伝わってくる。これは持久戦になりそうだ。だろうから、選ぶのは『サイコショック』だ。同性だからメロメロは効かないしな。
『サイコショック』は命中。だが見た感じ、2割削れたかどうか。ゲージが表示されないのはリアルだが判断がつかない。
ママンボウが水中に身を潜める。十中八九『ダイビング』だ。このターン、ココロモリに出来ることはない。無駄打ちしてもいいが、控えに水ポケモンがいるなら交代もあり得る。替えるか。ブルンゲルだ。
「ダイビング!」
ブルンゲルにママンボウの『ダイビング』が命中する。クラゲにマンボウが衝突したらどっちが生き残るのだろうか、なんて意味の無いことを考えながら、『どくどく』を命じる。『ダイビング』は『こうかはいまひとつ』だ。食べ残しでブルンゲルが小回復する。
「ママンボウ、ダイビング」
再びママンボウが水中に身を潜める。猛毒状態でタメ技を使うなんて、ダツラさんらしくないな。そういう設定なのだろう。この四肢のいくらかを封じられるような『設定』は結構面白いものだ。普通にしていたら対面できないような状況に何度もぶち当たる。
「ブルンゲル、じこさいせいです」
じこさいせい+食べ残しでほとんどのダメージが回復される。これでブルンゲルに負け筋はなくなった。あとは『たたりめ』一択だ。
二戦目の相手もダツラさん。というか、本番に考えている施設がゴールまで三連戦かかるから、一度挑戦したら負けるか三連戦するかしないとバトルは終わらない。
俺は三連戦中ポケモンはおろか順番も変えられない。他の施設なら一勝したら相手のポケモン一体とトレードできるんだが、三連勝すれば優勝できるこの施設にそこまでの甘さはないってわけ。
負けたダツラさんは俺と同じく目隠しランダムでポケモンを選び直した。一応、一戦目の記憶は無かったことにしてくれるはずだ。勝っても負けてもこのバイト、支給額変わらないしな。
さて、ダツラさんの一匹目は。
「ママンボウですか」
縁があるのだろうか。さっき見たばかりのママンボウだ。別個体のようだから、技構成・持ち物・能力値は違う可能性が高い。
こっちの一匹目はシビビール。さっきは同じ水ポケモンのバスラオに負けたとはいえ、相性はいいし、なによりママンボウは遅そう(それでもシビビールの方が遅いんだが)。そのまま突っ込むことにする。技は考えなしの『ワイルドボルト』。
「ママンボウ、ねがいごと」
相手の技が先に発動される。シビビールが見た目通りの電気技を打ってくるのを見越しての、1ターン後に体力の半分が回復する『ねがいごと』だ。
「ワイルドボルト! っと、」引かなかったのはそういうわけか。相手の持ち物は『じゅうでんち』。『ワイルドボルト』を受けて、ママンボウの攻撃力が一段階あがる。HPが高いこともあって、まだまだ元気そうだ。シビビールには反動ダメージがかかる。
「ママンボウ、ダイビング」
持ち物が違っても主力技は同じだったようだ。ママンボウが再び水中に身を潜める。こうなればシビビールに出せる技はない。できることといえば『とぐろをまく』で自分の攻撃と防御と命中率を上げることくらいだ。けれど、次の『ダイビング』は受けられない。ここでブルンゲルに交代。
ママンボウは交代で現れたブルンゲルを『ダイビング』で攻撃し、さらに『ねがいごと』の効果が発動し回復。これで全回復だ。
さて次だ。こっちは連戦。さっきのバトルが頭をよぎる。このままブルンゲルでいこう。ああ勝ったから、ブルンゲルはママンボウより強いと思うに違いない。ブルンゲルを出す。だけど、まぁ、さて、ここらで失手といこうか。勝ちに焦れば間違えるものだ。
「たたりめ」
ダイビングを『こうかはいまひとつ』で受けたブルンゲルが『たたりめ』を打つ。『たたりめ』は状態異常のポケモンに大きなダメージを与える技。2ターンに一度やっと攻撃ができる相手に打つ技としてはいかにももったいない。
技のダメージは思った通り少なく、何事もなかったかのようにママンボウが再び水中に身を潜める。『ダイビング』中のポケモンに対する有効な技はブルンゲル無いが、このままではターンが進まない、無駄打ちを命じる。
一戦目とめっきり違うダメージ量に、これで『たたりめ』の技の意味が分かっただろうと思索し、再び浮上したママンボウに『どくどく』を当てる。
こうなればさっきと同じ耐久戦でいい。相手には一戦目と変わらず『替える』という選択肢が与えられてないみたいだから、ごり押しで勝てる。ちなみに俺は推奨されている。
「ブルンゲル、じこさいせい」
あとはダイビングで上がってきたところに『たたりめ』、ダイビング中は無駄打ちで、ブルンゲルの勝ちだ。
代わって出てきた二体目はジヘッド。ここまで『どくどく』からの『たたりめ』がうまく嵌ってきた俺(というバーチャルトレーナー)はここでも『どくどく』を命じる。
「ジヘッド、ドラゴンダイブだ!」
対するジヘッドは『ドラゴンダイブ』を選択。だが命中率75が祟ってこれは不発となる。『たたりめ』が刺さる。
「かみくだく」
『こうかはばつぐんだ!』
ジヘッドの『かみくだく』が命中し、ブルンゲルが瀕死になる。命中の低い『ドラゴンダイブ』じゃなくはじめから『かみくだく』連打でよかったような気もするが、ダツラさん(の設定)が、ブルンゲルのタイプを単『水』だと見誤ったのだろう。ココロモリもシビビールも有効打がない、ここは丈夫そうなシビビールを選出する。しかしドラゴンタイプで強そうな見た目のジヘッドにどれほどの攻撃が通用するか分からない。ということで、とぐろをまいておこう。
「シビビール、とぐろをまく!!」
「かみくだく!」
ジヘッドが牙を剥く。
電気技は半減、シビビールに『あばれる』を命じる、『あばれる』中は指示が通らない。静観する。
途中ジヘッドは『ドラゴンダイブ』を命中させた、が、シビビールが倒れるほどではなかった。ジヘッドが瀕死になり、相手の3匹目、チャオブーが登場する。
全く命令を受け付けないシビビールに二発の攻撃を与えたチャオブーはシビビールを瀕死に追い込み、俺の三匹目、ココロモリの『サイコショック』で落ちた。――これで二勝。
さて三戦目だ。
三連戦、一匹目はオノンドだ。私事であるが、俺はポケモンが全般に苦手だけど、こいつの進化形はみんな恐竜みたいでかっこいいと思う。少年心をくすぐられる
さて、ここまでシビビールにいいところを見いだせなかった俺(という名のバーチャルトレーナー)はドラゴンタイプ相手に通用しない気がしている。というわけで替える。ここでの交代相手はここまでうまいこと受け止めてくれたブルンゲル一択だ。
「オノンド、げきりん!」
だがさすがのブルンゲルもタイプ一致げきりんは受け止めきれない。『たべのこし』で小回復しつつも、二度のげきりんで落ちた。ただ『のろわれボディ』でげきりんを封じたのはさすがだ。他二匹は受け止めきれない。
瀕死出しで出したのはココロモリ。相手が異性だったからとりあえずの『メロメロ』打ち。100パーセント効果が出るかどうか分からない変化技、初級者は使わないかもしれないけれど。
だがしかし、オノンド、『のろわれボディ』による金縛りで新たには『げきりん』が出せなくなったものの、技が終わった際の『こんらん』を『キーのみ』で回復した。
「サイコショック!」
ココロモリの技構成で最も大きなダメージ技を命じる。――ああ、半分以上は削れたようだ。次で決まる。
オノンドはメロメロ状態だが、それでも技を出し、ココロモリのHPを十分に削っていく。なんだかな、と思いつつ、再び『サイコショック』を選択。オノンドが落ちる。
最後のポケモンはシンボラーだ。ココロモリと同じタイプ、と見た目にも分かりやすい。ここで交代するまでもないか。
エスパーにエスパーは半減だからと『エアカッター』を命ずる。しかし、返す刀が「シンボラー、『れいとうビーム』だ!」で抜群技で瀕死直前に。シンボラーの技の豊かさに驚かされる。ここでシビビールに交代。
交代読みだったのか、シンボラーは何か発動したようだが、特性『ふゆう』で無効に。『ワイルドボルト』で瀕死に追い込む。残り1匹。
ダツラさん最後のポケモンは『ダストダス』だ。早速毒を吐いてくる。指示の声を聞き逃したがおそらく『どくどく』だ。
残り一匹となれば、最大ダメージ力の『あばれる』一択。ダストダスは『きあいだま』を発するも外す。そうこうしている内にシビビールが暴れなくなったが、こんらん状態は『キーのみ』で治る。正気に戻ったシビビールの『ワイルドボルト』がダストダスに迫る。俺の勝ちだ。
「これにて三連戦、終了でございます」
ダツラさんをはじめ、優秀な野良トレーナーが集まってくる。『設定』という体のいろいろな縛りがあるのも新しく面白い。神バイトだ。できることなら一生ここで遊んで稼いで暮らしたい。
「やあ、ノボリくん。みごとなバトルだった。キミの知識がよく活かされていた」
「ダツラさん、そんな、貴方様こそ他地方のご出身にも関わらず、ああも抜群のコンビネーションを展開なさるとは。すばらしい! の一言でございます」
「はは、それなりに経験を積んでいるからね。――そうだ、表から募集の紙が剥がされていたよ。どうやらそろそろここも終わりだ。ノボリくんはこれからどうする?」
「そうでございましたか……。そうですね、ひとまず実家に帰って、卒業しますが」
卒業?と首を捻るダツラさんに、イッシュのスクールの卒業シーズンがこの時期にあることを伝える。
「合点がいった。道理でキミと同じくらいの年頃の子どもたちが何人も応募しているのはそういうことだったんだな」
「しかし、卒業後のことが決まっておらず、幾ばくか不安を覚えます。私はわけあって自分のポケモンを持っておりませんし、特別やりたいこともありません……、家から追い出されることは確定なのですが」
「そうなのか」
10歳を越えて少し経った子どもがポケモンを持っていないってのは極珍しいことだが、あり得ないことでもない。
もうちょっと年齢を重ねれば、いろいろな事情から手放す人もいるんだが。
「もし本当に困っているのなら、充てがあるな。キミの強さを活かせるところを知っている。――ただ、国外に出ることになるが」