ただの廃人大学生が一歩を踏み出す時(強制2)



いろいろな意味で見識を深めた職場体験が終わり(最後の挨拶の際には大人のおねえさん達が別れを惜しんでか涙ぐんでくれ、ノボリもつられて目頭を熱くした)、帰路の途中、最寄り駅の改札口でノボリを出迎えたのは、同じ顔をした弟だった。


「おつかれ、ノボリ」
「クダリ!驚きました。待っていたのですか」
「ちょっとだけ。あのね、ぼくさっき終わった。ライモン駅発着のアナウンス聞いて、もしかしてノボリの乗る電車かなって」


疲れ果て寝に帰り、ギリギリまで寝ては家を飛び出す日が何日も続いたから、同じ屋根の下に暮らしているにも関わらず久しぶりの対面だ。
同じく今日までが職場体験日だった我が弟の眼の下には、うっすらと隈ができていた。環境の変化や対人コミュニケーションを苦手とするクダリだから、職場体験は相当なストレスだったに違いない。だとしてもこいつもいつかは働かなきゃいけないからな。避けて通れない道ってことで。

俺たちの親はどんな理由があろうともニートを許容してくれないだろう。最近なんて、俺がポケモンに慣れつつあるものだから、就職先が決まらない?なりたいものがない?だったらイッシュを一周してくればぐらい平気で言ってくる。この一周にはジャイアントホールや豊饒の社、海底遺跡まで含まれるってもんだから、もうポケモンマスターになるまで帰ってくんなってのと同意だ。ライモン生まれライモン育ちで超現実主義なはずの母親が可愛い子には旅をさせよ系保護者だったなんて驚きだよ。今から思えば幼少期から泣いても喚いてもポケモンに触れさせようとしてたのは布石だったんだな……。

それでもトラウマ量産したかいがあって、同じ位の背丈のポケモンなら、半径1メートル30センチくらいまで自分から近づけるようになった。え? 遠すぎだって? それなら考えてみてくれよ。サファ○パークだとか、ク○牧場だとかで、檻もない状態だったとしたらそもそも近づけるか? たとえ人慣れしてますよ、その子草食獣ですよ、って言われても俺は絶対無理だ。だからそんな俺だから自分としてはすっげぇよく頑張ったと思う。この世界じゃあ変わらず底辺だけどな。

だけど、1メートル30センチあればバトルができる。それどころか、超美麗グラフィック3Dでポケモンコロシアムやってるようなものだから、廃人ゲーマーとして、むしろ喜々としてバトルはした。脳内に叩き込まれた知識を正しく使えばいつでもいくらでも『俺Tueee』できた。そのあとに可愛がってやったり労わってやったりするのは苦手だけど、そういう触れ合いを好まないのを選べば回避できることにも気づいたしな。最優秀生に選ばれたのにはそんな裏事情もある。……ま、元大学生が近所の小学生に勝ったところで何の自慢にもならないんだが。はぁ。


「あのね、ギアステーションではね、一つのミスがおっきな事故に繋がるんだって。だからみんな真剣! コンビネーション、ばっちり! みんなみんな、すごかった!あのねノボリ、ぼくここで働きたい。ノボリは?」


泉から湧き出る水のように、職場体験で見聞きしたことをこんこんと語り続けるクダリの手を引きながら、人混みをすり抜けて歩く。俺は早く帰って母さんの飯を食べて寝たいってのに、元気だ。それにしても、ここまで饒舌なクダリは久しぶりだ。よほど楽しかったんだろう。

そんな俺に気づいたのかわからないが、ふいに疑問符を投げかけられた。ええと、なんだって?
職場体験がお気に召したらしいクダリはギアステーションで働きたいようだ。ふーん。そして、いつかできるバトルサブウェイで勤務するようになるんだろう。

それはそうとして、今の疑問符は「ノボリはポケモンセンターで働きたいか?」という記号なのだろうか。俺の特性を考えたらポケセンは鬼門なことは、クダリもよく分かっている。だって絶対に無理。第一献身的なタイプじゃない。人を喜ばせるより自分を喜ばせたい。理想をいえば、自分が楽しいところがいい。今回やり通せたのは単に期間が短かったから、それに尽きる。それもクダリはよく分かってるだろう。だから、今の疑問符は、『ノボリはどこで働きたいの?』という意味だ。

ギアステーションで勤務し、いずれできるバトルサブウェイでサブウェイマスターを目指すのが一番なのかもしれないけどな。齢十数歳にして就職ってのはどうも腑に落ちないのだ。あぁ、前世の記憶がなければすっきりと流されただろうに!


「ねぇノボリ、時間かけて、もっと考えなよ。あのね、母さんが言ってた『イッシュを一周』、ぼくもいいと思う。人も、ポケモンも、苦しくても『楽しい』があれば生きていける。バトル、苦しい、けど楽しい! だからポケモンも、ぼくも、ノボリも、バトルだいすき。心がワクワクする。えっとね、だからね、えっとね……今のノボリには『苦しい』が多いかもしれないけれど、『楽しい』がいっぱいあるところ、ノボリにもきっと見つかるよ! 」 

2016.08.01. up.

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