ただの廃人大学生が成り代わるには責任が重い




何の自慢にもならないが、俺は某国民的RPGゲーム…いや、別に隠す必要も無いな、ポケモンゲームの対戦に関してはそれなりに強い方だと自負している。

所属するポケサー(大学のポケモンサークル)では負け知らずだったし、井戸の蛙でなくレートはかなり高かった。その手の大会に出場することを何度となく勧められたものだが、目立つことが嫌いなため登録しなかった(この時点で、予選突破を当然視している痛い人間だと思ってもらっていいが、そう考えるだけの結果は残していたのだ)。

かといって、ガキの頃から心血を注いでいたわけでもない。よくある話だと思うが、一度は小学生の時に離れた身で、暇を持て余す大学生が回帰する絶妙なタイミングで発売された新作ソフトを、周りに流されて購入し、もともと凝り性だったためにいたく嵌まってしまった。俺は、そんな、どこにでもいるただの大学生だった。

いや、どこにでもというには、ゲームプレイングぶりが一般のそれとは一線を画していたかもしれない。けれどもゲームの特性もあって、学業に著しい差障りを作るまでではなかった。また、あと一年と少し何も起こさず過ごしていけば卒業できることが分かっていたし、この不況の中運よく身分不相当な就職先も決まっていた。

俺の人生は、一般的なリア充大学生活とはかけ離れてはいたが、順風万帆だったと、いっていいだろう。


……あぁ。過去形なのは、仕方がない。

だって俺、死んだし。


まぁ、テンプレーションにも居眠りトラックが突っ込んできたのを目前にしてうはwwwここでグロスのジュエル大爆発とかオーバーキルだろwwwと思うような人間は遅かれ早かれ死んでいたのかもしれないけれども。





一瞬前まで宙を舞う大学生(物理的に)だった俺は、気付いたら、灰色の赤子と目を合わせていた。








灰色の赤子と描写すると、俺の頭スペックだとどうしたって優先席マークとしても有名なあの『グレイ』が浮かぶのだが、そうではなくて灰色の髪の赤子である。

生まれたばかりにしては肌の色が白く、いろいろと落ち着いているのをみれば、生後数週間といったところだろうか。おそらく一年は経っていない。
アバウトにもほどがあるが、ただの男子大学生(一人っ子)が赤ん坊の成長のほどを知るわけがないってことで許してほしい。かつて卵孵化の貴公子だとか一夫多妻制の申し子だとかよばれていた男も、現実はこんなものである。実際のところも貴公子どころかただの孵化廃人だったし、末期には乱数にも手を出していた。その歴史は、誇りもできないが卑下もしない。

「うあー?」

目の前の赤子はこちらに手を伸ばし、豆粒のような小さな指をわきわきと動かしていた。20年も後にやれば確実に性犯罪として訴えられるこの所作も、この歳だとやーんかわいいーとしか思われないだろう。世の中は不条理である。

世知辛い世の中に俺が思いを馳せていると、目の前の赤子は次第に目に膜を作りだした。人間の進化の瞬間ではなく、ただたんに、まじで泣く5秒前というやつである。ワードチョイスの古さには定評がある。


「……うぁっ」


いや目に涙を溜めた赤ん坊が5秒もつはずがなかった。

ひきつけを起こしたように肩を揺らした赤ん坊に、俺は慌てて腕を伸ばす。小さい体をして、その鳴き声(誤字でない)はサイレン並みなのである。放っておけばご近所トラブルのもとになりかねない。

指を絡ませると、赤ん坊はびっくりしたように一度目をかっ開き、全身を固くしたが、絡んだ指でにぎにぎと握ってやると、今度は両手を伸ばしてきゃっきゃと喜んでいる。今泣いた烏がもう笑っている。
……ふぅ。図らずも恋人繋ぎをしてしまった。それはそうとして、この程度で機嫌をよくしてしまうとはなんとも安い男である。

そうこうしている内に、けたたましい足音が近づいてくるのに気が付いた。サイレンタイムのスタートを予期して慌てて戻ってきた母親に違いない。

洗濯物を両手に抱えた妙齢の女性の登場に、顔を上げた。ああ、ガーゼタオルが落ちた。額にうっすら浮かんだ汗を見ると、道すがらいろいろと落としてきたのだろうと思われた。それこそヘンゼルとグレーテルのように。


「――あぁ、よかった。ノボリったら、またクダリをあやしてくれたの?さすがお兄ちゃんねぇ」


「ご飯の準備ができるまであやしておいてくれないかしら」なんて、たった数時間の出生の違いで責任を持たせるのはどうかと思うのですよ、お母様。

2015.07.31. up.

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