ハクの尾に力の入らない腕を回して運ばれているは、もう、仕事だとか、図鑑収集だとか、そんな気分になれなかったし、ハクの尾が半分宙に浮いていても、今度は何も言わなかったし有難かった。途中でカイに交代し、カイも気を使って海を渡ってくれ、やたらめったらに濡れることはなかった。そうこうする内に、はふたご島へ乗り上げた。


ありがと、と言ってカイから降り、砂浜に立ったに、カイは顔をこすりつけた。


「うひゃ、」


文字にしてみれば可愛らしい所作だが、図体の大きいカイがすればたまらずバランスが崩れ、は砂浜に倒れこんだ。追って覗き込んでくる見た目はかなり凶悪で、しかしよく見れば心配気な目をしたカイを「大丈夫だから。心配してくれてありがとね」と撫で、モンスターボールに戻す。


「レン」


それからレンを出す。

ふたご島には洞窟内以外にも野生のポケモンが多く生息しており、しかも単純にレベルが高く、群れで現れることもあると聞いている。現に、遠く、枯れた草むらの影でポケモンがこちらをうかがっているのが傍目に見て取れる。今はレンがいるので仕掛けてこないけれども。


はレンの炎の傍に立ち、タオルで体を拭い、服へと着替える。水気をすった水着は絞り、タオルといっしょにポリエチレン袋の中に突っ込む。

拭いただけなので全身にまんべんなく潮気が残っているが、それでも生き返ったような心地だった。


「…よし。今日はここで休んで、明日…、は無理でも、明後日にはグレン島に行こう」
「グル…」



振り返ってそう言うと、レンが鳴いた。

そこには警告の色が感じ取れる。レンは、セキチクやシオンに戻るべきだと訴えている。

なぜなら、頬を撫でる風が、涼しい、どころか海水で冷えた体に芯に染み渡るように寒い。同じ緯度に位置するグレン島が温暖多湿な気候であることを思えば異常であった。

けれど、異常ではない。
が思い出すのは、昔オーキド博士から聞いた、カントー伝説の三鳥の一・フリーザーがふたご島に眠っているという言い伝えである。この島が低気温を観測するのは別に異常ではなく、それは、フリーザーがいる証拠だという。

はレンの体を宥めるように叩き、努めて明るく返した。


「レン。こうも寒いと、あの言い伝えって本当なのかもね」


フリーザーは伝説のポケモン。伝説に数えられるのだから出現率は推して知るべしだし、出会えたところで捕獲難易度はぶっちぎりに高いだろう。といっても、図鑑完成のためにはいつか出会わなければならない。


けれど、伝説となるだけあって生態は謎に包まれていて、がフリーザーについて知っていることといえば、フリーザーが氷タイプの技を使う鳥ポケモンらしいことと、ふたご島の洞窟の最奥にいるらしいことくらいで、あとは目の前にすると身が竦み最後には凍らされるだとか、ポケモンが技を普段のようには使えなくなるだとか、噂話に毛が生えたレベルの伝承である。情報がないということは、それだけ捕獲が難しいということでもある。
いるだけで天候を変えてしまう『よほどな相手』であるが、逆に考えれば、会えるかどうかは別にして、島に近づくだけでそこにいるかどうかは分かるので、出会える確率は他の伝説よりも高い。


「ねぇレン、フリーザーってねぇ、言い伝えによると、寒くて死にそうなとき、目の前に現れるんだって。といっても、遭遇した例が少なくて、そのどの人も神様か死神様だと思ったそうだから、ちょっと眉唾かもしれないけどさ。そうだ、死んだふりとかしてみたら案外ひょいと現れたりしないものかな」
「グル」


冗談まじりにそう投げかけると、ばかなことを考えるなとばかりに背中をオレンジの腕に圧されて、はレンの腹に頭を突っ込んだ。








 

2014.4.20. up.

NEXT TOP