格闘道場の扉を潜ったを迎えた門下生達はみるからに雄々しく、縦も横もの倍はあろうかと思われた。
しかも決して狭くはない道場を狭く思わせるほど、多くの格闘ポケモン同士が、中にはトレーナーとポケモンが拳や足を交わしており、はその熱気に圧倒させられそうであった。

を見るやいなや、男達は「ここは子どもの遊び場でない」と追い返そうと凄んでいたが(もしかしたら優しく教えてくれたのかもしれないが、その風貌では凄んでいるようにしか見えなかった)、ジムバッチを見せて挑戦の意を申し出ると、あれよあれよという間に道場の奥へと文字通り担ぎ上げられた。


結論から言うと、にとって空手王は脅威でなかった。

格闘タイプのポケモンは近距離でのバトルに利があるのだが、のパーティは図らずも中近距離から特殊技を出すポケモンに偏っており、“間合いに一度も入らず勝つ”ことが可能であった。楽勝、とまではいかなかったものの、快勝レベルで空手王に勝利したは、約束であった秘伝ポケモンの譲渡は断り、その代わりにエビワラーとサワムラー両方のデータを手に入れ、ほくほく顔で格闘道場を後にした。

のバトルスタイルは隣のジムのそれを彷彿とさせ、空手王達に二度目のトラウマを植え付けたらしいが、それはの知らぬことであった。









次の日、はシオンタウンにいた。
早朝にオーキド博士から電話があり、フジ老人からシオンタウンに来てほしいと言付けられたことを聞き、レンに乗って飛んできたのだ。

オーキド博士の口からフジ老人の名を聞いた時、は不思議に思ったが、フジ老人には以前オーキド博士の元にいたと伝えてあったことを思い出した。
シオンタウンでフジ老人と知り合っただが、連絡先の交換はしていない。そこで、フジ老人がその昔親交があったオーキド博士を頼ったのだろう。


久しぶりに見たポケモンタワーは、朝日を反射して照り輝いていた。
がユエとのバトルで開けた穴は修復されており、遠目には分からない。


ポケモンタワーから目を離し、もの静かなシオンタウンの街並みへと視線を降ろすと、向こうからフジ老人が歩いてくるのが見えた。
レンをボールに戻し、フジ老人へと走り寄る。


「おぉ、。久しぶりじゃの」
「おじいさん!お久しぶりです」


少し小さくなったような気がするが、優しい笑みは変わっていない。
フジ老人は「大きくなったの」と目を細めると、を連れて歩き出した。


「あの時のドードーも大きくなっての。今は番い鳥になっておる。次が来るころには、新しい命が宿っとるかもしれんの」
「そんなに大きくなったんですか!?あの時は生まれたばかりだったのに」
「ホッホッ」


しかし、突然の呼び出しの目的はフジ老人宅ではなかったようで、彼の家を通り過ぎ、更に南下した。
フジ老人は一軒の家の前で止まると、ドアをノックした。には覚えがない一軒屋である。

ややあってドアが開き、女の子が首を出した。


「はい、おじいちゃんですか…、おねえちゃん!!?」


突然の叫びに思わず固まっただったが、よくよく少女を見てみれば、どこか見覚えがあるような気がする。
しかし果たしてどこで…と、内心で焦っていると、フジ老人が口を開いた。


「ユキ、カラカラはおるかね?」
「部屋でごはん食べてるけど、すぐ連れてくるよ。フジおじいちゃん」


その言葉に、は思い出した。ポケモンタワーで保護した赤ちゃんカラカラを預けた女の子だ。そうだ、ユキという名前だった。
思い出すと同時に、また遊びに来ると約束していたことも思い出された。

カラカラのことをすっかり忘れてしまっていたわけではないが、その後のごたごたで意識の隅に追いやられていたのだ。


「待ってて」


ユキはそう言うと背を向けた。ドアが閉まる。
しかし、すぐにカラカラを抱え現れた。


「ここにいたの。おねえちゃんの声が聞こえたみたいだね」
「えっ…と、大きくなったね?」
「うん。夜泣きもだいぶ無くなったよ」


はユキとカラカラ二人のことを言ったのだが、ユキはカラカラのことだと取ったようだ。

カラカラには死に別れた母親を思い出しては大声で泣く習性があり、孤独ポケモンと分類されている。
だから夜泣きが少なくなったということは、カラカラが孤独を感じないくらい、よく世話をしてくれているということだ。

ユキに抱きかかえられながら、カラカラがに手を伸ばす。
それを見てがカラカラの頭を撫でてやると、カラカラは喜んで鳴いた。


「そっか…。ごめんね、全然来れなくて」
「トレーナーさんだもの、しょうがないよ。でも、どうかな?わたし、おねえちゃんに負けないくらいよく育ててる?」


その言葉に、かつてユキが「わたし、おねえちゃんに負けないくらい、ちゃんと育てるから!」と言っていたことを思い出す。


「うん。私よりずっと、上手だと思うよ」


カラカラが片手ではユキの服を握って離さないところからも、強い信頼と絆が見える。
がそう言って褒めると、ユキはぱっと頬を赤くしたが、きゅっと唇を噛んで俯いた。思わずが覗き込むが、ユキは意を決したように顔を上げた。


「おねえちゃん。この子を、連れていってほしいの」
「…どうして?」
「それが、この子と、この子のお母さんの願いなの。――わたし、この子のお母さんに夢で教えてもらったのよ。お母さん、本当は人間に殺されたんだって。それで、この子が気がかりで、成仏できないでいるみたい」


思わずフジ老人を窺うと、フジ老人は「この街には、稀に霊感の強い子どもが生まれる」と頷いた。
ユキは、嘘を言っているようには見えなかった。それどころか、手放したくないと思っていることは、震える肩が物語っている。余裕がない自分には無理だからとが手放した赤ん坊のカラカラを、ユキは根気強く育ててきたのだ。それを、カラカラと、カラカラの母の願いだからとに預けようとしている。


「フジのおじいちゃんは、おねえちゃんはカラカラを危険なところに連れていかないだろうって言ったけど、ポケモンタワーのお化けを退治できるおねえちゃんにカラカラは弱くて迷惑だろうけど、でもわたしじゃだめだから」
「……どうして?お母さんの気もちを受け取ったユキが、一番おやにふさわしいんじゃないの?」
「わたしじゃだめなの。お母さんは、カラカラを、カラカラと同じくらい強い因縁のあるトレーナーに預けてほしいって言ってた」
「因縁のある…?」


「お母さんが言うには、お母さんを殺した人間と、おねえちゃんは強い因縁があるんだって」







 

2013.03.20. up.

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