アカネと別れ(別れ際には、ジョウトのコガネに来たときは訪ねてや!と半ば無理やりに約束された)、ポケモンセンターの予約も無事取れたは、まずはポケモンジムについて調べることにした。

手持ちポケモンの回復を待つ間、同じように回復を待つ青年トレーナーに尋ねてみたところ、片方のジムリーダーに勝ったばかりだったそうで、詳しく聞くことができた。“片方の”という言葉につっこむと、なんとこの街にはジムが二つあるのだという。


「まぁ、片方は格闘道場っつって非公認のジムなんだけどよ。空手王に挑戦して勝ち進むと秘伝のかくとうポケモンがもらえるとあって、挑戦者も多い」
「かくとうポケモン…」


その瞬間、の頭の中には何故か “かくとうポケモン” と、ワードアートな立体的な文字が浮かんだ。そしてそれをしっかりと眺めたはごく、と咽喉を鳴らした。

カントーに生息する格闘ポケモンといえば、マンキーにオコリザル、ニョロボン、ワンリキー・ゴーリキー・カイリキ―、それからサワムラーにエビワラー、と多くない。特にサワムラーとエビワラーは野生(この場合、人の管理する範囲で、という注釈がつく)では生息しないとされているから、特にレアである。そのため、トレーナーが持っていることもまずなく、は未だにこの二匹は図鑑に記録していないのである。秘伝とつくのなら、この二匹のどちらか、もしかしたらどちらも揃っている可能性だってある。


「…んでもって、公認ジムの専門はエスパーだ。エスパータイプは弱点が少ないのが強みだな。それにジムリーダーのナツメ自身がエスパーらしく、相乗効果でそれは強かった。素早さで競うのもアホくさい。 」
「えっと、ナツメ自身が生粋のエスパー使いってことですか?」
「そうだ。なんでもスプーンを曲げたり、見えないものが見えたりするらしい。普通にバトルする分には関係ないけどな。んで、ナツメに行くまでが大変でな、ワープパネルを使って移動するんだが、そのどの部屋にもいるジムトレーナーと目が合えば即バトルだ。運と勘が良ければ一度も戦わずにナツメの元へ行けるが、普通の人間には無理むり」


キョウと違ってジムリーダーがいるのだから、そんな設備は必要ないだろうに…、きっと色々な事情があるのだろう。
そんなこんなで、ジムリーダーのことを聞くたびに穴抜けの紐をもらえた。……そんなに迷子になりそうに見えるのだろうか。









次の日。

ヤマブキから四方に伸びる街道の調査はこれまでの道中で済んでおり、もう一度行う必要もなかった。
しかしヤマブキジムに挑戦するトレーナーの数は他のジムの比でなく、予約が取れたのは昨日から2日後、つまり明日の夕方だった。

丸ごと一日空いたので、格闘道場へと向かう。こちらも挑戦者は多いものの、ストレートに挑戦できるとあって回転は早いらしい。 が、しかし。


「うわっ、」


格闘道場へと続く往来のど真ん中で、ふいには足を止めた。
服を引かれた気がしたのだ。昨日のスリが頭を過り慌てて振り返れば、小さな女の子が裾を引っ張っていた。イーブイモチーフのショルダーバッグがよく似合っている。

少女の眼差しはのモンスターボールをロックオンしていたが、がボールを手で覆いつつ身を引くと、少女は「うえーんのどがかわいたよう!おねえちゃん何かちょうだーい!!」とむずがるように言った。すわ物乞いか、といよいよが身構えたその時、少女は“らしく”ないことをのたまった。


「うえーん今ならしんせいひんのれいとうビームのわざマシンをあげるよー!!」
「えっ…」


胡散臭いことこの上ないが、『れいとうビーム』の響きに、思わず心が惹かれた。
警戒しつつ、ためしにリュックの中に入れていたおいしい水(常温)を渡してみたところ、少女は「ぬるいよー」と言いながらも口をつけた。
そして、勢いよくボトルを傾けてみせると、全部飲み干してしまった。

少女は空になったペットボトルをショルダーバッグに入れると、アイテムボールを取り出した。


「はい、やくそくのわざマシン13。なかみはれいとうビームだよ。ちゃんとつかってね?」


手渡されたボールの中には、確かにわざマシンのようなものが透けて見えている。
しかし『れいとうビーム』はかなり有用な技。それがアイテムになったとしたら、おいしい水と交換できるような代物ではないはず。受け取りつつもが疑いの目で見ていると、


「本物よ。だってこれ、わざマシンの宣伝だもの」


一転大人びた表情でそう言うと、少女(仮)はまた別のトレーナー風の青年に駆け寄り「うえーんのどがかわいたよう!」と強請り始めた。









「……都会って、怖い」






 

2013.03.10. up.

NEXT TOP