ポケモンセンターは、ポケモントレーナーの情報交換の場所でもある。
この街のジムリーダーのことを尋ねると、返ってきたのは驚きの情報だった。
「ジムリーダー?キョウさんねぇ…、あの人は、伊賀忍者の末裔でね」
「えっ…ホンモノ!?」
あんたコスプレだと思ってたろと図星を突かれ、は苦笑いを浮かべてごまかした。
だって、パソコンでポケモンを転送できる時代に忍者が存在するなんて……。
「そうさ。先祖代々、毒のエキスパートだよ」
「あまり自分らのジムリーダーを悪く言っちゃいけないけど、結構ねちっこいというか…ねばり強い攻撃してくるんだ。かといって短期決戦と思っても、防御力が半端なくてねぇ」
「キョウさんに会うまでも大変でねぇ。突然ジムトレーナーを全員解雇したと思ったらあんなもの…ここ半年で、初挑戦でキョウさんに勝てたやつっていたか?」
「いーや、聞いたことねぇ」
「……?『会うまでも大変』?『あんなもの』?」
「「まぁ、行けば分かるよ」」
「ジムトレーナーどころか、審判もいないんですか?」
「心配せずとも、勝てばバッチは君のものだ。さぁ、挑むがいい」
「挑むがいいって、まだ試合方式も決めてないのに、」
がつん、と靴先が何かにぶつかった。
「……?」
しゃがみ込んで手を伸ばせば、そこに見えないけれど何かがあった。軽くノックする。コンコン、ガラスを叩いたかのような良い音がした。
今度は指先を伝わせる。ガラスにやったようには手跡が残らない。右、下、立って上、しゃがんで下。手の届く範囲には、切れ目はないようだ。
……行けば分かるよ、って…これ?
「…キョウさん、なんですかこれ」
「壁。――目で見るな。忍は闇の中でも自在に動けたという」
「私は忍じゃないです」
ファッファッファと笑って流すキョウさんに、これ、毒じゃなくてエスパータイプのポケモンが作った壁じゃないかと内心で突っ込む。
でもって、キョウさんはこの壁を作った原因を倒すのでなく、壁を攻略してたどり着いてもらいたいようだ。
…仕方がない。
片手で壁を触りながら進めば、大回りでもいつかたどり着けるだろう。でも、
「…なんで、こんな七面倒な」
一人言のつもりだったが、キョウさんは目を瞑ってため息をつき、答えた。
「君は忍者というと何を思い浮かべる?」
忍者、ね。
ポケモンセンターの待合室のテレビで、何度か見た。
毎週同じ時間にやっていたから、あれはドラマかなにかだと思う。ゴルバットの足に捕まって空を飛んだり、ユンゲラーで幻覚を見せて情報を掴んだり。なんだかなぁと思いつつ眺めていたものだが。
「手裏剣、とか、屋根裏でスパイ活動、とか。定番ですよね」
「だな。そしてこのジムに寄せられる意見でもっとも多いのが、『ジムリーダーが忍者って聞いたから期待してたのに、そんなことなくて残念』」
「……あぁ、」
あ、もう、分かった。ジムを忍者屋敷かなにかだと勘違いした挑戦者が後を絶たないのか。
いくらジムリーダーが忍者だからって、ジムである以上、目的はバトルだろうに。ジムは観光名所でもテーマパークでもない。
「テレビでは面白おかしくやっているが、忍者が敵地で戦うことは滅多にない。しかしそれが望まれているのなら、期待に答えるべきなのかもしれぬ。三日三晩寝ずに悩み、そうしてオレはジムをこのように改造した」
…睡眠は大事だ。うん。挑戦者のことを考えてくれたにしても、きっと寝ずに考えることなんてなければ、こんな鬼設備考えなかったはず。
もう一度街の声を聞いてほしい。
「忍といえば忍術。そう、たとえば罠。――その壁。触れた者の防御力を一段階下げる術を掛けてあるぞ」
そこだ、と(多分)指差しているのは、次に触ろうと手を伸ばしていた実体のない壁。慌てて手を引く。
キョウさんが言うには、トレーナーが触ればそのトレーナーが持つポケモン全てに、ポケモンが触ればそのポケモンに効果が及ぶという。
対ポケモンは分かるけれど、対人でも効果を及ぼすとは、どういう理屈なのだろう。技なのか、本当にそういう術なのか。
「何らかの効果をもたらす床と壁を10、用意した。半分は挑戦者にとって有利になるものだ」
5つは悪い効果か。
自分のポケモンがどういう状態か分からずに出したら、バトルを始めて早々に混乱してしまう。
「…試合前に開放するポケモンの数は、決められてますか?」
「いくらでも構わん。このジムで禁止していることは、故意に壁を破壊して進むことだけだ」
あ、それはやっぱり禁止なんだ。
挑戦者が壁の迷路を攻略している間、キョウには考える時間が与えられている。
けれど一応は、挑戦者に与えられる時間も同じだけある。上手く罠を利用して彼の元にたどり着けるよう、考えなければならない。
「ちなみに、オレは今日4匹のポケモンを所持している。その内一匹は君と面識のあるポケモンだ。自分を出せと昨日から騒がしくてな。余程君と戦いたいらしい」
「それは、光栄ですね。っと、……ニドリーノ、」
「ほう……昨日の」
今のところ、彼が知っている私のポケモンはこの子だけだ。
タイプどころかパーティ構成まである程度知られているジムリーダーに対して、挑戦者は直前まで手の内を隠しておける。
事前準備をしておけば、圧倒的有利で試合を始められるのだ。
けれどここでは見せずにいられない罠がある。そして見せれば見せるだけ、対策される。本当にいやらしいジムだ。
「よろしくね、ニドリーノ」
この子はトレーナーならまだしも、ジムリーダーを相手にするのはあまりにも早い。
けれど半日頼りに頼ったのに即博士に預けるのは気が引けたため、一日だけでもと連れてきた。
常に両側の壁に触れてしまうほど大きくはないし、仮にどくを与える技がかけてある壁にぶつかったとしても、どくタイプのニドリーノなら受け付けない。
それにニドリーノの耳はピクシーほどでないにしても敏感で、6匹の中では気配を探るのに一番適している。
戦わせないと始めから決めていれば、とても頼れる仲間だ。
対して、キョウのポケモン。一匹は面識があると言った。
捕まえたばかりのウツボットをいきなり実戦に出すとは思えない、出てくるのは確実にアーボックだ。
昨日の聞き込みで分かったのは、彼のバトルはアーボックもしくはマタドガスが主軸となること。
そして二匹ともが出てくることはないこと。だから今回マタドガスが出ることはない。
ただ、一日ばかりの聞き込みでは、他のメンバーを見た人を見つけることが出来なかった。ここからは予測するしかない。
どくタイプを持つポケモンは、フシギダネ種、ビードル種、ニドラン♂♀種、メノクラゲ種、コンパン種、ベトベター種、ゴース種、ナゾノクサ種、ズバット種と決して少なくない。
どくタイプオンリーだったら、ドガース、ベトベター、ベトベトンだろうか。
2タイプを持つポケモンも扱うなら、ゴルバットやモルフォンなんて彼らしいのではないか。
もちろんイメージで決め付けるのはいけないけれど、忍者らしく見せるためにジムを改造した彼なら、そこまで考えていそうだ。
2011.04.08. up.