研究員の『毒』、それからエリカの『悪夢』。
二つから連想して思いつくのは、最近仲間になったばかりのあのポケモンだ。
若い方の黒ずくめの持つポケモンが、ゴース系だと仮定する。
身につけているボールは、見える範囲で二つ。たった二匹でここを制圧した?いくらなんだって無理だろう。
一方で、所有するポケモンが六匹とも限らない。
けれど逐次『おや』が指示が飛ばせる範囲にいないのであれば、同時に遂行できる命令はせいぜい一つか二つだ。
では、組織的に動いていたなら?
ゴース族同士であったら、その内一匹が指令役として『おや』に付き従い、離れた場所にいる同族に指示を送ることだって出来るかもしれない。
少年の呼びかけに、男が立ち上がって歩み寄った。
は男の動きにつられたように顔を上げ、さりげなく見渡す。
緑色のライトに灯された水槽、煩雑に詰まれた資料の山、机や転がった椅子。どこにもポケモンらしき姿はない。
ゴース・ゴーストはガス状ポケモンだ。霧状になって隠れていることもありえる…けれどここにはシオンのポケモンタワーで見たような霧は漂っていない。
ゲンガーだったらどうだろう。実際に見たことは無いが、雑誌や学術書でなら何度も見たことがある。
素早さや特殊が特に高いポケモンのはずだ。最終進化であることも含め、リーダーにはもってこいだ。
博士に借りた本には『影が勝手に動き出すのは、ゲンガーが関係しているかもしれない』と書いてあった。
影に入ることが出来るなら、影から出てきた瞬間に攻撃すればいい。
けれど当たりをつけるにも、この研究室は物が多すぎる。
どうやって二人とそのポケモンに気付かれない内にこの場のどこかにいるだろう司令役を倒せばいいのだろうか…――。
兎にも角にも、この場で動けるのは彼女だけだ。
((ユエ、聞こえてる?))
自分以外には聞こえないほど小さく、囁く。一度体を共有したためか、他のポケモンよりも感覚的に『近い』彼女には、強く意識すれば届かせることができる。――お互いにもう少し集中すれば、声が無くても通じるかもしれない。
過たず、彼女の声が頭に響く。
男達やゲンガーには、今も見られているかもしれない。けれど頭の中で考えていることまでは、どんなポケモンでも悟れないだろう。
しかしこれで『繋がる』ことができた。
今度は口を動かさず、心の中で呟く。
((さっきの、ユエだったら出来る?……そう。だったら、こういうのは……?))
「おい、時間だ」
「そっちはとっくに終わってるっての。あとはこっち……は?」
作戦を練りながら、は考える。
男たちは今こちらに完全に背を向けている。
私からすっかり関心を失ったように。さっきもそうだった。逃げて構わないとまで言った。あれは本心だったのだろうか?
エリカの記憶を消したとしても、私の記憶は残っている。逃げて警察に駆け込めば、じきに指名手配されるだろう。エリカの名前を出せば、門前払いというわけにもいくまい。
それに国際警察が男たちの組織を追っている以上、これから先『組織と対面しながらも生き残った』人物に接触を図る可能性は極めて高い。
普通に考えれば監視を解くことはないし、ここで殺そうとするはず。
仲間にするのを諦めていないという言葉が仮に本心だとしても、モンスターボールを奪うなり、抵抗手段を無くしておくものだろう。
((じわじわと体力を削って、気づいた時にはもう逃げられないように……、っ、))
限界以上に考えすぎたのか、ズキリと頭に痛みが走った。手を伸ばして頭を支えようとするが、伸ばすことが億劫に感じた。腕が重い。
意識すると、腕どころか身体中が心なしか重い気がする。
……気のせい。思い込み。
そう割り切ってみても、ズキンズキンと脈打つ痛みは収まらない。
……どれもこれも、考えすぎで?
一際大きな頭痛の波が来て、視界がぐらついた。体が傾ぐ。椅子のふちを掴んで体を支えようと、手を伸ばす。
……あ。
そうか、潜んでいたのは、
私を監視していたのは、
「……っ、」
掴もうとした手は空振り、は椅子から落ちた。
2010.11.07. up.
2012.02.23. 改