「……草むらに、木?」
「タマムシの自然をそのまま再現したものですの。癒されるでしょう?…ふふ。ここにいると、うっかり寝てしまうことさえありますわ」
審判を務めるというエリートトレーナーに連れられた先は、タマムシジムの最奥。
ジムにはいくつかの部屋があるのだが、その中でもこの部屋がもっとも大きいのだとか。
地面に生い茂る草と、囲うように植えられた木々。室内であると感じさせないほどの緑と、ジムリーダー・エリカが、たちを待っていた。
「わたくし、実力の無いトレーナーとは戦いませんの。けれど貴方であれば本気でお相手しても良いと直感しましたわ。このバトルフィールドはわたくしのポケモン達が十分に実力を発揮するためのもの。――さぁ、ポケモンをお出しになって」
エリカの出したポケモンはラフレシア、そしてウツボット。
二体を同時に出すということは……
「ダブルバトルですか。分かりました、受けて立ちましょう」
ボールを選び、開放する。
相手はジムリーダー、遠慮はしない。全力を尽くすだけだ。
「フフフ…リザードンにハクリュー。相性の上では貴方の圧倒的有利ですわね。――アヤカ、始めなさい」
「はい、エリカ様。――試合形式は2対2のダブルバトル。一方が2体とも戦闘不能になると、試合終了です。では……」
構える。
「バトル開始!」
「レン、『かえんほうしゃ』!!」
「確かに草タイプは弱点が多いですわ。けれど草タイプには草タイプの戦い方というものがありましてよ。――…ラフレシア、避けなさい!」
ラフレシアだけ?ウツボットは避けないのか。
唸りをあげて突き進んだ火炎放射は過たずウツボットに直撃した。見るからに大ダメージ。HPは残り少ないか、瀕死状態と見てもいいだろう。
「まずは一体!ハク、『れいとうビーム』だ!!」
「させませんわ!ラフレシア、『はなびらのまい』!!」
「!?」
直線に突き進む冷凍ビーム。
しかしラフレシアに届くまでに、舞い飛ぶ花びらによってかき消されてしまう。
ハクの冷凍ビームは直線。曲線で進むそれを全て凍らせることはできない。
「だったらもっと強く攻撃するだけだ!ハク!!」
「いいえ、そうはいきませんわ!ラフレシア、『つるぎのまい』!!」
花弁が更に回転する。ゴォッ、と風鳴りのような音が響いた。
ラフレシアから放たれる花びらだけでない。
周囲に咲く花や木々の葉を巻き込んだ竜巻が、ハクを襲う!
「さしずめ作った『はっぱカッター』ってところか!けれどこれはシングルバトルじゃない!レン、『かえ…」
「ウツボット、縛り付けてさしあげなさい!!」
「何!?」
どこからともなく現れたツルが、一瞬でレンに巻きついた。
翼をばたつかせて抵抗する間にも、拘束される場所が広がっていく。
「レン、燃やせ!!」
「グル……ッ」
炎を吐こうにも、口をツルが覆い、開くことが出来ない。
瞬く間に全身を縛られ、レンの体は地面に縫い付けられた。尻尾さえも動かせない。
…チッ、もっとフィールドを広く見るべきだった!!倒したとばかり思い込んで、ラフレシアに注視していたのはのミスだ。
「ハク、ツルに『れいとうビーム』!!」
「無駄ですわ!ウツボットのツルはどこまでも伸びる上に、一度捕えた獲物は絶対に離さない頑丈なもの。簡単には切れませんことよ」
「くっ…!さっきまでのウツボットは演技だったのか!!しかもこのツル、草の中から現れた」
「えぇ、この草のフィールドは、気づかれずにツルを伸ばすためのもの。最初の攻撃をウツボットに受けさせたのは、すべてこのためにですわ。加えてラフレシアの攻撃は、地面に目を向かせないための囮でしてよ!」
あれだけの威力の攻撃を囮に使うなんて…!しかもそれだけじゃない!!
巻きつくによるダメージとは別に、レンの体が痙攣している。
「『どくのこな』を浴びたのか!」
「えぇ。その厄介な翼、封じさせていただきましたわ!ウツボット『メガドレイン』!!」
…さすがジムリーダー、苦手タイプは対策済みだ。このままじゃレンはじわじわHPを削られる。しかも未だラフレシアの『はなびらのまい』は続いてる。どうする…?
直接ウツボットを叩こうにも、一進一退で攻撃を防いでるハクを動かせば、レンに攻撃が移るだけだ。
「……リュ!?」
「――ハクッ!?」
ぐら、と揺れるハクの体。
慌てて持ち直すが、浮遊する高さが先ほどより1メートルは低い。
「麻痺か…ッ!」
「えぇ、『はなびらのまい』に『しびれごな』を混ぜたのですわ。見えないほどの微小な粉です、気が付けなくて当然でしょう。けれどこれでハクリューのスピードは落ちました。戦闘不能を待つばかりですわね」
「舐めんな…ハク、『たたきつける』!!」
「直接攻撃ですか、けれどそんな体でダメージになるのかしら」
「ならないさ」
ハクの『たたきつける』は、ラフレシアに届いた。
一撃でラフレシアを倒すほどの威力は無いが、それでもラフレシアの体勢を崩すには十分。
「!?…ラフレシア、舞をやめなさい!!」
「もう遅い!」
過たず花弁のカッターが舞う。
その先には、
「狙うのは、ツルだ!!」
ブチッ!!
音を立てて、ツルが落ちた。
レンの体に巻きついていたツルがゆるみ、外れていく。
解放された口から灼熱の炎が吐かれる。炎の渦がレンを包んだ。
「――…レン、『かえんほうしゃ』!!」
ハクの氷攻撃で切れなくても、ラフレシアの刃物のような『はなびらのまい』なら切れる。
だがただでさえHPを吸い取られているレンを、直接ラフレシアに攻撃させるのはリスクが大きい。
咄嗟に『一本のツル』を切らせる作戦に変更したが、上手くいって良かった。
だが縛られている間にもレンが炎を溜めていたとは思いもしなかった。
ラフレシアとウツボットを同時に焼くことは想定内だったが、まさか周辺の木々を燃やし尽くすまでの炎を吐くとは。
『いかり』。なんとも恐ろしい技である。
「ごめんなさい、自慢のフィールドが……」
「ここはバトルのための場所、また誂えればいいだけのことです。気に留める必要などありませんわ」
室内は黒焦げ。草木も大半が燃えてしまったため、地面が露出している。
レンに指示した立場で何だが、元に戻すのにはかなりのお金がかかりそうだ。
しかし何事も無かったかのような風の彼女。名家のご令嬢だとは聞いていたが、やはり金銭感覚が違うのだろう。
「最後の攻撃は特に素晴らしかったですわね。わたくしの技を受けた上で、あれほどの攻撃を返されたのは初めてですわ。レインボーバッチ、受け取ってくださいますね?」
「ありがとうございます。では、」
「お待ちになって。ポケモンの回復を待つ間だけでも、わたくしのお話のお相手をしてくださいませんこと?――いいえ、。今日の宿は決まっていて?」
宿……ああ、宿泊施設か。
彼女の口から『宿』と聞くと、老舗の高級旅館のようなものが真っ先に浮かんで、何のことだかすぐに思いつかなかった。
「ええと…ポケモンセンターに」
「それならば、わたくしの屋敷でも構いませんわね。お召し物が煤で汚れてしまっていますわ。すぐに洗わせましょう」
「はい、エリカ様。――さん、申し訳ございませんが少々お待ちください。今、迎えの者を向かわせておりますので」
いつの間に泊ること前提になっているのか。
いや、正直に言うと夕食代やら何やらが浮くのは喜ばしいことだが、彼女たちの間だけで進められているというのは一体どういうことやら。
「……え、と?この程度、手で洗えば取れますし。私のことは大丈夫です」
「、突然ですが、わたくしのつまらない話を聞いてくださるかしら。――…わたくし、恥ずかしながらタマムシより外を自分の足で歩いたことがありませんの。名家の娘が足を汚すなどみっともない、と歩かせてもらえなかったのですわ。これからもそうでしょう」
いいえ、不満はありませんわ。この家に生まれたからこそ、わたくしはこの街のジムリーダーになれたのですから。
そう言って微笑む彼女の気持ちを、すべて理解することは出来ない。余りに境遇が違いすぎる。
傍目からは裕福で何も不自由ないように見えるエリカ。
しかし誰にでも出来るのに、彼女だけが出来ないことだってあるのだろう。
「ほかの街や自然のことは、伺って知ることしかできませんの。だから、あなたの歩いて来た道を、わたくしに教えてくださいませんか?」
2009.06.19. up.
2012.02.23. 改