いい加減通行人の目線が気になった私は、とりあえず歩きながら話を聞くことにした。

はじめは散歩だろうと楽観していたが、「最近街でポケモンがいなくなっている」という話を聞いてからは、ゲームセンターを疑っていたという。
出来て間もないのに早くも黒い噂が絶えないゲームセンター。人のポケモンを盗んで景品にするくらい、考えられることだったらしい。

事情を言って協力を願おうと大人に片っ端から声を掛けても、まるで話を聞いてくれなかったり、嘘だと決め付けられたり、目を離すから悪いのだと諭されたりと、ほとんど断られてきたそうだ。中には親切なトレーナーがいて協力してもらえたこともあったが、奪い返すまでには至らなかったという。
スロットでコインを貯めようと思えば半年分のお小遣いをものの数十分で失い、賭けに出ずにまとめて買おうにもコイン5500枚となれば必要なお金は11万円。到底用意できる金額ではなかった。

焦りが募る中、毛色の違うにまで声を掛けたのは、強いトレーナーだと思ったからだそうだ。
農作物を食い荒らして毎年農家を困らせていた強敵カビゴンを捕まえたのだから、いくら見かけがチビでも凄腕のトレーナーに違いない。
スロットの回るスピードはポケモンの技より遅いから、ポケモンバトルに慣れたトレーナーだったらスロットの回転が見えるだろう。いくら見た目がチビだろーがスロットにも強いだろう。…と判断したのだとか。

「……喧嘩売ってる?買うよ、レンが」
「レン?」

モンスターボールを投げる。
過たず権兵衛の眉間にボタンが当たり、中からレンが現れる。挨拶か、手で権兵衛の頭を撫で……、?押し潰そうとしてる?

「リザードン。私のパートナー。よろしく…してもらってるね」
「いたっ…いたたたたたた!!!え、なんでっ、ちょ、まっ、ごめんほんとごめんってぇっ!!」
「あー……レン、ストップ」

の言葉にレンはピタリと止まり、のしのしとの隣に立つ。
ぶわぁ、と涙を溜めて感動を露わにする権兵衛に背を向けて、「これ以上バカになったら私が困るでしょ?」とレンを叱り、ボールに戻す。

「……やっべ、超泣きたい」
「泣いてるじゃん。…最後。わたしは今日中にセキチクシティに着くつもりでした。だけどもはや着けそうにありません。どうしてくれるのかな」
「うっ」

しかし、なんと16番道路は自転車が無いと入れないそうだ。
別名サイクリングロード、であるから、考えてみれば当たり前ではあるのだが、自転車を持っていないにとっては由々しき事態である。
セキチクまでレンに乗せてもらってもいいのだが、サイクリングロード内には草むらがあり、時間を掛けて調べる必要がある。そのためには自転車を借りなければならない。

自転車を持ってない人はまでどうやって行ってるのかと尋ねると、16番道路−17番道路のゲート間で有料で自転車を貸し出しているという。

「大体理解した。景品の入手ルートが盗みって確信しても騒がない、口外しない。それだけ守れるなら手を貸してもいいよ」
「なんでだよ。絶対盗みだってなったら、警察だって動くだろ」
「私は正義のトレーナーじゃないの。本当に盗みだったら、背後にどんな組織がいるか想像つくでしょ。家族ともども面倒ごとに巻き込まれたくないなら守って」

成功報酬:レンタサイクル利用券綴り(6回分)
成功条件:権兵衛のストライクを穏便な手段で入手
という契約で手を打ち、そうと決まれば即行動、問題のゲームセンターまで案内してもらったはいいものの。

点滅する看板を視界に入れた時から、はうわぁ…と口を開けたまま見上げていた。
近づけば更に迫力は増し、昼間からネオンライトてんこ盛りの外装、扉が閉まっているにも関わらず漏れてくる騒音が追い討ちをかける。

一方権兵衛にとっては見慣れた光景の一つでしかないようで、構わず歩みを進めていたものの、隣に誰もいないことに気づいて振り返り、すぐ後ろで苦々しい顔をしていたを見て首を捻った。

「?どうしたんだよ。ゲーセンくらい見たことあるだろ?」
「こんなにギラッギラしたの、見たことない。本当にゲームセンター?」
「あー…客は大人の方が多いかな。まぁ、入っちゃえばすぐに慣れるって」

ほら、と促されてしぶしぶ足を動かす。
すぐに急かすように力強く腕を引かれ、は音の奔流する店内に飛び込んだ。








スロット初体験で勝手の分からぬは、とりあえず店内を回ってやり方やコツを聞き出すことにした。
不足分の350円を権兵衛に渡して「絶対に台に触るな」と脅してから交換を命じ、当たりが出やすい台があることやその見極め方を学んだり、交換できるポケモンを聞いたり、大当たりしたらしいおじさんからコインをおすそ分けしてもらったりなどして一周し、権兵衛の待つ台に戻る。

言いつけどおり何も触らず待っていた権兵衛に思わず笑ってしまい、ふて腐られたりなどして早数十分。

「そこっ!ってあー…おっそ……」
「そういうおまえは…いいやなんでもねぇ」

椅子脇に積まれたのケースを見て、権兵衛がため息をつく。
暇だ暇だと煩い隣人に適当にコインを渡しつつ確実に増やし続けるに、なんでそんな簡単に揃うんだよと権兵衛は愚痴るように呟いた。

「機械の癖を見抜く。押すタイミングを掴む。それだけ。見てれば分かるでしょ…そこっ!」
「うぉ!?…あー……。そんなん常人には出来ねぇよ。あのさ、スロットってのは、いくら揃うタイミングで押したって絶対に『スベる』ように出来てんだ。だってのに…――うわ、終わっちまった……」
「言っとくけどレンタル券6枚分相当のコインはとっくに渡してるからね。はいラスト。これ以上はあげないから」

いくら押すのが苦手だからって反応速度を一定にしてくれればそれに合わせて声を掛けてやれるのに、狙ってるんじゃないかってほど毎回ズレて押すものだから、すぐに無くなるのだ。 恨めしげな視線は放置して、は自分の台に集中する。 同時に二つの台に気を配っていたために、自分の台になおざりになっていたのは仕方がない。それを承知で外れても痛手とならないよう掛け金を少なくしていた…が、これで、3枚掛け(MAX BET)で一気に畳み掛けられる。

……目も耳も痛いし、いい加減飽きてきたし。とっとと景品貰ってかえろう。 口に出せば店内どころか全国のギャンブラーに睨まれそうなことを平気で思うだった。






「嬢ちゃん、景気がいいねぇ」
「おかげさまで」

軽快な音楽を鳴り響かせ大当たりを連発するに、見物客がぞろぞろと集まる。
さすがに連続して当てすぎているのか、店員さんも遠巻きに監視している。ついでにこの台は三台目。調整するだとかなんだとかで、度々場所を替えさせられるのだ。
けれどいくら探られたって、不正はしてない。 機械が絵柄がスベらせ、当たりを外すのだといわれても、絵柄は揃うべくして揃ってしまうのだ。

「またピタリと揃えるもんだなぁ…」
「初めて見る顔だが、スロプロかい?こんな若いのがいたらすぐ噂になりそうなもんだけどな」
「スロプロ?」

聞き慣れない単語に、思わず聞き返す。
プロのポケモンブリーダーがいるようにスロットにもプロがいて、スロットの収益で生計を立てているのだとか。そういう人をスロプロというのだいう。

そういえば、友好的なおじさんたちに混じっていくつかギラギラした目で睨まれているような気がする。
ただでさえ最悪なやつに目をつけられているのに、金を持ってるガキがいる、なんて狙われでもしたら多重に面倒だ。易々とカモになってやる気はないけど…。

「しっかし、この嬢ちゃんはどこまで搾り取るつもりだ」
「このケース数からしたら全種類交換できるんじゃないか?」

腕組みしてスロットを眺めていたおじさん達が、口々に言う。

「え?…そうなの?」

コインの枚数の目測までは聞いてなかった。権兵衛に視線を送るが、彼も分からないようで目をぱちくりさせるだけ。
……そりゃそうか。一度だって自分では揃えられない権兵衛が、交換できるくらいにコインを貯められるわけがない。

「じゃあ、そろそろ…」

機械の上部にある【呼び出し】ボタンを押すと、待ってましたとばかりに店員さんが台車を走らせてきた。
ちょっと、何人か轢いてますけど大丈夫?

 

2011.01.14. up.

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