「リク、『でんじは』!…いまっ、『れいとう………」
……
………
……………………
「あぁもう…大人しく凍ってってば……」
遡ること数時間前。
一週間かけてタマムシシティの東側・7番道路の生態系を調査し終えたは、憩いの広場で休憩中、今年も西側に変な壁が出来て通れなくなった、との話を耳にした。
すぐに階下で捕獲グッズを補充し、意気揚々と向かった先には、壁、もしくは岩としか思えない黒いなにかが頭上まで。
押してみればぶよんぶよんと撥ね返り、引っ張ってみれば餅のようにどこまでも伸びる。
「…カビゴンだよね、どうみても」
博士の研究所で、写真を見た。念のため、その時一緒に眺めていたレンにも聞くが、空から確認した彼も首を縦に振っている。
春がきて食料を探しに山を降りたはいいが、力尽きて動けないとか、そんな理由だろうか。
しかしここ、16番道路は一本道。その上を丸々塞ぐようにどーんと寝転がって動かないカビゴン。
これでは次の目的地・セキチクシティに行こうにも、ゲートを通れない。
別ルートをたどるなら、ヤマブキ、クチバを通っての遠回り…工事中だったら諦めるが、ポケモンだったら捕獲すればいいだけの話だ。
けどなぁ…。バトルする気のない野生ポケモンに一方的に攻撃するってのは、どうなんだろう…。
けれどいくらつついてみても、リクを腹の上で飛び跳ねさせてみても、起きる兆しの全くないカビゴンに、とうとうはじれったくなって、覚悟を決めた。
この結論に至るまでで、早くも一時間経過。我ながらよく耐えたと自画自賛しながら、はボールを選ぶ。
三年寝太郎に、それなりにきつい一発を浴びせる覚悟も決めた。
「……カイ、『はかいこうせん』」
空気が震える。
過たず、一帯は土煙に覆われた。
街が近いということで多少威力を落とした衝撃波。それでも推定500キロ超の巨体は『はかいこうせん』が命中するとふわりと浮き上がり、すぐに落ちた。
今度はぶつかった衝撃で、地面が揺れる。
「カイ、ありがと。ボールに戻って」
これだけ分厚い脂肪、炎技は半減されそう。
眠っているから、『でんじは』もこおり状態目的の『れいとうビーム』も却下。
ユエはそもそもゴーストタイプだから、ノーマルタイプのカビゴンに攻撃を当てることができないし。
消去法で選ばれた、『はねる』と『たいあたり』、そして『かみつく』より先に何故か『はかいこうせん』を覚えたカイを戻す。
「しっかし……これで起きなかったら、どうしようか」
一応ボールを投げてみるが、大福のようなおなかに弾かれて入りもしない。次の攻撃のためにレンを出し、カビゴンの様子を探る。
しかしの杞憂はすぐに終わった。
ねぼけた カビゴン が おそいかかってきた ! のである。
のそりと二本の足で立ち上がったかと思うと、カビゴンはそのまま倒れこむようにして『のしかかり』を繰り出した。
「え、ちょっ、ぇえええええ!!?」
に向かって。
だがしかし、間一髪レンの翼が早かった。掬い上げられるように、迫り来る巨体から脱出する。
「ありがとレン!早速だけど『かえんほうしゃ』…ってえぇ!?」
カビゴンはうつ伏せのまま、再び眠っていた。
『ねむる』は自分のHPを全回復し、状態異常も回復する技だ。
ただし、2ターンの間ねむり状態になる。ついでにHPが満タンだと失敗する。
「無限ループって怖いよね…」
捕獲するためにHPを削れば『ねむる』。
『ねむり』の間に攻撃すれば、起きてまたすぐに『ねむる』。
じゃあ麻痺させて動けなくさせようと『でんじは』をすれば、『ねむる』。
『ねむる』『ねむる』『ねむる』…『ねむる』。数えるのはやめた。
眠らせないために『れいとうビーム』をした時は、今のところ二通り。
@命中するも『こおり』状態にならない→『ねむる』。
A命中して『こおり』状態になる→なかなかボールに入らない→なかなかボールに入らない→なかなか(ry→こおりがとけた→『ねむ(ry
燦々と陽が降り注ぐ春が憎い。
「あーもう……」
更に一時間、適当に投げていたら入りました(゚Д゚)
どうやら腹が空いてボールから脱出する気にもならなかったようです ( ゚ Д ゚ )
オーキド博士、泣いて喜んでたなぁ。珍しいポケモンだから、手に入って嬉しかったんだろうなぁ。
ポケモンセンターで手に入れたばかりのカビゴンを送って、本日二度目のタマムシデパートに向かう道すがら。
転送早々研究所内で食料を求めて暴れだしたカビゴンに涙を浮かべるオーキドの顔を思い出しながら、は鼻歌を歌っていた。
気持ちがうつったのか、頭の上のリクも合わせて歌う。
「…ぃ、おい、ってば!!」
「いたっ!……って、だれ?」
突然髪を掴まれた。
頭ががくんと曲がって、リクが落ちる。
心臓をばくばくさせながら振り向けば、頭一つくらい大きな少年が見下ろしていた。
…まったくもって、見覚えが無い。
「オレは…別に誰だっていいだろ。おまえだってさっきから呼んでんのに全然気付かねぇし。それはまぁ置いといて」
「そこ重要だと思うけど」
じんじんと痛む頭皮を押さえながらが半眼で見上げるが、少年は全く気にするそぶりもなく話を切り替えた。
……自己中。ポイント−10。
ただでさえ第一印象から最悪なのに、評価がだだっ下がりだ。
マサラでは子どもと会ったことが無かったから、には同世代の子どもの精神レベルなんて分からない。
更に常々「大人びている」と言われた。この年齢の男がみんなこんな感じなのだとしたら、無理無理。付き合いきれない。
「あのさ、おまえ、あのカビゴン捕まえたんだって?さっき近所の人から聞いたんだけど」
「あのカビゴンって、どのカビゴン?」
「16番道路の」
間髪入れない断言に、喉元まで出掛かっていた「人違いです。」の言葉を飲み込む。
「あー…うん、それは私だけど」
だから何。
「頼む、オレを助けてくれ!!」
……はぁ?
一先ずまとめるとこう。
少年(名前を言わないから、名無しの権兵衛とする)はタマムシの人間。
権兵衛は家であるポケモンを飼っていた(つまりトレーナーではない)。
しかしいつの間にかそのポケモンが家からいなくなった。きっと悪者に連れ去られたに違いない(と、権兵衛は考えている)から、悪者から奪い返してほしい。
……たったこれだけの情報を言わせるのに、どれだけ時間がかかったか。
「権兵衛の態度が悪すぎて逃げ出したんじゃないんですか」
「誰だよ権兵衛って。それにオレはちゃんと愛情を持って育ててたって!!あとおまえみたいなチビが敬語使ってるの気持ち悪い」
「(イラッ…)……名前知らないし。それに、今のあなたの姿を見たら、どんなポケモンだって逃げ出したくなるんじゃない?」
現在:権兵衛、地べたに正座中。
、ベンチに座り、時折右手に握るミックスオレの缶に口を付けている。
苛立ちを顕わに「他当たってください」と背を向けた彼女(見た目8歳)に必死に食い下がり、ミックスオレを献上し、やっとの思いで話を聞いてもらった権兵衛(年上)。
「……はぁ。で?その悪者とやらはどこにいるんだっけ?」
「オレの目に間違いねぇ。悪者は『タマムシゲームコーナー』にいる!!」
「オレ、見たんだ。必死に探し続けて三日目のことだった…オレのストライクがあいつらに無理やり連れられて、店内に入っていったんだ!」
「……で?」
「オレは勇気を振り絞った。それは無謀だが、しかし勇敢だった。けれど決死の覚悟も大人3人が相手ではどうすることもできず……」
「…………で?」
「気が付いたら家にいた。それから数日してオレのストライクが、ゲームコーナーの景品になったことを知ったんだ。……見間違いじゃねぇよ、オレのストライクは鎌の形が他と違うんだ」
ツッコミはするまい。
しかし人のポケモンを盗んで、景品にする?そんなことがこの街で起こっているのか。それは犯罪だ。
「どうして始めにそれをっ、……それからは泣き寝入り?」
これ以上話を長くすることはないと罵詈雑言を飲み込んで、続きを促す。
「勿論何度かゲームコーナーに行ったけど、コイン5500枚となら交換してやるぜ、って毎回門前払い」
「子どもでも入れるんだ」
「金さえ持ってれば。50枚1000円で売ってるんだ」
「じゃあ、換金すればいいんじゃない?その50枚からどうにか増やして」
そうすれば、事を大きくすることなく取り戻せる。
「それがさ…さっき買い物したら、足りなくなって」
それ、と指さした先は、ミックスオレ。
そういえば、さっき1000円札を自販機に入れてたっけ。
「………散々バカって思ってたけどねぇ!!」
2010.11.15. up.