「――じゃがいいんかの?カラカラは嬢ちゃんによく懐いとるようじゃが……」
「はい。私には生まれたばかりのこの子を育てていくだけの知識も余裕も無いですし…第一、これ以上この子を危険なところに連れて行きたくないんです」
「そこまで言うなら仕方ないの。なに、シオンタウンの人は心優しい人ばかりじゃ、きっとカラカラもすぐに元気になるじゃろうよ」

長い一日が終わった。昨日は夜更け過ぎにポケモンセンターへ戻り、ベッドに倒れ込んだところでの記憶は途切れている。自分で思っていたよりもずっと疲れていたようだ。

街は騒然としている。一晩の内に出来ていた、ポケモンタワー上階の謎の穴。それが街の人たちの話題の中心となっている。
タワーは土地柄か、ガス状ポケモンが多く集まる場所である。それに加え、四六時中どこかしらで灯っている蝋燭の炎。
引火によるガス爆発によるものというのが専らの噂だが、真相を知る者はその中にいない。

場所を変えて、フジ老人の家。ここにその真相を知る者が一人、そして今、二人になった。
テーブルを挟んで、向かい合う二人。空になったティーカップが、の手でソーサーに戻される。小さく音を立てた。

「この子だけでも保護できたのは不幸中の幸いじゃろう。、この子の母親に代わって…というのは変じゃが、ポケモンタワーの管理人として、ワシから礼を言わせてほしい」
「……お礼なら、もう言われましたよ」
「?」

部屋の一角でドードーと戯れる、件のカラカラに目を向けながら、が呟いた。
ティーセットを片づけるため椅子から立ち上がろうと動いたフジには、その言葉は届かなかったが。

「あ、私が片付けます。座っててください」
「そうかの?じゃあお願いしようか」

腰を浮かしたフジに気づいたが、その手から受け取って代わりに立ち上がる。
お盆に二客のティーカップとポットを置いて、持ち上げた。
流しでいいですよね?と、お盆を持って振り返った時、音を立ててドアが開いた。

「フジのおじいちゃんーー、いるーー?」
「おや、どうしたんじゃ。そんな所にいないで入ってきなさい」

あー、いたー!!と元気良く入ってきたのは、小さな女の子。

「パパがちょっとタワーに来てほしいってー、あれ、だーれ?おじいちゃんのお友達?」
「この子はといっての、旅人さんじゃよ。、すまんがわしはこれからタワーを見に行かなければならん。はどうするかの?」
「私は、ええとその……」

タワーを壊した張本人はここにいるのだが。まさか吊し上げにでもする気なのだろうか。
先の会話で行為を不問にする、と言われたが、気が変わってしまったのかとは一瞬不安に思った、が。

全てを知ってるフジが、にこりと笑って嘯く。

「は昨日シオンに来たばかりだからよく知らんじゃろうが、あそこはガス状ポケモンが良く集まる場所での。今までも割とあったことなんじゃよ」
「でもパパがね、『どうせ肝試しにきたガキどもが驚いてローソク蹴っ飛ばしたんだろ!』って笑ってたよ。あとね、ポケモンタワーは古いからた…建て替え?する計画があってー、ちょうどいいから前倒しにするって、言ってたよ。良く分かんないけど」

パパの言うこと、時々難しいから嫌い!と頬を膨らませる少女を、まぁまぁと宥めて、フジ老人が席を立つ。

「そういうわけじゃから、気に病むことはないんじゃよ。どれ、行くとするかの。、それはそこに置いたままでいい。それで、キミはどうするのじゃ?」

じゃあと呟いて、地図をイメージする。
今朝すでに一度見たものであるから、ルートがすぐに浮かんだ。

「今日は……地下通路を通って、タマムシシティに行きます」
「えー、おねえちゃんもう行っちゃうの?もっとおしゃべりしたかったのに」
「途中までは一緒だよ。それまでだけど、おしゃべりしよっか」
「うん!」

膝をついて少女と目線を合わせ、ゆっくりと言葉を紡ぐ。 途端に嬉しそうな顔で頷いた少女の頭を、優しく撫でた。
そして、笑い合う二人を、フジは穏やかな笑みを浮かべて見守った。




「それじゃあ、私はこっちだから」
「おねえちゃん、また遊びに来てね!わたし、おねえちゃんに負けないくらい、ちゃんと育てるから!ぜったいにぜーったいに来てよ!!」
「うん、また来るからね。おじいさんも、体に気をつけてください。ドードーにも、また会いに来ますから」
「こそ、無理はしないんじゃよ。いつでも待っとるからの」
「はい、じゃあ行ってきます!」

二人は東に、一人は西に。
いつまでも互いに手を振って、見えなくなるまでまた会おうと叫んだ。



そしてその約束は、遠くない未来、叶えられることになる。

 

2009.06.19. up.
2012.02.23.改

NEXT TOP