核を撃たなければ何度でも復活するガス状ポケモンの群れ。
3匹の敢闘もあってその数は次第に減っていっているが、このまま現状を続かせればこちらが先にやられてしまうのが目に見えている。
目的にたどり着く前に敗れてしまっては元も子もない。 体力を残したまま、あいつにたどり着くには。 の手中にある、突破口はただ一つ。

――ごめんなさい。私はあなたたちの安らかな眠りを覚ましてしまう。
ここで眠るポケモン――墓の下にいるポケモン――に心の中で謝る。

「ハク、後ろだ!『りゅうのいかり』!!…リク、『かげぶんしん』して『でんじは』!!レン、『かえんほうしゃ』だ!!――あと少しだ、頑張れみんな!!」

誰からも忘れられてしまうことが一番悲しいことだと、私は思う。だから騒がしくすることを、どうか許してほしい。あのゴーストさえいなくなれば、弔う人はきっとまた戻ってきてくれるから。





感じる、彼の内部に起こっている異変を。 目を凝らしても、耳を澄ませても分からない、でも何故か分かる小さな変化。
それは一番長く、近くにいたから。私にしか分からない、それは。

「ウ…ガァァ!!」
「…!来た!!ハク、レンのカバーに回って!!リクはそのまま!絶対に攻撃を緩めるな!!」

ぶるぶると震える体に手を伸ばしたい。メキメキと悲鳴を上げる体を、支えてあげたい。
だけどそれは意味のないこと。トレーナーは導くことしか出来ないから。そして、もう一つ。心を重ねて、後押しすることだけ。

「今こそ新たな力を得る時……、“リザードン”、『かえんほうしゃ』!!」
「ガァァァ!!」

格段に威力の増した火焔に、逃げまどうガス状ポケモンたち。
火炎放射の行きつく先は、部屋の奥。しかしサイコキネシスでも使っているのか、元凶のゴーストには不自然にねじ曲がって届かない。

――凄い…、この攻撃が通用してないなんて!!
思わず感嘆の念を抱く。

捻じ曲げられた炎は、周囲のポケモンを巻き込んで壁を熱する。 一気に室内温度が高くなる。当然だ、ガスが蒸発するほどの炎が、室内を焼き尽くしているのだから。

「逃げようたって無駄だよ!リザードンの炎は岩石をも溶かす!!」

間一髪で攻撃を避けた残りのポケモン達が、炎の切れ間を縫い、一斉に襲い掛かる!

「ハク!!」
「リュ!」

天井すれすれに浮かび待機していたハクが呼応して鳴く。
眼前に敵意をもつポケモンが迫りくる中、異彩を放つ2つの瞳と視線が交錯したその瞬間、は右手を振り上げ、口を開けた。

「『れいとうビーム』!!」

戦慄くポケモン達を越え、光束が伸びてゆく。
が指さした先では、捻じ曲げられた炎が火花を散らしながら壁を燃やし続け。

「熱された物質が急激に冷やされるとどうなるか……それはこの強硬なポケモンタワーの壁であっても変わらない!!」

熱されていた部分が、砕け散る。 足を伝う振動に揺れる視界のまま、は顔を上げた。 壁のひび割れの間から夕焼けが見える。
タワーに入ったのが昼過ぎだったが、いつの間にかこんなにも時間が経ってしまっていたようだ。

――ここは最上階だ、階下への心配はいらない。…ここに集まっている野生のゴース達を、一度すべて追い出す。

再びこの地に祈りを捧げ、安らかな眠りを与える者たちが訪れるためには、ここに眠るポケモンたちが誰かの記憶に残り続けるためには、ポケモンタワーを開放しなければならない。

「レン!」
「ガァ!!」

新たに手に入れた強靭な翼を使って、不可能を可能にしてみせよう。
リザードンは『ふきとばし』も『そらをとぶ』も覚えない、といつか読んだ研究書が頭を過ったけれど、きっとこの翼には無限の可能性が宿っている。そう私は信じているから、命じる。

「『ふきとばし』!!」







「残りはお前だけだ!大人しく捕獲されるか、それとも……、…!」

突然強い風が吹き上がった。 砕けた瓦礫を巻き込んで、に襲いかかる。
サイコキネシスの応用か!!野生とは思えないこの知力、油断すればそこで終わる。

「リク、『10まんボルト』!!」

一点に集中させた電撃が吹き荒れる風にぶつかる。
キン、と金属音のような音がして渦が止んだ。一瞬遅れて瓦礫が地に落ちる。

「そうこなくっちゃ!リク、『でんこうせっか』!!」

物理技が無効なら、補助技として使えばいい。
必ず先制が取れる『でんこうせっか』を使えば、攻撃を受ける前に相手の懐に飛び込める。

「……今だ、『でんじは』!…――よしっ。ありがとリク、ボールに戻って!次はハク、『れいとうビーム』!!」

命中率100パーセント、加えて麻痺の影響でまともに攻撃を受けるゴースト。あと一撃を加えさせれば、容易に捕獲できるだろう。
邪魔さえ入らなければ。

「『みずでっ……!?危ない!!」

ふらふらと近づいてきたのは、一匹のカラカラだった。平均よりずっと小さい、もしかしたら生まれたてのポケモンなのかもしれない。

対峙する二匹に気づいて、野生のカラカラは立ち尽くしてしまった。
このままでは『みずでっぽう』に当たってしまう。効果抜群の水技が。
さっきまで何もいなかったはずなのにどうして、と思うよりも先に体が動いてしまった。

「ハク、ストップ!!」

二匹の間に走って、胸に掬いあげる。 勢いのまま滑る。一瞬の後、の背中を水流が過ぎていった。
制止の声に間に合わなくとも威力を殺したハクの『みずでっぽう』は、普段のそれに比べたら弱かったけれど、それでもこの胸の中のポケモンにとっては脅威だっただろう。

「…大丈夫?ごめんね、怖かっただろ。ここは危ないから、早く逃げ……、!」

嫌な予感がして、咄嗟にカラカラの体を強く押す。 カラン、と軽い音をたてて、尻もちをついたカラカラ。

――今のは、ただ単に骨の鳴った音。お母さんを探して泣く声じゃない。
きょとんと顔を上げるカラカラを目の端で捉えて、少し安心する。逃げて、と口を動かしたけれど、声になったかは分からない。


ブラックアウトした視界に、は思考を放棄した。

 

2009.06.19. up.
2012.02.23. 改

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