蝋燭の火以外に明かりのない、仄暗い道の両側に数多の墓。
忍ばせても響く一対の靴音。
この広く閉ざされた空間には風も無いのに、墓の前に並ぶ橙色の炎が揺らめいている。
炎のいろは、命のいろ。
人は何を想って亡き者のために灯をともすのだろう。
「もし…」
ふいにかかった声に肩を震わせ、は素早く振り向いた。
見れば白くぼんやりとした…眼を凝らせば、着物のようなものを身に纏った女性が佇んでいる。
祈祷師だ。
無意識にボールへ伸ばしていた腕を下ろす。そして詰めていた息を吐いた。
ポケモンタワーには祈りを捧げることを仕事をしている人がいるというのは聞いていたけれど、こうして暗い所でいきなり声をかけられると、怖い。
「な、なんですか」
腰まで伸びた黒髪が俯いた顔にかかって、見上げるには彼女の表情が見えない。
けれど彼女からは見えているのか、は値踏みするような視線を全身に感じて小さく後ずさった。
「小さなトレーナーさん、貴方にお願いがあるの」
揺らめく炎を見上げ、は足早に6階への階段を上っていた。
ここに至るまで、は誰とも擦れ違わなかった。
あの祈祷師が2階以上に人間を入れさせなかったからである。
その理由はただ一つ、ポケモンタワーにポケモンが現れるから。
単なるゴーストポケモンの出現ならば多少怖かろうが構わず供養にくるだろう人もいるだろう。
だが、最近になって現れたというそのポケモンは、強力な幻覚で人々を驚かして楽しむという悪趣味を持っているらしい。
腕に自信のあるトレーナーがその噂を聞きつけ、捕獲に挑戦したものの、幻覚に腰を抜かし気絶しているうちに1階で寝ていたという。
そういうわけで、噂が街にも広がり住民が気味悪がってタワーに近づかなくなる前に、どうかそのポケモンを捕まえてくれ、というのが祈祷師の頼みだった。
貴女の方が専門じゃないのか、とはの弁だが、捕獲は得意じゃないと言い切られては続く言葉も見当たらない。
タワーに出現するポケモンを捕獲するついでなら、と仕方なしに了承したものの。
人気の無くなったタワーは野生ポケモンの宝庫と成り果て、問題のポケモンに出会う前にデータ採集が済んでしまったため、早々に退場したくなったであった。
「レン」
の声を聞くや否や、レンはゴースの真下へ駆けると、噴き上がる炎で撃ち抜いた。
ゴースト系にノーマル技が通用しないのはすでに知っていたが、だからといって遠距離から本気で攻撃してはタワーを破壊してしまう。
ここに眠るポケモン達を起こすのは本望でない。
今、リクのフラッシュでなくレンの尾の灯火を頼りに暗がりの中を進んでいるのも、同じ理由だ。
6階もまた異常なし。
リュックの中には新たにゴース、ゴースト、そしてカラカラのモンスターボールが入っている。
腕に自信のあったという、かのトレーナーの実力がどれほどであったかは知りようがないが、いままで出会ったポケモンはそれほど手こずる相手ではなかった。
ということは、残りは。例のポケモンがいるのは。
最上階―――、7階。
「さぁて……、悪戯坊やをうんと懲らしめてあげないとね」
「レン、『かえんほうしゃ』!リク、『10まんボルト』!ハク、『りゅうのいかり』!!」
問題の相手は分かっている。常に視線を感じるのだ。遠くからじっと見られているような、不愉快な視線。
視線を追えば、部屋の奥には一際大きなゴーストが浮かんでいる。
近づいては来ない。逃げようともしない。あいつがそうだ。確信がある。すぐに近づいて、捕獲して、早くここから出たい。けれど、
かのゴーストを守るようにを囲い、次々と襲いかかるポケモン達に、もまた3匹のポケモンを開放して応戦する。
相手が霧状になってしまうと、仄明かりが灯るだけのこの空間では見分けがつかない。
だから限界まで近づくのを待って攻撃するか、霧状になる前に戦闘不能にしなければならない。
けれどあの霧は毒ガスだ。迂闊には近づけない。
そして核を撃つにもこれだけの数を撃つすべがない。撃たなければ何度でもよみがえる。――ならば突破口は。
――もうすぐ、あと少しだ。あの子には、それだけの経験と土台が備わってる。焦るな。これは良いチャンスだと思え。
焦る気持ちをこぶしを握り締めることで押さえつけ、はひたすらタイミングを待った。
2009.06.19. up.
2012.02.23. 改