ディグダ、ダグトリオを捕獲した後、たちは再び地下通路を通ってハナダシティへと戻っていた。
次の目的地はシオンタウンである。

トレーナーたる者、一度はポケモンタワーに行くように、…とオーキド博士は言っていた。
シオンタウンへはヤマブキシティから8番道路を、クチバシティからなら12番道路を通れば行ける。 しかし現在ヤマブキのジムリーダーが留守であること、そして12番道路が何故か通行禁止となっていることから、イワヤマトンネルを越えることにしたのだ。

そんなわけで、たちはイワヤマトンネル入り口へたどり着いた。 集めた情報によると、出現ポケモンの内、未捕獲はイワーク、ワンリキー、そしてメタモンである。

「さて、行きますか。リク、『フラッシュ』おねがいね」





マチスとのバトルは、紙一重で勝利をもぎ取った。しかし試合中に痛感した『パワー不足』。
いくら素早さで上回っても、電撃を生み出す間は止まらなければならない。足で翻弄しようとも、自然と接近戦になる。 一撃を食らって少しでもスピードが落ちれば、そこでリクは負けてしまう。

手っ取り早く強くなるには、例えば道具…アイテムを使用する。それは悪くないことだと思う。そこはマチスと同じ考えだ。
『道具や科学に頼ってでも、ポケモンが強くなりゃ十分だから――…』彼はポケモンを愛していた。彼、マチスにとってポケモンは…
『――ポケモンを仲間と思ったことはねぇな。ただの道具だ』…道具なんかじゃなかった。
しかし、強さを考えるたび、あの時の言葉が浮かぶ。あの日から一度も忘れない、忘れることの出来ない男の言葉。

ポケモンは、捕獲された以上、自分の主に従わなくてはならない。だからポケモンの意思がどうであれ、トレーナーの命令に従うのだ。
では、強くするためとアイテムを使って進化させることは、トレーナーの身勝手じゃないのだろうか。…それは、ポケモンを『道具』扱いしているのと同じじゃないのか。

「…ねぇ、リク」
「ピカ?」

ズバットの群れを追い払っていたリクは、の足元へと走り寄った。両手で持ち上げ、腕の中に収める。
チャア、と一声鳴いたリクは、に体を預けながらも、ふたりを遠巻きに眺める野生ポケモンから目を離そうとはしなかった。
大丈夫だよ、と囁いて、腰からボールを取り出す。 現れたレンはを一瞥すると、距離をとって野生ポケモンに向かって構えた。

――ライチュウとバトルした日から、リクはもまたどこか焦っているように見える。
野生ポケモンやトレーナーとのバトルは率先して出たがり、指示以上の行動さえするようになった。 幸を奏することも多いのだけれど、持つ以上のパワーを出そうとして自滅したり、隙を突かれて大きなダメージを食らい、瀕死に追い込まれることもまた多かった。
その姿はライチュウ…自分の進化体との差を無理矢理に埋めようとしているようで、痛々しいほどだった。

「タマムシのデパートにね、『かみなりの石』が売ってるんだって。それがあれば、リクはライチュウになれる。どうする?……進化、したい?」

じ、と見上げる瞳。それをはまっすぐ受け止めた。 リクは何も言わない、けれど『目は口ほどに物を言う』のだ。だいたいのことなら、リクの心はに伝わる。 は首を振った。

「ううん、私はどっちでも良いんだ。進化しなくても、リクはもっともっと強くなれるよ。リクの何倍も大きなポケモンにだって勝てる。でも、それはいつか分からない。…マチスのライチュウ、強かったね。…それに…あの放電は、」

今のリクには到底出せない。言えない言葉を心の中で呟いて、ぎゅ、と抱きしめる。そして、おで同士をこつんとぶつけて、囁いた。
交わった視線を一時も離さずに。

「ごめんね、私には決められない。…リク、どうしたい?」
「ピカ…」

けれど、リクもと同じだけ迷っている。

「――ガァ!!」

鋭いレンの声に、はっ、と我に返り振り向いた。
そして気づいた。野生ポケモンたちの群れに囲まれている。その種は様々。
先ほどまで静観していたポケモンと、新たに増えたポケモン。 レンの炎、リクのフラッシュが届かない範囲まで、闇がうごめいている。

背後は岩壁、通路は三つ。 その内一つは今までたちが進んできた通路だ。
の腕から飛び出したリクが、レンの隣で臨戦態勢をとる。

「相手が多い。一度で瀕死にしなくてもいい、攻撃したらすぐに離れること!!」

音を立てないように気をつけながら、回りを見渡した。
フラッシュの光だけでは気付かなかったが、トンネルにしては随分大きな空間にたちは立っていた。――ここなら、十分に戦える!

「お前たちも出てこい!!ハクはカイと組め、『みずでっぽう』だ!」









改めて気づいた。スピードの速い小型ポケモンほど、入り乱れたモンスターハウスの中で一番活躍するということ。 そして、その場合、大技は有効でないこと。野生ポケモンの攻撃を避けつつ指示を出しながら、はそれを身に染みて感じていた。

小技は早い、だから攻撃を繋げられる。けれど大技は単発な分、隙が大きくなる。それに小さなダメージの積み重ねが、いずれ大きな痛みとなって現れる。上手く活かせるはトレーナーに掛かってるけど、……ッ!
ふ、と前触れなく周囲が暗くなった。 しかし見上げることなく、はその場から身を翻す。 轟音を立て、イワークが倒れた。
その体に一瞬目を走らせる。黒焦げた岩肌の上に、鋭い爪跡が至るところに残されていた。

「ありがと、レン!!」

の言葉に振り向くことなく、レンは新たな相手へと向かっていく。
数は向こうが優っているが、如何せんレベルの差がありすぎる。 下手な動きをしなければ勝負はすでに見えている。 司令塔が、がいなくならない限り。








――目に見える範囲のポケモンは倒した。
このイワークが倒されるやいなや逃げていったポケモンが多かった。きっとリーダーだったんだ、このイワーク。にしても、こんな集団で襲ってくるなんて…。

「――みんなもう大丈夫、ありがとう!けどこの子たちが目を覚ます前に、逃げるよ!!」






そうして無事イワヤマトンネルを抜け、シオンタウンのポケモンセンターに泊まったたち。

リクは、進化の道を選ばなかった。

 

2009.06.19. up.
2012.02.23. 改

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