「すみませーん!!」

息を吐ききって、息を吸う。海のにおいがした。
は、再び深く息を吸い込んだ。 たっぷり吸った後、口を開ける。

「すみませーん!誰かいませんかー!?」

クチバジム、入り口。今までに挑戦したジムと違いポケモンセンターに何の告知も無かったため、朝の日課を済ませた後、散歩がてら来てみたのだが。
聞き耳を立ててみても、物音一つしない。誰もいない。 ジムトレーナーの一人くらいは、開放日以外の日でもいると思ったのだが。

太陽はもうあんなに高い。港は活気に溢れている。

「お嬢ちゃん、ジムへの挑戦か?」
「へ?」

最後にもう一度だけ、と『す』の口を作っていたは、背中に掛かった声にくるりと振り向いた。
そこいたのは、白い帽子を小脇に抱えた、水兵風の男。 ジムの挑戦者だろ?と首を傾げる男に、慌てては頷き返した。

「ここのジムリーダーに会いたいんなら、港に行くといいぞ。マチスさんはいかつい感じの金髪の外人だから、すぐに見つかると思うぜ」
「ありがとうございます!じゃあ、行ってみます」

ぺこりと頭を下げ、港へ駆け出すを見送ってから、男は呟いた。

「――マチスさん、受けるかな?受けるにしても、あの嬢ちゃんのことボコボコにしなきゃいいけど。挑戦者が弱くてつまらない、って愚痴言ってたからなぁ…」

そして先ほどまでが立っていた場所へと歩んで、ポケットから鍵を取り出した。
差し込んで、ぐるりと回す。ガチャ、という少し重たい音と共に、わずかに開く扉。押して大きく開けながら、更に続ける。

「でもあの嬢ちゃん、小っせぇのになんか雰囲気がガキくさくねぇんだよな。妙に達観してるってか…っておい、一人言多くねぇか俺?」

あーやだやだ、と頭を掻きながら、薄暗いジムの中を進む。

しばらくして、観音開きの大きな扉の前に立った。 暗くて鍵穴が見えない中、慣れたように鍵を差し込んで回す。音がした。
先ほどのものより一層重い響きを立てて扉が開く。その先に、真っ暗な空間が広がった。

手探りで壁を辿る。 指の先に突起を感じて押すと、バトルフィールドが眩いライトに照らされた。
目を細めながら、男はずっと眺めていた。自分の主が、やめる、と昨日宣言したその場所を。 賑わいを無くし、いつの間にか誰もいなくなったそこは、寂しげだった。

「まぁ、昨日でジムを閉めるつもりだったんだ。マチスさんがあの嬢ちゃんの挑戦を受けるかどうかかは嬢ちゃんの運だけどな」






頭一つ高い身長、逆立った金髪、そして活気の溢れる港の中でも響き渡る誰よりも力強い声。
先ほどジムの前で出会った男が言ったように、マチスはとても見つけやすい風体をしている。

ただ、声を掛けられないほどとても忙しそうに働いていたため、は邪魔にならない場所を探して、機会を待つことにした。
カップルに人気の展望台、と通りすがりの釣りトレーナーに教えられた割には人があまりいなく、彼を、そして港を見渡すのにはもってこいだった。

ほおを撫でていく湿り気を帯びた風。 賑わう市場に、汽笛の音。 夏を思わせる眩しい日差しが、見上げたの目を射した。






物思いにふけっていたに、連続した鐘の音が響く。 ハッ、と正気に戻り、目線を下ろすと、人の群れが街へと向かっていた。
その中に見える、金色のとげとげ。 それを目の端に捕らえながら、階段を駆け下りる。

「――マチスさん!!」

振り向いた彼の瞳もまた、金色だった。




流れに逆らうように立ち止まった二人の隣を、迷惑そうに顔を潜めた船員たちが進んでいく。
船員たちより頭二つ分は小さいは、足を踏ん張って抵抗しながらも、その波に流されていった。

「わ」

服の襟をむんず、と掴まれ、持ち上げられた。足が地につかない。
見上げると、すぐ傍にマチスの顔があった。

「俺に用があるんだろ。ここじゃ邪魔になるぜ。――ちゃんと掴まってろよガキ!!」

気づけば肩の上に持ち上げられていて、荷物のように運ばれた。
こんな経験、初めてだ。出来ればこれが最後にして欲しい。……うぇ、お腹が潰されて気持ち悪い。

 

2009.06.19. up.
2012.02.23. 改

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