「試合の説明をします。2対2のシングルバトル、挑戦者のみ入れ替えを認めます。挑戦者のポケモンが一匹でも負けた時点で試合終了。リーダーのポケモンが2体とも戦闘不能になった時、バッチ授与の権利が生まれます。…両者異存は?」
審判の言葉に、首を振る。
視線の先にはカスミ。不敵な笑みを浮かべ、スーパーボールを構えている。
絶対、負けない。この子を信じるんだ。
は手中のモンスターボールを握り締めた。
「では…バトル開始!!」
「トサキント、『ちょうおんぱ』!!」
「『はねる』!!」
!?…いきなり仕掛けてきたっ!!
現われると同時に繰り出された攻撃。かろうじて避ける。
音波は空気中に比べ水中だと伝播速度が著しく速くなる。トサキントに比べスピードが速く、『はねる』に特化したカイでもタイミング的には間に合わないものであったが、万が一を考え試合の始まる前に指示を伝えていたのが功を奏した。しかし二度目は無い。
「なかなかやるじゃない!けど、いつまでも『はねる』で逃げ切れないわよ!!」
「分かってます!…カイ、トサキントに向かって泳げ!!」
トサキントは水から出たらスピードが極端に落ちる。狙うならここだ!……しかし、それはカイも同じなんだ、けど。けれど、…カスミに勝つならスピードバトルしか無い!!
「来たわね…トサキント!!」
カスミの指示を聞いて、トサキントが渦を作り出す。水中からいくつもの気泡が上がる。浮き島が揺れだした。
カイは逃げようとヒレを忙しなく動かす、が。
「コイキングはどんな流れにでも流されてしまうポケモンよ!それに見えないだけで渦はプール全体に存在する。逃げ場なんて無いわ!!」
逆らえず、流されてしまう。が見つめる前でぐるぐると流され、次第に渦の中央へと引きずり込まれていった。
中央に待ち構えるのは、トサキント。
「知ってるよ。…だから、待ってた」
小さく呟いた言葉は、誰にも届かなかった。
ぐ、と急に沈む赤い体。その体に迫る大きなツノ。
「トサキント、『たきのぼり』、そのまま『つのでつく』!!」
「カイ、『はねる』で渦から抜け出せ!!」
水飛沫を立て、渦の中央から抜け出すカイ。その瞬間、カイからほんのわずかな距離を隔てて、勢いよく水中から飛び出すトサキント。
目標を失い、ただ飛び、そして、重力に従って、
「水に落ちる前に……カイ、『はねる』!そして『たいあたり』だ!!」
「――…ッ!両者、戦闘不能!よって試合続行です!!」
そう、この試合の盲点は、挑戦者のポケモンが一匹でも『負ける』と試合終了であること。『引き分け』は『負け』では無い。
この作戦なら、勝つことは出来なくても、引き分けに持ち込める。そして…、
「次で決める!――リク、出番だ!!」
「ピッカァ!!」
モンスターボールから出ると同時に放電してみせる。
そして低く構えながらリクが睨む先には、カスミの手に握られた新たなボール。
「まさかコイキングに勝てないなんて思わなかったわ、油断していたかしら…。…次は私のベストパートナーよ。簡単には勝たせてあげないわ!…行くわよ、マイステディ!!」
現われたのはスターミー。水中に潜ろうとしない様子から、陸上であろうと戦闘が十分可能であるのが分かる。
スターミーのタイプは水・エスパーだったはずだ。特殊攻撃力が強く、スピードも速い。水上だろうとリクと遜色ないほどだろう。
電気の届く範囲まで近づけなくても、相手にはより攻撃範囲の広い『サイコキネシス』があるかもしれない。なにより彼女の『ベストパートナー』という言葉。
――潜ってくれればちょっとは楽だったんだけど……なんて言っても仕方ない!!
「スタちゃん、『バブルこうせん』!!」
「『でんこうせっか』!!リク、スターミーに近づけ!!」
スターミーによって作られた泡の渦を、リクは電光石火で交わしていく。
軽快にいくつもの浮き島を越えて、プールの中央まで進んでいった。
「速いわね、そのピカチュウ。けれどこれならそのスピードも無意味よ!『スピードスター』!!」
「ピッカァ!!…ビ」
超高速の攻撃波がリクへと迫り、避ける間もなく直撃した。
そのまま弾き飛ばされ、浮き島から水没する。
「リク!!」
「スターミー、『ハイドロポンプ』!!」
浮き島へ登ろうとしていたリクの目前に、鉄砲水が迫る。
「リク、『こうそくいどう』!!」
「!!」
残像が消えるよりも前に、リクが水流の上に身を翻す。
「『じゅうまんボルト』ォォ!!」
「結局、スタちゃんも負けちゃったわね…。悔しいけれど、良い試合だったわ。――はい、ブルーバッチよ。大切にしてね」
「わ、ありがとうございます!」
「ピッカ!!」
先ほどまで足元で見上げていたリクが、バッチケースへとバッチを仕舞うの肩へと駆け登った。
「ちょ、冷た!リク、冷たいって!!こらっ、降りなさい!!」
「チャー…」
何度もプールに落ちているのだから濡れていて当然ではあるのだけれども。首を伝い、バトルで火照った背中を流れる冷水に、は震える。
しかし引っ張っても首を振り続けて抵抗するリクに諦め、笑いながら差し出されるカスミのタオルを受け取った。
「そのピカチュウ、バトルの時と全く顔が違うわね。すっごくあまえんぼ。電気タイプは憎いけど、ピカチュウはやっぱり可愛いわ」
「あはは…ほらリク、おまえ笑われてるよ」
そうじゃないわよ、とリクの頬を突きながらカスミは更に笑った。
「バトルとなったらすぐ真剣になるのね。それにとっても楽しそうだったわ。コイキングも、このピカチュウも、バトルが大好きなのよ。戦ってみて、それが良く分かったわ」
「この子たち以外の私の仲間も、皆バトルが大好きです。今日は、カスミさんに会えてよかった。それにバトル出来てよかったです。ありがとうございました」
次の挑戦者らしき人が扉の所でこちらを伺っている。タイムオーバーだ、もう行かなきゃ。
頭を下げ、背を向けたの手を、カスミは慌てて引っ張った。
くる、とは再び振り向いた。不思議そうに首を傾けて。
バランスを崩したリクが肩から落ちる。チャー、と不満げに一声鳴き、プールサイドに音も無く着地した。
「え、と。まだ何かありました?」
「貴方、これからどうするつもり?」
へ?と声を洩らし、ぽかんと見上げるに、カスミは言い募る。
「ジムリーダーとか関係無しに、貴方のポケモンともっとバトルしたいわ。他の2匹とも、ね。泊まる場所ならあるし、どう?」
ぎゅ、と握った手に力を込める。
久しぶりにブルーバッチを奪われた。
それも、自分と同じ女で、自分より幼い少女に。
聞きたいことがたくさんある。試したいこともたくさん出来た。
ジムリーダーとして、トレーナーとしてもっと強くなりたい。
正直、逃がしてやるものか――、そう思った自分に内心少し苦笑いしながら、カスミは一層手に力を込めた。
困ったようにカスミを見上げたは、気づかれないように少しだけ目を逸らした。
天井近くの場所にある、窓。そこから見えるのは真っ赤な夕焼け。
――今からじゃ、『マサキ』のところへ行っても無駄だな。
「じゃあ、ぜひ。よろしくおねがいします」
頭を下げる少女と、隣で真似してぺこりと頭を下げるピカチュウの姿は腹の中はともかくとても可愛らしかった。
2009.06.19. up.
2012.02.22. 改