「ピッカ、ピカー!!」
「うーん…ごめんね、リク。今回は最初にカイを出すんだ。病院にはあまり水ポケモンがいなかったでしょ?だから見せてあげたいの。本物の、水ポケモンのバトルを」

毎度のごとくモンスターボールから勝手に出てきたリクを頭に乗せ、ハナダジムへと歩く。
道行く人が微笑ましいものを見る顔をして通り過ぎていくのは少し恥ずかしいが、好奇心旺盛なリクが飛び出していくことよりはマシである。

ただ挑戦者の手持ちポケモンが一匹でも戦闘不能になった時点で負けだというから、電気タイプであるリクを出すのが一番の得策。それにニビジムで出させなかったことを未だに根に持っており、やる気は十分である。 だからもちろん出す気ではあるのだけれど、同じ水タイプとして、カイに高レベルな戦いを経験させたいとも思う。

粘った結果、負けたって構わない。負けから学ぶこともあるのだ。 自身がそうだったように。
だから、今日は研究に徹するのだ。次に活かすため。





「――ええと…さんね。受付完了しました。貴方は4番目の挑戦者となります。これから1番目の挑戦者の試合が始まります。ここでお待ちください」
「あの…そのバトル、見ることは可能ですか?」
「え?」
「私も水ポケモンを育ててるんですけど、カスミさんのバトルを見て勉強したいんです」
「そういうことでしたら、そこの階段を上がったところに見学室があります。そこで自由に見て結構ですよ」
「ありがとうございます!」

階段を登る間にも聞こえる、水の音。
気持ちが急く。ジムリーダーのバトルを少しでも多く、長く見たい。

見学室は、広い部屋であったが、誰もいなかった。
ベンチが並べられた室内の奥は、一面に張られた窓ガラス。受付の女性の言う通り、ここからバトルフィールドが良く見える。見学にちょうど良い。
窓の向こうには、

「!プールだ!!」

思わず窓に駆け寄る。
正真正銘のプールがそこにあった。 全長25メートルほどで、形は長方形。 青い水面の上で、浮き島がいくつも揺れている。

こちらからは奥側のプールサイドには、男の人が対峙していた。 その正面の浮き島にはラフレシアが構えている。
背を向けて、オレンジ色の髪を耳の上で一つに纏めた少女。 彼女のポケモンは影となって見えない。

「ハナダジムリーダー、カスミ…。水ポケモンのエキスパート、人呼んで“おてんば人魚”、ね。――カイ、見える?始まるよ」

モンスターボールをガラスに押し付ける。肩に乗ったリクは足元に下ろし、ベルトホルダーの2つのボールを開く。

プールサイドの中央に立つ審判の女性が、ゆっくり旗を振り上げる。
そして、

「バトル、開始!!」

旗が降ろされると同時に、水飛沫があがった。




男の出したポケモンは、ラフレシア、そしてウツボット。水ポケモン対策はバッチリ。また最終形態であるだけあってよく育てられている。
対するカスミの一匹目はトサキント。相性から考えたら、カスミの不利は絶対だ。だが、

「草ポケモンの技は水中までは届かない!」

今もウツボットの蔓が迫るが、水面近くまでは追えても素早く潜って逃れるトサキントを捕らえることは出来ない。
事実一匹目のラフレシアは手も足も出せない内に『たきのぼり』、そしてそのスピードを活かした『つのでつく』を受け、瀕死寸前へと追い込まれた。

カスミがウツボットを指差した。

「!!」

が見ている前で、トサキントは水中を旋回し始める。
小さなさざ波が立つ。流れに乗ってトサキントのスピードが増していく。さざ波はすぐに大きくなり、白波が立ち始めた。

見る間にウツボットの乗った浮き島が沈んでいく。

いや、沈んでいるのではない。
トサキントが旋回すればするほど周りの水位が高くなり、ウツボット周辺の水位が低くなっていくのだ。

「これって…うずしお!?……!!」

浮き島が大きく揺れた瞬間、ウツボットは渦潮に巻き込まれて水中に沈んだ。

「『つのでつく』!!」

下から持ち上げられ、激しく噴き上げられた水と共に高く弾け飛ぶウツボット。
次の瞬間、

ドンッ……!!
大きな音を立て、男トレーナーの足元へと落ちた。

「――ウツボット、戦闘不能!よって、勝者カスミ!!」


休憩を挟まず続けられたカスミと挑戦者のバトルは、息をつかせぬ展開だった。
殆どの挑戦者が水ポケモンに有効なポケモンを出す。 だがカスミは相手との相性に関わらず、自分のポケモンの能力を最も引き出せる手を打ち、挑戦者を悉く撃退していった。

「…これが、水のエキスパートのバトル……。凄い。あれだけの不利を、こうも覆すなんて……」

今、プールには誰もいない。先ほどまでのバトルが嘘であったかのように、静かに波打っている。
カスミの倒したトレーナーは3人。 であるから、次の挑戦者は。早く受付に戻らなれければ。それは理解している。それでも足が動かないのだ。

粘った結果負けても構わない? そんな甘い相手じゃない。全力でぶつかったとしても勝てる気がしない。ましてや、カイを出したら。

「勝てない…勝てないよ……」

握り締めた右手の中には、モンスターボール。それから心配げに見上げるリクと目が合う。

どうしよう…最初にリクを出そうか。
2人目のトレーナーは電気ポケモン使いだった。3人の中で一番善戦したのも2人目。水は電気を良く通す。
だからプールの奥深くに逃げたとしても、攻撃が届く。ダメージを与えることが出来る。 勝機があるとしたら、今はそれしか見つけられない。

負けてもいい、などという心は、実際バトルを見てしまうとどこかに消えてしまった。カイにバトルを経験させたい。でも、挑戦者の手持ちポケモンが一匹でも負けた時点で試合が終わる…。

「あんた、まだここにいたのね。待っても来ないから迎えにきたわよ。…それとも、不戦敗かしら?」
「!!」

突然かかった声に、ぱっ、と振り返る。
ドアの前に立って、腕を組んだオレンジ髪の少女。

「カスミ…さん……」
「どうするの?――ってあれ、あんた……」

呆然と突っ立つにカスミは早足で近づいた。
じ、との顔を見つめたかと思うと、背中側に回る。

「あんた、あの時の……。半年ぐらい前、背中を切られた子どもよね?」

 

2009.06.19. up.

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