「出てこい!」
ぼんっ、と音を立て、水面に波を立てる。
見上げる黒々とした目に、池の端に膝をついて向かい合った。
『コイキング』、
最弱とさえ言われるポケモン。
の4匹目の手持ちとなったこのコイキングは、オツキミ山を越える際や、この病院で行われたダブルバトルに何度も出させたため、『はねる』の他にやっと『たいあたり』を覚えた。しかしバトルで活躍するにはほど遠く、正直扱いに困ってさえいた。
もちろん、一度育てると言い出した手前、最後まで連れていこうとは思っている。
だが。
「うーん…水の中だと結構速いんだけどね、キミ。陸地だと『はねる』ことしか出来ないからなぁ……。ごめんね、キミが活躍できる良い作戦を考えられたらいいのだけれど」
池の中に手を入れ、赤い体を撫でる。
そのまま考え込んでいると、ぱしゃっ、と大きな音を立ててコイキングが跳ねた。
しゃがんだの頭の上の、ずっと高いところまで。
つられて見上げると、太陽を背に力強く流動する体。
周りに飛び散った水滴が、光を反射してきらきらと輝いている。
そして、重力に従って。
「わっ!」
慌てて手を伸ばして腕の中に収める。
硬い鱗に覆われた胴体は、ひやりとして心地良い。
「…っ、凄い!今の『はねる』、2メートル以上はねてた!!…あぁそっか、『はねる』も立派な技だもんね。しかできない、とか言ってごめん」
『はねる』と『たいあたり』を上手く組み合わせた攻撃が出来るようになれば、バトルでも通用する力となるだろう。
それにこのハナダシティのジムリーダーは水ポケモンのスペシャリストだというから、挑戦のついでに研究してみようと思う。
でも、その前に。
「私はね、一緒に旅をする仲間に名前をつけてるんだ。キミも知ってるレンやリク、ハクの名前は私がつけたの。いつまでも種族名じゃ、仲良くなれない気もするしね」
池にコイキングを戻す。
ゆらゆらと揺れる王冠型の黄金の背ヒレに、金色の長い髭。
キングというにはあまりに貧弱だけれど、内には強さを秘めている。
「キミの名前は、『カイ』。海って書いて、カイ。いつか大海原を渡れるくらい、強く大きくなれるように願いを込めて。ううん、一緒に強くなるんだ。――よろしくね、カイ」
「――さんっ!!!」
「はいぃ!?」
振り返ると奴がいた。もとい、ジョーイがいた。
眉をつりあげ、もの凄い剣幕でへ走り寄る。
思わず直立不動で待ってしまったは、捕まる前に逃げておくべきだった、とすぐに後悔した。
「外出許可が下りてないのに勝手に病院を出てはいけないと、言わなければ分からないんですか!?」
「え…でも、」
「私は利用が始まったと言っただけで、出ていいとは一言も言ってません!!探しましたよ!えぇ随分と!!…大体スケジュール以上にバトルを受けるは連勝記録を打ち立てるは…貴方のこと、病院内で有名になってますよ!!……」
ジョーイから解放されたのは、二時間後だった。
「まったく…。――半年ぶりの外は、どうでした?」
通い慣れた病室への道を歩く。
窓から指す光は暖かいけれど、四角く区切られた空は小さくて色が薄い。
「風が…、風が気持ちよかったです。空が青くて、それに太陽が眩しくて」
「それは良かったわ。今日は、貴方に伝えるべきことがあります。本当はすぐに伝えるつもりだったのに、貴方が勝手にいなくなったから…ったく」
「す、すみません」
カラカラと音を立て、引き戸を開く。
白いベッド、クリーム色の壁。いつも淡色で彩られた病室の中に、異色が混じっていた。
「!!これ…」
ベッドの上に置かれた、小ぶりのリュック。
その横には、旅の時に着ていた服が畳まれて置かれている。
入院している間は、別室に置いてあったはずだ。
生活に必要なものや図鑑は病室に置いていたけれど、出来るだけ物を置かないように、と言われていたのだ。
それがどうして目の前にあるのだろう。今になって。
「さん、貴方に退院許可が下りました」
2009.06.19. up.