目覚めは唐突だった。




白。
最初に見たのは、それだった。
思わず目を瞑り、……、もう一度目を開けると、それが枕のようで、枕より薄くて柔らかい何かに自分が顔を埋めているのだと分かった。

最後の記憶は残っている。
斬られた。リクの『フラッシュ』。ハクに乗って逃げた。逃げられると思った。けれど途中で落ちた。そこで記憶は途切れている。
そして、あのシーンは夢という形で何度も繰り返された。走馬灯だと思った。 だから目が覚めて最初の感想は『天国にしては殺風景だな』、だった。

全部夢だったらいいのに。おつきみ山のふもとのポケモンセンターで泊まったわたしは、「最近オツキミ山で、黒ずくめの怪しい男が目撃されているそうだ、気をつけろよ」というタケシの注意があまりに怖くて、実際に遭遇してしまった夢を見た。……けれど体のだるさが、全部現実だよと鼻で笑う。

「…捕まった、か」

ここが天国でも地獄でも無いならば、男が言っていた『組織』に捕まった、というのが一番最悪で、そして一番考えられるべき結論。
そして、今、自分の周りに誰もいないのは、覚醒を気づかれていないから。それならば。

逃げなきゃ。早く、早く気づかれる前に。

私は、ベットに仰向けに寝かされているらしい。 体は掛け布団に覆われて見えない。感触で、腹の下になにかが敷かれているのが分かるだけ。だが、力を込めると指先から反応が返ってくる。それだけのことに、一先ず安心した。

右手、左手、右足、左足。 そろそろと動かして、状態を確かめる。
痛みは無い、思うように動く。異常は無いようだ。拘束具も無い。

「…動ける。ボールは…無いな。当たり前か」

自分でも、奇妙なくらい落ち着いていると思う。
けれど、それはあまりにもこの目覚めがデジャブだから。 そして…それほど、自分を大切に思えないからかもしれない。

それでも、あの子たちを… 仲間たちを、兵器になんてさせてはならない。 絶対にさせない。

今、のもとに、彼らはいない。 モンスターボールごと、どこかに行ってしまった。 あの戦いの後だ、たとえ彼らが周囲の異変に気づいたとしても、逃げる体力など残されていなかった。 捕らわれているのなら、探さなくては。 置いて逃げるなんて、出来るわけがない。

腕に力を込め、体を起こす。

「…ッ!!…いったぁ……あぁそっか…そりゃそうだな……」

シーツを握り締め、電撃のように走った痛みをやりすごした。


何十秒かけて、今度は極力背中を動かさないように体を浮かせ、ベットの背の、パイプ部分にしがみ付いて体を支えた。
背中に手を伸ばす。動かすたびに傷が引きつれ、巻かれた包帯に血が滲む。

指先に感じた湿った感触に、眉を潜めた。

「縫ってはあるけど、皮膚は塞がってない…。まだそんな時間は経ってない、な……ッ!!…ぅ……」

――これ以上は動けない。心は逃げろと叫んでいるのに、体が拒否する。
パイプを握り締めながら、脂汗を流しながら、一方での思考は深く沈んでいった。

デジャブ。
この痛みは、この傷は、余りにも似ていた。あの傷と…が倒れていた時、背中にあった傷と。
…もしかして…いや、でもそんなはず……、

「――何をしているのですか!?」
「!?レ、ン……ジョーイさん?」

咄嗟に腰へと伸ばした手は空を掴み、バランスを崩して頭から布団に突っ込む。その時の痛みは、激痛なんてもんじゃなかった。
しかし助け起こされながら、はただただ目を見開いていた。

「貴方は動ける体じゃありません。それなのに何をなさってるんですか!?」
「…ここはどこですか?……あなたは?」
「ここはハナダ病院です。私はジョーイ。貴方の担当看護師です」

ジョーイが言うには、は街の入り口で倒れていたらしい。 倒れている姿を見つけて、病院に電話した人物がいたのだと、ジョーイは話す。
それが、1週間前。その間はずっと眠り続けていたそうだ。
の荷物やモンスターボールは、別の場所に保管していると言う。 傷に菌が入って化膿したら、取り返しがつかないものとなるから。

「少しでも搬送が遅かったら命が危なかったわ。出血が酷かったの。その方の応急処置が無かったら……」

をそっと寝かせ、布団をかけながら、ジョーイは口ごもる。
しかしはそれに気が付かないふりをして、話を変えた。

「ハナダの病院…。あの、私を訪ねてきた男がいませんでしたか?」
「いいえ。……でも、警察から連絡が来てるわ。あなたが目覚めたら教えて欲しい、と」
「え…っ!?」
「大丈夫、来るのは女性の方だそうよ。なんなら、私も付き添うわ。…今から呼んでも?」

どうしていいか分からず曖昧に笑うに、じゃあ、時期を見て、と微笑みかけて、部屋から出て行く。
耳を澄ますと、小さくなっていく足音。

ぎゅ、と目を強く瞑る。すると浮かぶのは、最後の記憶。私が、弱かったから。もっと強ければ、きっと逃げなくてすんだのに。
震える体を抱きしめることは、今のには出来なかった。

 

2009.06.19. up.
2012.02.23. 改

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