「黒ずくめ…か」
そんな怪しいの、すぐに捕まりそうだけどなぁ…。
しかし山の付近では、無理もないのかもしれない。
オツキミ山の洞窟を歩く。
フラッシュによって明るく照らされたデコボコ道を、ズバットが逃げるように飛んでいく。
現在、リュックの奥には、ズバット、パラス、イシツブテの入ったモンスターボール。山男に聞き出した『オツキミ山周辺で見つかるポケモン』の内、未ゲットはあとピッピだけである。
滅多に人前に姿を現さない妖精ポケモン、ピッピ。ゲットするのは大変だぞ、とは言われたのだが。
「そんな簡単に見つからないか…」
洞窟の中では落盤があったのか所々岩が道を塞いでいたが、レンや捕まえたばかりのイシツブテに手伝ってもらい、岩を退けたり、よじ登ってどうにか進む。
――ひさしぶりの平坦な道に少し余裕が出てきたのか穴ぼこを避けて歩けるようになっただが、何かに躓いてこけそうになった。
慌ててバランスを取る。
「おわ、っと!!何だろ、コレ…リク、こっちに来て」
先を行くリクを呼び寄せる。
眩しく光る彼を頭に乗せ、躓いた原因を拾う。
見た目は普通の黒い石だ。けど、ただの石には見えないような…。
「…あ。この模様…月、かな。リク、どう思う?」
「ピカチュ」
リクもそう思ったのか、こくんと頷き返す。
「だよね?じゃあ、これが月の石かぁ。折角だし、博士に送ろっか。研究に使うかもしれないしね」
「ピカ」
いない。
いくら探しても、ピッピだけがどこにもいない。
そう長い洞窟じゃないし、一度ハナダ側に出るかな…。
分岐点に戻り、別の道を捜索していたレンを笛で呼ぶ。
ジム戦でいつもと違う経験を積んだからだろう、その後のバトルでリザードへと進化したレンは、オツキミ山でなら一匹で行動させても問題無いほど力をつけていた。
そして、ハクも、ハクリューへと進化した。もっとも、子どもながらに4メートル弱の体に進化したため、オツキミ山の洞窟内は狭すぎて思い通りに動けないようで、今はモンスターボールの中にいる。
甘えてくるリクを胸に抱え、頭を撫でていると、ほの暗い洞窟の奥から、レンが現われた。
「あった?」
無言で首を振る。
集団で生活するらしい、彼らの手がかりでも見つかればと思ったが、何も無かったようだ。
そっか、ありがとうね、と頭を撫でようとすると、の手を逃げるように動き、手が届かない距離に行ってしまった。
炎ポケモン…特にヒトカゲ種族はプライドが高く、育てるのが大変、とは聞いていたが、進化してこうも性格が変わると、今まで散々甘えられてきた分、寂しさを感じる。
それでも指示は聞いてくれるから、トレーナーとしてナメられているわけではないのが不幸中の幸いというやつか。
「レーンー、さすがに傷つくなぁ」
ツンツンしてるレンも可愛いけれど、それがずっと自分に向けられるなら話は別だ。
こんなことで手放そうなんてこれっぽっちも思ってはいない。けれど思わず正直な気持ちを吐き出すと、レンはびっくりしたようにへと顔を向けた、が、すぐにそっぽ向いてしまった。
…また仲良くなるほかないか。
まだまだ先は長い。これからもずっといっしょにいるのだから、今焦ったって仕方ないか。
一人納得して、ベルトから空のボールを2つ取り外す。
「明日も来よう。レン、お疲れさま。ボールで休んでて。リク、お前も疲れたろ。戻っていいよ」
「チャア」
首を振って、リクはの頭上に飛び移った。
小型なピカチュウの中で更に小さい方のリクだ、そう重くは無い。
「別に良いけど…落ちないでよ?」
「星が出てる…」
洞窟を抜けた。太陽は沈んだが、月に照らされ、道は示されている。
時計を持っていないため正確な時間は分からないが、月の高さからいって10時頃だろうか。
4番道路を通ればすぐハナダシティに着くようだから、今日はポケモンセンターで泊まれそうだ。
はやく砂や泥で汚れた髪をきれいにして、ふかふかのベッドに飛び込みたい。
あぁ、その前に今日のレポートを書かなきゃ……、
「――なんだ、ガキじゃねえか」
数時間ぶりに開けた場所に出たことで、油断が生まれたのだろう。
だからすぐ近くまで迫っていた影には気付けなかった。
後には思う。このとき全てを投げ出して逃げてしまえば、これから先を待ち構える運命から逃れられていたかもしれない。これが最初で最後のチャンスだった。…いや、背を向けた相手に何もしないでいるような人間ではないか。
背後から響いた男の声。「!」反射的にボールに手を伸ばしつつは振り向いた。5メートル。何故これほど近寄られるまで気付けなかったのか。どんなポケモンを繰り出してきても2歩で攻撃技が届く、
「誰だ!!」
「さあな。月の石の波長をたどってみたらお前がいたもんだが、」
暗くてはっきりとは見えないが、声の主はゴーグルのような物を左手に持っている。
波長をたどった、というのは真であるらしいが、……、身を纏うものは全て黒、穏便に済みそうでない。
「そう、月の石だ。大人しく渡せば、見逃してやってもいい。馬鹿な真似でもするもんなら…」
「…したら?」
「相手がガキだろうと関係ねぇ、邪魔するやつは壊すのがポリシーだ。…アーボック、『かみつく』」
「ッ!?レン、『かげぶんしん』!!」
現われると同時に迫ってきた巨大な蛇の牙を、レンはを抱え影分身で交わす。
「…速いな。少しは楽しめそうだ」
毒歯の攻撃を交わし、を背中に回し臨戦態勢を取るレンの姿に、ヒュウ、と口笛を吹き、男が感嘆の声を発する。これは遊びなのだ、男にとっては。気付いたの顔に恐怖が浮かぶ。
…こいつ、危険なんてレベルじゃない!!
今の攻撃、レンに向けたものではなかった。初めからトレーナー…を狙って攻撃を仕掛けていた。ためらいもなく。それでいて、何故か避けられる速さに調整されていた。の背中を冷たい汗が流れていく。
「…オツキミ山周辺で目撃されてる黒ずくめ、ってのは、あんたのこと?」
「俺の他にこんな酔狂な格好をしてるやつがいるんじゃなきゃ、そうだろうよ。で、だったらどうするんだ」
「石は渡さないし、これからもこういうことを続ける気ならほっとくわけにはいかない。――レン!!」
「ハッ、威勢がいいな!!だがこっちも仕事だからな、ガキの正義に付き合ってやるわけにはいかねぇんだ。アーボック、『へびにらみ』!!」
『へびにらみ』は腹の模様で敵をマヒ状態にする技。当たれば素早さが格段に落ち、自由に技が使えなくなる。
は鈍く赤く光る蛇の目に向かって土を蹴り上げる。怯んだ一瞬の隙を突いて、蛇の死角―背中―にレンが回りこんだ。
「『きりさく』!!」
「――速いな。攻撃力も申し分ない。にしても一撃で戦闘不能かよ…。まぁ良い、次はこいつだ。…ゴルバット、行け」
「リク、『10まんボルト』!!」
「ピィカ…チュー!!」
羽ばたきの度に撒き散らされる状態異常を引き起こす麟粉を避け、距離を取らせる。
しかし中距離からの電撃は交わされてしまう。
跳んでるだけで攻撃になる相手にいつまでも受身では、連戦のリクが負ける。
――相手は特殊能力特化型。接近戦なら絶対に勝てる。
物理技をしてこない辺り、モルフォンの覚えているのは変化技だけだ。麟粉に触れないことだけ気をつければいい。ただ、仕掛けるタイミングがつかめない。
「的確な技の指示、豊富な知識。お前、見かけ通りのガキじゃねえだろ。俺と一緒に来いよ。そのセンス、燻らせておくのは勿体無ぇぜ?」
「……これで5匹倒した。そんな余裕、見せてていいのか?」
「一方お前の手持ちは瀕死が3。まだ使えるのも3。俺の状況は絶体絶命ってやつだ。モルフォン、『しびれごな』を、風で飛ばせ」
月光にきらきらと輝く麟粉が、羽ばたきに乗ってリクへと迫る。
「リク!!」
放電が麟粉を焼き落とす。
バトルを始めてからどれ位の時間が経ったのだろうか。月の位置を確認するような隙は少しもない。
リクの顔には疲労が色濃く浮かんでいる。モンスターボールの中のレンやハクも、動けるとはいえHPは残り少ない。
緊張感と恐怖がの神経を削っていく。これまで優位にバトルを進めているにも関わらず、男の余裕が不安を煽る。何だ、何を隠している。
それとも私は何かを忘れているのか?
――小刻みに息を吐きながら、は頬を流れる汗を拭った。それでも視線だけは決して外さない。
「下から『でんこうせっか』、そのまま『10まんボルト』!!」
「……!!」
チリチリ、と音を立てて黒焦げた麟粉が地に降り積もっていく中を、電光石火でモルフォンの真下へと駆け、電撃を食らわす。
「これで、」
ふら、と傾き、地に落ちたモルフォンを目で追う。
臨戦態勢は崩さない。もはや戦う気力があるようには見えないが、これで終わりとは思えない。
「これで、6匹。諦めろ、絶対に月の石は渡さない」
「戻れ、モルフォン。――月の石の効力は知ってるか?」
赤い光に包まれボールに消えてもまだ、はモルフォンと男を睨みつける。
男が降参とばかりに両手をあげるのを見てから、はリクに感謝と労わりの言葉をかけ、ボールに戻した。
リクはもう、立っているのもつらい状態だった。この一撃で決められなければ、こちらがやられていただろう。
「…特定ポケモンの進化の助長。それが人を襲った理由?」
「月の石の場合、隕石から発せられる何らかのエネルギーがポケモンに影響を与えると考えられている。その力を応用すれば、あらゆるポケモンの兵器化も可能…かもしれない」
そのための研究に、月の石が必要なのだ、と。
「兵器…化?意味が分かって言ってるの!?自分のポケモンがそんな風になっても良いと!!あんたを守るために、どんなに傷を負っても立ち向かってくれた、そんな仲間を!!?」
「仲間って、さっきお前が戦ったやつらのことか?」
余りな言い方に激昂したに男は侮蔑の目を向け、鼻で笑う。「バトルしてなきゃただのガキだな、」
「笑わせるなよ。あれは『支給品』だ。俺のじゃねぇし、仲間と思ったこともねぇ。ただの道具だ。ポケモンを信じる?道具相手にンな感情、一生持たねぇよ」
「…道…具……。たとえ自分のポケモンじゃないからって…、…そんな言い方……」
猛烈な怒りと悲しみに、は身を震わせた。
どうしてそんなことが言えるのだろう。ポケモンは道具じゃない。仲間、友達…人によって形は違っても、大切な存在で……、博士、わたし間違ってますか?
「お喋りが過ぎたな。朝が来る。お前の甘さには反吐が出るが、そのセンスを失うのは勿体ねぇ。洗脳なり何なりすれば、お前は立派な駒になれる」
「!?」
「そういや、さっき一つ嘘をついたな」
「……ッ!?ぁああああぁあああ!!!!!」
背中が焼けるように熱い、
燃えている?違う、斬られた。でも何に。何で。痛い、痛いイタイイタイ――!!!
「こいつだけは信じられる」
痛くて熱くて寒くて、それなのに倒れられないのは、何かが体に刺さって支えているから。
いっそ痛みで死ねたら幸せなのに。殺して。咄嗟にそう願うほどの激痛。
腹から見える、爪。どうにか首を曲げれば、背中に無数の針が生えた、
「……サンド…パン……どうして……6匹…倒した……のに」
「6匹しか使わないって、いつ言ったよ?さぁ、出血多量で死ぬ前にお前をアジトに連れて行かなきゃなんねぇ。誰かさんが飛行手段潰してくれたおかげで面倒が増えた。ま、思わぬ手土産があったからいいさ」
足先から急速に熱が抜けていく。
「もういい、サンドパン」腹から爪が抜かれた。膝が崩れ、頬に冷たく湿った土を感じる。
「…そ…し、き………」
「すぐに分かる。…いや、逆だな。すぐに何も分からなくなる。ただ、組織の駒となって働けば良い」
このまま眠れば、楽になれるのかな。
ポケモンを道具と言う組織に、
道具のように使われて、
何も考えられずにわたしも誰かを傷つけて、
レンも、ハクも、リクも、まだ名前のないあの子も、みんな、 人殺し の 道具に?
「そ、んなの、、いや、だぁああああ!!」
2009.06.19. up.
2012.02.22.改