「レンは『ひのこ』、リクは『でんこうせっか』!」
オツキミ山へと続く3番道路を進んでいく。
すぐにでもオツキミ山に行きたいのだが、溜まり場となっているのか、トレーナーがやたらと多い。
トレーナーとのバトルは1対1、野生ポケモンとのバトルは状況に応じて。知らず知らずの間に、経験値とお金がたまっていった。
「――レン、『きりさく』!!」
「カゲッ!!」
火の粉を浴びて所々焦げていたオニスズメが、とどめの一撃を食らって倒れる。
「あ゛ー負けたぁ!強いね、きみ!!いけるかなぁって思ったんだけど」
からからと笑う短パン少年から、賞金を受け取る。
「この子のおかげだよ…って、あ、れ?」
レンの頭を撫でようと視線を下ろすと、ぶるぶると震えている。
『しびれごな』や『でんじは』の類は浴びていないのに、一体どうしたのか。
「レン!?」
「ははーん…もしかして、進化じゃないか?」
危ないからこっち、と腕を引かれながら、呆けた顔でレンを見守る。
レンに変化が起こる。ぐん、と大きく伸びる影。
進化の光が消えたあと、現れたのは真っ赤な体。力強さを増した尾の炎。
「…リザード、だ……」
夢を見ているような声色で呟くに、おめでとう、と声が掛かる。
「…今なら死んでもいい……」
「えぇっ何言ってるのこの子!!」
知識としては知っていた、だけど初めて目にする『進化』。
この半年、一緒に生活してきたレンが、成長した証なのだ。
「おめでとう、レン」
なんか僕も感動したから進化記念、と差し出された傷薬をありがたく受け取って、短パン少年と別れ、草むらを歩く。
いつまでも余韻に浸っているわけにはいかない。あとはプリンをゲットしたいところ。
「レン、体がつらかったり変なところがあったらすぐに言ってね」
「グル…」
少し低くなった声で返事をする。
目を合わせようとしないのは、何故なのか。嫌われたのかと不安になる。
「レーンー?」
「……」
進化し、身長的に近くなった瞳を覗き込んでも、目を逸らされる。
だが飛び出してきた野生ポケモンにはちゃんとの指示に従って攻撃する。
「…はぁ。も、初めて尽くしで訳が分かんない……」
がさがさと音を立て、草むらを掻き分けていく。
地面に埋まったイシツブテを避け、土を踏みしめる。
黒ずくめの人物に気をつけろ、と言われたばかりなのに、思考は別のことに気を取られてしまう。
落ちる溜息。
リザードに進化したのは嬉しい、嬉しいけれども!!
いきなり性格が変わるなんて、聞いてない…ッ!!
がさがさ。
がさがさがさ。
一言も発しなくなったレン。返事が無いのを恐れて何も話せない。
無言のまま進むふたりの間に、草を掻き分ける音だけが響く。
いつの間にか、道から随分離れてしまったようだ。
「あ…、戻ろっか。ここにはプリンいないみたいだし、あっちの草むらに行こう」
「……グル…」
パワーポイントが少なくなったレンを交代させて、リクと草むらを掻き分ける。
リュックの奥には、捕獲済みモンスターボールが新たに一つ追加された。
プリティフェイスをかぶった鬼だった。いくら見た目に伴わない中身をしていても、幼児の体はおやすみ3秒なのだ。それにしても、マイクペンなんて誰が与えたんだ…?
「ピ…ピカチュ!」
「ん」
警戒の声に、周りを見渡す。
気づけばオニスズメの群れに囲まれてしまっていた。
奥にはオニドリルの姿も見える。
「……。仕方ない、総力戦だ。――レン、ハク、一緒に戦って!!全部を相手にするな、一気に抜けて、センターまで走るよ!!」
両手に掴んだ2つのボールからレン、ハクを出し、指示を与える。
3匹ともHPもPPも万全とは言えない。
だから、ポケモンセンターまでの直線距離を全力で走り、向かってくる敵には一撃を、傍観を決め込む敵は放置する。
「10万ボルト!!」
「こんにちは。トレーナーカードをお見せください。――回復ですか?こちらは転送で?」
「はい、お願いします」
3にんの回復を頼み、またゲットしたポケモンを預ける。
話は通っていたようで、特別証と合わせて尋ねると、快く受け取ってもらえた。
回復を待つ間、3人掛けのソファで自販機で売られていた、紙コップのココアを飲む。
暖かいココアは、体と心を芯から温めてくれる。
レンの態度にこばわっていた心が解されていくのを感じて、ふ、と小さく息をついた。
そういえばポケモンセンターでココアを飲むのはこれで2回目だ。
普段はあまり甘いものは飲まないのに気が弱くなる度にココアを飲みたくなるのは、ナナミさんが作ってくれたココアが忘れられないからだろうか。
強くなりたい、と決意して旅に出たのに、まだ私は何一つ変われていない。パートナーのレンは進化したのに。
「ん?」
センターの外が騒がしくなったのに気づいて、腰を上げる。
自動ドアを潜ると、大小様々な水槽と、人だかりが見えた。
「――じゃあ、最後だぜ、こいつはどうだ!?進化すりゃ、とんでもねぇ大物だぜ!!」
「いらねぇよ!もう他にはねぇのか!?」
「だよなー、誰がコイキングなんて買うかっての」
どっ、と笑いが起こる。
「すいません、」は人だかりを掻き分けて、中心へと進んでいった。
「何ですか、これ」
ん?と顔を上げる青年に、何の集まりですか、と問い直す。
「ああ、ポケモンの出張販売だ。悪いが、こいつ以外は皆買い手がついちまったからな、嬢ちゃんが欲しいのはもうねぇと思うぜ」
地面に置かれた水槽には、様々な水ポケモンが一つずつ入っている。そのほとんどには、『売却済み』のプレートが浮かんでいる。
どうして水ポケモンばっかり?と顔を上げたに、オツキミ山越えるには水ポケモンがいるだろ、と青年は答えた。
「…そう、ですね……」
出来れば、良いトレーナーに出会えますように、と願いながら、水槽を眺めていく。
先ほど青年に『こいつ』と呼ばれていた一つの水槽の前に立った。
この水槽にだけ、プレートが浮かべられていない。
覗き込むと、黒々とした瞳と目が合った。力なくひれが動いている。
「あー…俺が言うのは何だがそいつはやめといた方が良い。新人トレーナーには向かねぇ。ってか普通のトレーナーはやめとくべきだ」
「そうだぜ、嬢ちゃん。お父さんに買ってこいって言われたのか?なら次の販売日まで待って…」
「この子、売れなかったらどうなるんですか」
誰も、目を合わせなかった。
「…分かりました。私が買います。いくらですか?」
「やめとけって」
「いくらですか」
「……500円だ」
差し出された手に500円玉を乗せる。代わりに渡された、新品のモンスターボール。コイキング、とシールが貼られている。
水面に浮かんできたコイキングに、ボールを触れさせる。
ぼんっ、と音を立てた後は動かないボールを握り締め、は顔を上げた。
「この子は、私がちゃんと最後まで育てます」
身を翻して、好奇の視線を寄せる人々の間に出来た道を進み、自動ドアを潜る。
ざわめきは絶えない。今は何に対してのざわめきなのか、……考えたって無駄だろう。
の姿に気づいて微笑むジョーイに近づいて、モンスターボールを受け取り、腰につけた。
ベルトホルダーにつけられたモンスターボールの数は4つ。その全てが最後まで育てると決めた、わたしにとって特別なポケモン達だ。
仲間、友達、家族…『ポケモンとは何か』と問われても、まだしっくりといく答えは出せない。けれど、この4にんがわたしにとってこれからも大切な子たちになることは間違いない。
「さぁ、みんな。次の街に行こう」
2009.06.19. up.
2012.02.22.改