「――結局、ニビシティに一週間滞在しちゃったかぁ…。もうそろそろ次の街にいかなきゃね、レン、リク」

ポケモンセンターのソファーに座り、膝の上で遊ぶ二匹のポケモンに話しかける。
ん?と一度顔を上げたものの、再び追いかけっこを始めたところで、はリュックのファスナーを開けた。

リク、というのは、新しい仲間、ピカチュウの名前だ。 『陸』を由来にする名前で、大地と太陽の似合う子になって欲しい、という理由からつけられたのだが、いささか元気すぎるような気もする。

現在、ヒトカゲの『レン』、ミニリュウの『ハク』、ピカチュウの『リク』、の計三匹がの手持ちであった。

「――お嬢ちゃん」
「え?…私ですか?」

地図とにらめっこしていたは、突然掛けられた声に顔を上げた。
おじいさんが、にこりと穏やかに微笑んでいる。

「そうじゃよ。お嬢ちゃん、ニビジムには挑戦したかの?」
「いえ、してません。けど、どうしてですか?」

頭の上によじ登っていたリクを膝の上に戻し、背中に縋りついていたレンを腕に抱きかかえながら答える。

「次の街に行こうとしてるように見えたからの。だが、その前にジムに挑戦してもいいじゃろう?どんな結果であれ、お嬢ちゃんにも、お嬢ちゃんのポケモンにも、良い経験になるぞ」
「あ…すっかり忘れてた。ジムのこと。――おじいさん、ありがとうございます。これから挑戦してきます」
「待て、わしはおじいさんじゃない、おにいさんじゃ」
「…あはは」

ポケモンバトルも現役じゃ、とモンスターボールを見せる姿に苦笑いを送って、レンとリクをボールに戻し、地図をしまう。

ジム挑戦かぁ…。どきどきする。
岩ポケモン使いという、ジムリーダー、タケシとのバトルを思い浮かべながら、大切なことを思い出させてくれたおじい…おにいさんに一礼をして、センターの扉をくぐり抜けた。










「え…、ジムって、開放日があるんですか?」
「そうだ。ジムには多くのトレーナーが訪れる。しかしジムリーダーにも休息が必要だろう?ジムリーダーの仕事は挑戦者の相手だけでは無いからな」


街を護るのもジムリーダーの仕事で…、……
ジムリーダーの仕事と責任について熱く語り出した受付の青年をそのままにして、は渡された開放日のカレンダーを見る。
次回は一週間後。 けれど、あと一週間もニビにいられない。先にハナダに行って、全てを終わらせた後、マサラに帰る途中にもう一度ニビに寄ろうか。

「どうした、騒がしいぞ」
「タケシさん!!」

相変わらず語り続ける青年を前に深く考え込んだは、背にしていたドアが開く音と、青年のすっとんきょんな声に、振り返った。

固く結んだ口に、腕を組んだ少年。 受付の青年が言うには、この人物がジムリーダーの『タケシ』なのだろう。
10歳は離れているだろうに、『さん』と敬称を付けているのは、それだけ彼が立派で、尊敬をしているからだろうか。

「で、どうしたんだ」
「あ…、いや、この子供が、タケシさんに挑戦をしたいと申しておりまして…」
「この子が?…きみ、トレーナーなのか?」

今まで散々言われたセリフに、トレーナーカードを示しながら、

「マサラタウン出身の、と言います。……挑戦を受けてくれませんか?」
「構わないよ」
「えぇ――!?」

駄目元で言ってみた言葉に思わぬ返事が返ってきたことに「ぇ、」と思わず呟いたに覆いかぶさるように、誰かが絶叫する。
むしろその声に驚いたが顔を向けると、あたふたと手を動かしながら、顔色を青から赤、赤から青へとくるくる変える青年がいた。 声が何度も裏返っている。

「ちょ、タケシさん!?ジム規定は守っていただかないと…」
「わざわざ遠くから挑戦者が来てくれたのに、無下に断るのは俺の流儀に反するさ。、フィールドに案内しよう。今日は開放日じゃないから、他のジムトレーナーはいなくてね。直接俺が相手をする」
「あ…」

立ち尽くすを置いて受付の奥の扉へと向かうタケシに、慌てて走り寄り、後ろをついていく。

「ありがとうございます!」
「お礼はいいさ。その代わり、俺を満足させるバトルを見せてくれ」
「はい、きっと!!」






「これは非公式の試合のため、ルールを変更します。使用ポケモンは2体。どちらかのポケモンが2体とも戦闘不能になった時点で、試合終了です」

先ほどの受付の青年とは違う、40歳ほどの男が、向き合う2人の中央に立つ。

「では、……試合開始!!」

「行け、レン!!」
「イシツブテ!!」

ぼん、と音を立てて現われる二体のポケモン。

「ヒトカゲ?フフ、岩ポケモンに炎攻撃は大して効果がないぞ!!」
「そうですね!けど構わない…レン、『ひのこ』!!」
「カゲ!!」

尻尾から放たれた炎の塊が、イシツブテの体に飛んでいく。
しかし、やはりそれほど効果は無いのだろう、煤けてはいるが、ダメージを食らっているようには見えない。

威力は抑えず、スピードを若干遅めにした『ひのこ』に当たったのは、ダメージが小さいからと全力で避ける必要が無いこともあるだろうが、それでも避けようとはしていた。 しかしこうして当たったということは。

――やっぱりイシツブテにスピードは無い!!…狙うならここ!!
けれど出来るだけ攻撃は食らっていけない。 ヒトカゲは、岩・地面タイプの技が効果2倍であるのだから。

「レン、避けろ!!『リフレクター』を頭の上に張れ!!」

落ちてくる岩を避けさせながら、イシツブテの動きを観察する。
タケシは『ロックカット』で素早さを上げようとはしないが、よく鍛えられているから、レベルもそれなりに高いだろう。

だとすれば、決め技はおそらく、

「イシツブテ、『いわなだれ』!!」

降り注ぐ岩の中、地面に亀裂が走る。

「レン、岩を飛び移れ!!」
「カゲ!!」
「なっ!?」

大小さまざまな岩を飛び移り、イシツブテの真上へと体を躍らせる。
地上5メートルの距離から落ちるスピードと威力に累乗させて、

「『きりさく』!!」

「避け…」タケシの指示が届く前に、レンの爪がイシツブテに迫った。

威力は通常より大きい。
いくら防御に優れているイシツブテだって、この攻撃には耐えられまい。

「イシツブテ、戦闘不能!!」

「イシツブテ、戻れ!!――『きりさく』を覚えているとは思わなかった。完全に油断していたよ。見た目以上にレベルが高いようだね。次はこいつだ。行け、イワーク!!」
「レン、戻って!ハク、行け!!…次も勝たせていただきます!!」

もう一戦出来るだけのHPはまだ残っているようだが、ハクに交代させる。
ジムリーダー相手に、同じ手は通用しないだろう。

「ミニリュウか。珍しいポケモンだな!!」
「ええ。だから、一般トレーナー相手にはあんまり出したくないんですけど…ジムリーダーは別です!ハク、『にらみつける』!!」

びく、とイワークが身じろぐのを目で追いながら、次の指示を出す。

「『みずでっぽう』!!」
「潜れ!!」

効果抜群の水技が届く前に、フィールドから逃れられてしまう。
舌打ちをしたいのを抑えて、イワークの攻撃に備えろ、と視線を送る。

「『あなをほる』ですか。けど、空中に浮かぶハクには届きませんよ」
「それはどうかな。見ていると良い。――イワーク!!」
「な…」

勢い良く地面から飛び出し、空中に浮かんでいたハクに頭突きを食らわした。 まともに攻撃を受け、ぐらりと体勢を傾ける。
ドンッ、と音を立て、地面に落ちるハク。

「ハク!?今のは…『ロケットずつき』!!」
「そうだ。イワークの体長は8.8メートル。このフィールドなら、どこにいようが捉えられるさ。イワーク、『しめつけ』ろ!!」
「リュッ!?」

イワークの尾に顔を、顔を尾に締め付けられる。
これでは『みずでっぽう』を繰り出しても意味が無く、

「しかもイワークに締め付けられたままじゃ、浮かぶことも出来ない!!」
「いいぞイワーク、そのまま締め付けろ!!」

締め付けが強くなる。
このままでは、ハクのHPが無くなるのを待つばかり。

…逃げなきゃ、でもどうやって!?

使えそうなものは、記憶を失った後の経験と、研究所で学んだポケモンのデータだけ。
多くのポケモンとバトルした中で、何かヒントになるものは無かったか――!?

「…ッ!ハク、脱皮しろ!!」

ハクはの言葉に頷くと、体を震わせて外皮を脱ぎ捨て、するりとイワークから逃れた。
慌てて締め付けを強くしたイワークだが、すでにハクはイワークから離れ、臨戦態勢をとっている。

「『りゅうのいかり』!!」

ごく、とどちらかの喉が鳴った。
腰を落とし、向かい合う二人の間で、煙が晴れていく。

「……イワーク、戦闘不能!!よって――…勝者、選手!!」

「ハク、戻れ!!」
「リュ!!」

いつの間にか握り締めていた掌の汗をズボンで拭い、ハクをモンスターボールに戻す。 後でふたりとも目いっぱい褒めてあげよう、と思いながらボールを腰のホルダーに取り付け、顔を上げると、タケシが手を差し出していた。

握手をすると、タケシはさっぱりした顔で微笑んだ。

「いいバトルだったよ。2−0か、完敗だな。けど、こんなバトルは初めてだ。まさか、バトル中に脱皮するなんて考えもしなかったよ」
「ミニリュウは脱皮を繰り返して大きくなるって、文献で読んだのを思い出したんです。こうもうまくいくとは思いませんでしたけど」
「敬語はやめてくれ、きみには不思議と使われたくない。それと、グレーバッチだ。受け取ってくれ」
「ありがとうござい…いや、ありがとう。楽しいバトルでし…だった」

む、と眉を潜める姿に慌てて言い直す。

「ああ、とても楽しかった。君みたいな心踊る挑戦者ばかりだったら、俺たちジムリーダーも助かるんだけどね。――これは、君のバトルを評してプレゼントだ。技マシン、中身は『がまん』だ。ぜひ使ってくれ」
「ありがとう。えっと…技を出してから2ターン分相手の攻撃を我慢して、反撃のダメージを大きくする技?」
「あぁ、良く知っているな。――」

真面目な声に、思わず受け取った技マシンをぎゅ、と抱えながら、背筋を伸ばす。

「なに?」
「君の力は本物だ。きっと8つのバッチを集められるさ。頑張ってくれ」
「うん…ありがと。頑張る。タケシも、」
「ピカァ!!」

話の途中で腰につけたモンスターボールがボンッ、と音を立て、現れたリクがにしがみついた。
リクは電気タイプだから、と今回はバトルに参加させなかったのだが、それが気に食わなかったようだ。 微弱だが、静電気がぴりぴりと体を走る。

「リク、勝手にボールから出ちゃ駄目だろ!!」
「チャア…」

頬を膨らませ、見上げてくる。こころなしか瞳が潤んでいるようだ。
それにう…とたじろぎ、しょうがないなぁ、と胸に抱えなおすは、飼い主としてやはり甘いのだろうか。

「もう…。ごめん、タケシ。それから、開放日じゃないのに勝負を受けてくれてありがとう。じゃあ、次の街に行くから。またいつかバトルしよう」
「あぁ、絶対だぞ」

タケシがの髪をわしわしとかき回した。
うぇ、絶対乱れた、と笑顔のまま思っていると、リクがの腕をすり抜けて肩の上までのぼり、べちん、とタケシの手を払った。

「ちょ、リク!」
「ピーカッ」

慌てて抱えなおすが、の両腕の中でリクがタケシにイーッと歯を剥く。

「嫌われたなぁ」
「なんか、ごめんね…あとでリクにはちゃんと言っておくから」
「気にしてないさ。…そうだ、最近オツキミ山で、黒ずくめの怪しい男が目撃されているそうだ、気をつけろよ」
「黒ずくめ?…分かった、気をつける。じゃあタケシ、さよなら」
「あぁ。また会えたら、またバトルしよう」

 

2009.06.19. up.
2012.02.22.改

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