inトキワの森。

「カゲッ!」
「うん、そうだね。まずは…」

モンスターボールを両手で抱え見上げるレンに頷きながら、街で聞いて作った、『トキワの森に出るポケモン』リストを眺める。

キャタピー、トランセル、ピカチュウ、ビードルは毒に注意、それとコクーン…。イレギュラーの可能性も頭に入れておく。
話には出なかったが、スピアーがいることは間違いない。

ポケモンのデータ集め。 それが、オーキド博士から与えられたの仕事。
存在の証明だけでなく、非存在の証明まで行うという根気と忍耐の要る作業。知る人が知れば『悪魔の証明』と揶揄していただろう。

それを8歳児という旅に出られないはずの年齢でありながら任されているのは、特別に認められたトレーナーであるためである。

「――まずはレン、あのキャタピー!!」
「カゲッ!」

ガサガサと草むらに音を立てて現れた緑色のポケモンに向かって、指をさす。
飛び出したレンに、びくりと体を震わせたキャタピーは即座に糸を吐く。

最年少受験且つ満点合格という前人未到の大記録を叩き出した少女の、『図鑑』完成という大偉業への第一歩(初日)にしては、なんとも静かな始まりであった。本人は至って気にしていないが。

「交わして…、『ひっかく』!!」

攻撃が当たったことを確認して、ボールを投げる。

ぼんっ!

コロコロと転がり抵抗するモンスターボールをじっと見る。
1回、、

「「……」」

2回、、レンも、臨戦態勢を整えたまま、息を詰めて転がるボールを見つめる。

3回。

「…ふぅ」

諦めたかのように静かになったボールに近づき、手に取った。

「キャタピー、捕獲完了!」
「カゲ!」

褒めて褒めて、とばかりに足元に駆け寄り見上げるレンに、お疲れ、ありがとう、と頭を撫でながら、大きく深呼吸する。
捕獲は初めてじゃない――すでに、ポッポ、コラッタ、ニドランなど、トキワの森に来るまでにもデータ収集は済ませた――が、何故かボールを投げる瞬間からゲットまではひどく緊張するのだ。

「慣れないなぁ…。っと、」

ボールごしにを見つめる大きな目に気づいて、中央のボタンを押す。
再び音を立てて、キャタピーが出てきた。

「ごめんね、痛かったろ。木の実、食べる?」

目線を合わせるため地面に座ったに向かってこく、と頷き、手の上に置いた木の実を元気に食べ始めたキャタピーを、はそっと撫でて、残りの木の実を地面に置いた。
順調に体の傷が癒えていくのを目視してから、リュックの中にしまってあった赤い機械を取り出し、キャタピーに向ける。

画面にキャタピーの名前と画像が表示されたのを確認し、右下のボタンを押す。
ブンッ、と鈍い音を立てて、赤い光が放射された。

「きみのデータを取らせてね。…んと、」

しばらくすると、図鑑に数値が表示される。

「0.3mの、2.9キロ」

隣でレンが、ふわ、と欠伸をするのを横目で見ながら、キーボードで打ち込んでいく。

「――サナギにかわる、…っと。ありがとう、助かったよ」

家にお帰り、と頭を撫でて立ち上がり、モンスターボールを踏み割ったを、キャタピーは一度じっと見上げてから草むらに戻っていった。

「レン、行こっか。今日中にトキワ側の森のデータを集めて、ニビシティに行きたい」


ここで野宿は嫌だ。
そう言って、太陽の暖かさに今にも眠りそうなレンの頬を引っ張って起こし、歩き出す。

『キャッチ・アンド・リリース』、つまり捕まえたポケモンをその場で逃がすこと。
トレーナーとしてあまり好ましくない行為だが、データをとるためには捕獲が必要である。 しかし、6匹以上のポケモンを所持してはならない、という規則が協会によって定められている。 そこでは、データをとるために一度捕獲し、すぐに手放すことにしている。

何も感じないかと言えば、嘘になる。
一度バトルしてゲットしたポケモンなのだ、愛着が湧くのは当然であるし、そうでなくてはトレーナー失格である。
それでも規則を破ることは特別な事情のあるには出来ないし、なによりゲットしたポケモン全てに愛情を注ぐことは出来ない、と自分で分かっているのだ。

「“転送システム”があればいいのにね、レン」
「カゲ?」

いきなり聞いたことのない言葉を投げかけられ、首を傾げるレンに、レンにはちょっと難しいかな、と撫でてやる。
完成間近だという、ポケモン転送システムがあれば、遠くいる人…例えば、オーキド博士にポケモンを送ることや、面識が無い人との交換だって出来るだろう。

「ま、不可能を語ってもしょうがないし。どんどん行こう。……レン、あのコクーンに『ひっかく』!」

 

2009.06.19. up.
2012.02.22.改

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