シルバーくんと初めて話せた日から数えて、今日で20日。ある意味記念日だ。
相変わらずあいつはクラスの中心で、彼はクールビューティで、わたしは自分の気持ちを伝えられないでいる。この関係は、そうそう変わりそうにない。
変わったのは、時々3人で話すようになったこと(といってもシルバーくんが会話に入ってくることはまずなくて、もっぱらわたしとシルバーくんが話しているときにゴールドが入ってくる、もしくは二人が話しているときにわたしが、のパターンだ)、それをやっかむオンナノコがいなくなったこと。
4月の間はおねえさま方からお呼び出しを何度かいただいたもんだけど、いつまで経ってもどっちつかずなわたしにとうとう異性間の友情があることを認めてもらえたらしくって、呼び出しを受けなくなったこと。
でも、それは誤りだ。見え透いたものじゃなくても、そこに恋心は間違いなくあったのだ。
あったのだ、と過去形にしてみたけれど、現在形で失われたわけではない。
だけど片思い生活に浸かりすぎたのか、ますます彼を好ましく思うようになったことは確かなのだが、今度は一体どこがそんなに好きだったのか、漠然としてしまったのだ。
「あんた、このままだと恋人じゃなくて友達にしかなれないって分かってるんでしょ?いい加減告白しようと思わないの?」
「うーん…」
好きなのに恋人より友達になりたいなんて、おかしいっしょ。
だから、もう、この恋は賞味期限切れなんだと思う。
「というわけで!!次の恋のために、わたし、告白たるものをしようと思います!!……タイミングがあったら!!」
「わーぱちぱちー(棒)」
まさか生まれて初めての告白が、玉砕覚悟どころか玉砕前提で行われるなんて思いもしなかった。
できればこうかるーく言って、かるーく断られ…もしくは流されて、またクラスメイト+アルファな関係に戻れれば一番良いんだけど。
まぁ、そんなころころと告白のタイミングが転がってるわけないんですけどね。
え?呼び出せばって?…いやー、だってそれ、重いじゃん。流せないじゃん。
「実はシルバーくんのこと、好きだったんだよね」「ふーん」ってなれば、それでいいかな。
あれ?ふーんっていうシルバーくん超可愛くない?いや、でも言うの?あの人ふーんとか言うの?むしろつーんって感じだよね。
って、あ!シルバーくんだ!!
昇降口でアカネと別れて早々、赤い髪を肩の辺りまで伸ばした後姿を発見する。
噂をすれば影っていうけど、心の中の独り言まで範囲に含まれるのだろか。言葉にすればうっかり名誉毀損で訴えられそうなことでも、とりあえず考えてみるもんだね!
登校早々、しかも教室以外で会えるなんて今日はついてるに違いない。
「――…というわけだから、今日は無しってことで」
「分かりました」
…っと危ない、誰かとお話中でした。
誰だろう。シルバーくんが敬語使ってるってことは、先輩かな。敬語、けーご…シルバーくんが敬語。気になる。……通りすがりにチラっと見るくらい、いいよねえ?
「あいつにも伝えといてくれ。よろしくな、シルバー」
ありゃ、これまた格好良い人。
遠くからでは同じくらいに見えたけど、シルバーくんより少し身長高くて、赤い瞳がとっても、
「いえ、大丈夫です。……?」
きれ…普通に邪魔しちゃったよ!!
しかもシルバーくんの声に反応してこっちを見た黒髪赤目の先輩(仮)とばっちり目が合っちゃったよ!!
「…えっと、おはようございます。…先輩、ですよね?」
「そ。オレは3年のレッド。きみはシルバーの友達?」
レッド先輩の言葉にちら、とシルバーくんを見ると、なんとも微妙な顔をしていた。
「いえ、クラスメイトです」ってのど元まで出掛かってる感じ。でもきみは、って明らかにわたしに答えを求めているから言うに言えない、というところか。
そこまで考えて言ったのならレッド先輩はなかなかのお人だけど、この爽やかな笑顔を見る限り、そういうわけでもなさそう。
さて、改めて考える。わたしとシルバーくんは、客観的に見て『お友達』だろうか。
ただのクラスメイトにしてはかなり話す間柄にはなったけれど、友達というにはちょーっと信頼関係が築ききれてないかもね。(でも、これからね!)
「クラスメイトのです。シルバーくんとは仲良くさせてもらってます」
自分で言って傷ついた。から、ちょっと付け足した。
そのニュアンスに気付いたのかどうなのか、レッド先輩は太陽みたいに眩しい笑みを浮かべて、頭一つ低いわたしを見下ろした。
「ちゃんな。…よし覚えた。シルバーのことよろしくな」
「はっ、はい!」
…あーやばい、蒸発する。露と消えらむ。
思わず変な危惧をしてしまうくらい先輩は眩しい。その輝きといったら、ヒーロー戦隊のセンターに匹敵するほどだ。オファー来ないのが不思議……いや、もう来てるかも?来てるけど断ってるかも?
……いや、待てよ。
シルバーくんの『先輩』、『レッド』。
馬鹿、なんですぐ気がつかなかったんだろ。かの有名な『トレーナー部のレッド』先輩じゃない!
うわ、わたしったら失礼なことをしでかしてない!?
「ということは、ゴールドともクラスメイトなんだよな。あいつ、教室ではどんな感じ?シルバーに聞いても教えてくれなくてさ」
「ゴールドですか?えっと……、何故か真面目に授業受けてますよ、最近」
席替えする前は寝てばっかだったのに。
どんな心境の変化があったやら。
「へー。そういえば昔、気になる子がいるって聞いたような、」
「先輩、用件はそれだけですか?」
「うん。――おっ、予鈴鳴りそうだな。わり、引き止めちまった。シルバー、ちゃん、またな」
じゃあ、と手を上げて階段を登っていくレッド先輩を見送り、自分たちの教室へ足を進める。
我らが学び場は廊下の突き当たりの教室だけど、まあ、普通に歩いていても本鈴には間に合うだろう。
……えへ。ちゃん、だって。
あの人にそう言われると、なんだかこそばゆい。わたしにもあんなお兄ちゃんがいればいいのになー…。
「レッド先輩って、トレーナー部の部長さんだったよね?」
「ああ」
「戦ってみたいなー…」
トレーナー部の、トップ。
つまり学園に在籍するトレーナーのトップってことだ。
初等部から入学したわたしは中等部編入のレッド先輩より前からここに通ってるわけだけど、彼に泥がついたなんて聞いたことない。
まぁさっきはうっかり忘れてたけど!!うっかりね!!
「戦いたい…?」
独り言のつもりで呟いたのに、シルバーくんは拾ってくれた。
最近気づいたんだけど、シルバーくん、バトルの話を振ると反応良いんだよね。色気が無いっていったらそれまでだけど。
「?わたしだってトレーナーだもの、戦ってみたいよ。いくら同じ学科っていったって、学年違えばまず機会ないし」
予鈴が鳴る。
先輩、間に合ったかな。
「…10回戦って、10回負ける相手だとしても?」
「そんなの分からないじゃない。10回戦って全敗しても、100回挑めば途中で相手が音を上げるかもしれないし。コンディションだって毎回違う。もしかしたらお腹下してて、いつ波がくるやも…ごめん、例えが微妙だね。その、えっとね、」
もうちょっと可愛い例えなんていくらでもあるだろうに、いざって時には思いつかないもんだな。
「同トレーナー同ポケモン、は有るけど、同じバトルは無いってこと。……あ、一概にトレーナーっていっても、トレーナーにもタイプがあるんだよね」
「たとえば?」
「たとえばー…ゴールドは、攻撃特化だよね。攻撃こそ最大の防御って考えてる。独学のトレーナーに一番多いタイプだけど。バトル中あまり考えないから策に嵌められて負けることが多いけど、ゴールドは二度は同じ策に嵌らないからすごいよね。なによりあいつは勝負勘がある」
「よく見てるな。あいつのバトルを見たのは何回だ」
ひーふーみー…。指を折って数える。
中等部の時に何度か見たし、バトルしたこともある。
片手をグーにしたところで、思い出せるものが無くなった。
「5回。でも1回バトルを見れば、どんなタイプのトレーナーか分かるよ。トレーナーの癖掴むのが、わたしの特技なの。フラットレベルで6on6のバトルだったら、ゴールドタイプの相手には10回やって8回勝つ自信あるけど、さすがにあいつ相手じゃ3回勝てないかも」
ちょっと見栄張った。
正直、勢いに乗らせたら一回勝てるかどうかだ。ただ勢いに乗らせないバトルが出来れば、ギリ3いけるかも。そんなライン。
「オレが相手だったら?」
「シルバーくん相手だったらー…、」
……駄目だ。わたし、シルバーくんのこと、よく知らない。
彼のバトルは見たことないし、彼の内面だってまだまだ分からない。ゴールドくらい顔に出してくれれば、ある程度推測でモノ語れるんだけどな。
「ごめんね、未知数。ただし期待値は高いよ?あいつよりね」
「そうか。……今度、」
「おまえらあと1分だぞ!!」
遠くで、担任の声がした。
見れば教室の扉から半身だけ出した担任が拳を振り回している。朝から元気で羨ましいことで。
「今行きますー!!ごめん、なんて?」
「後で言う。今は急ぐぞ」