「えー、命中率90パーセント急所率15パーセントの時、この計算式により、えー、このポケモンが平均して与えるダメージは89ということが分かります」
もうね、この教室に満ちた空気ったら!!
必修授業とはいえ、毎週この時間は欝だ。
だって夢がない。
計算式で勝敗が確定するなら、誰もバトルしないっての。これだから学者肌のせんせーは。
だけど出席確認と課題提出は毎回きっちりやるので、気を抜けない。
まあ、後ろから気持ちよさそうな寝息が聞こえるわけですが!
「えー、じゃあ、練習問題をやりましょうか。えー、まず自分で解いてみましょう。その後、質問があれば挙手してください。最後集めて、えー、点数で評価します。成績に直結しますので、えー、頑張ってください」
前から回ってきたプリントを一枚だけ別にして……、どうせ十分後には消しゴム跡その他でぐっしゃぐしゃになるんだから、始めからプリントがぐしゃってても構わないだろう、うん。それにわたしの分じゃないし……振り向きざまにッ!叩きつけッッ!! た。
「ってぇ!…なにすんだ、」
「おはよ☆ ゴールドくん、課題プリントだよ☆」
きもい、とか聞こえるけど気にしない。
「嫌なら人が真面目に受けてる後ろですぴすぴ言わないでね。はい、こっちは後ろに回す用。さっきからマサハルくん待ってるよ?」
マサハルくんはゴールドの後ろの住人。
ねえ、と軽く身を乗り出して言うと、気にしてないよ、と笑って小さく手を振ってくれた。…イイヒトだなぁ。それに比べてこいつは。
「あ、わり、マサハル。…って、オレのプリント大惨事じゃねえか。どうしてくれんだよ」
「どうせすぐぐしゃぐしゃにするじゃない」
ぐだぐだうるさいゴールドをかわして前に向き直り、シャーペンをノックする。
はいはい第一問、攻撃個体値31のはりきり特性トゲチックがずつきで防御力HP個体値31のヤンヤンマを確実に倒すのに必要な最少攻撃数……?
ただし持ち物はなし。へーなるほど。まったく分からん。
まずね、
「せんせー、これレベル書いてないです」
「えー、じゃあ、50フラットってことで。性格等の補正は無しにしましょう」
ふむふむ。
とりあえず習ったばっかの計算式に入れてみる。そこ、無駄な足掻きって言わないで。
しばらく教室には、カリカリという音だけが響く。
……だけどまあ、驚くことに一筋の光すら見えないんですよ。これが。
一応、数学は得意分野なんだけどなぁ。
そうこうしてる内に、5分経った。
集中力が無い、もしくは苦手意識のある人だったらそろそろ集中が切れる頃だ。
口火を切ったのは……、
「せんせー、質問いッスか?」
「えー、まず挙手でアピールするともっと良かったですね。まぁ良いでしょう。ゴールドくん、どうしました?」
先生がゴールドの席に歩いていく。
「右上に研究科M2用って書いてあるような気がするんスけど」
「ばっ、……馬鹿ゴールド!みんな頑張って見ない振りしてたのに…っ!!」
慌ててゴールドの口を両手で塞ぐけれど、間に合わず。一瞬で教室の空気が殺気立つ。
押し殺した声でゴールドを非難するけれど、「意味あるのかよ」とわたしの手を掴んで離し、「せんせー?」と問い直した。
……ごめんみんな。わたし、このアホ止められなかった。
M2ってつまり大学の上の、大学院の2年ってこと。しかも研究科。
気づいたら最後、そんなん解けるか!って諦めてしまうから、どうにか目に入れないようにしてたのに。
「……せんせー、結局、オレらどうすればいいんですか?」
「解くんですか?解けるんですか?」
誰も彼もがギラギラした目で先生を見つめる。なんとあのシルバーくんまで。
だけど「シルバーくんに見つめられていいな」とは思わない。だって熱意の篭ったってより、夜道には気をつけなって感じの視線だもの。
…そうだよ。
成績に直結するのなら、わたしたちはこれに答えを出さなければならない。だって単位欲しいし。
「えー、そうですね。困ったら感覚で解いてみてはどうでしょう。きみたちはトレーナーですし」
それ、つまりどういう意味?