カントー学園 ジョウト編




「なに、イメチェン?」

なーんであんたが一番に気づいちゃうかな。
前髪の分け目を変えるだけという些細な変化を席に着くなり的確に指摘したのは、ゴールドだった。

その言葉に、周囲のクラスメイトはわたしを二度見して「あ、本当だ」「ちゃん似合ってるよ」と反応をくれる。ありがとみんな、愛してる!
二列向こうのシルバーくんは、本に視線を落としたまま反応なし。まぁこの距離だし、うん。

「あんた、ほんと目ェいいねー」
「まーな。で、失恋でもしたのかよ?けど、あいつ昨日も今朝も特に変化なかったような…。いや、そもそもお前に告白する勇気なんてゼロ!万に一つもねえよな。こりゃ失敬」
「違うし。馬鹿にすんなし」

わたしとアカネがルームメイトなように、ゴールドとシルバーくんはルームメイト。
学校では彼らが話してるのはあまり見ないんだけど、それでも親友だっていうんだから男の友情は奥が深い。

「あの人は気になってる。けど、好きな人はまた別にいる、」
「は!?」
「としたら。…なんでそんな焦ってんの。…あ、もしかして、ゴールドって、……」
「な、んだよ」

「昨日の月10見たっしょ、三角関係極まれりって感じだったもんねー。しかもちょっとえっちいシーンあったよね。あーあれは見てるこっちが焦った」
「見てねえよ。ダチがそんな浮ついたやつだって思わなかったからビビッただけだ。勘違いだったけどよ」

「へぇ、わたしとゴールドって、友達だったんだ」

友達ねえ。
へら、と笑って、前を向く。始業の時間だ。










「あ、これから図書館に行っていい?期限が切れそうなのよね」
「いいよ。今持ってる?」

今日はちゃんと昼飯にありつけた。
やっぱり昼は食べないと。成長期だし。隣に座る友人の、主に胸部を流し見る。…いやいや、まだ望みを捨ててはならん。大体はおなじモノ食べてるんだ。

「…あんたってさぁ、」
「いやね、動くものは気になる。これは本能ですよアカネさん」
「まぁどうだっていいけど」

だったら聞くな。惨めになる。

「そういやアカネこそどうなの?今度の…ええと、研究科の彼」
「情熱が足りない、のが欠点ね」
「またかー…気持ちは分かるんだけどね」

アカネの理想の男像は、一つのことにトコトン打ち込める人だ。
それさえクリアすれば性格や顔は一切考慮にいれない、という破格の条件にかかわらず、いつも短い間に別れてしまう。
理由は、相手さんが、アカネに入れあげてしまうから。そうなると自分の打ち込んでいるものに中途半端になってしまう。結果アカネが冷める。だから別れる。

「ねぇ、ウツギ博士って知ってる?」
「え?…だめ!あの人にはたしか妻と子どもがっ!!」
「違うわよ。博士の研究所に、それはもう勉強の鬼って感じの勤勉な学者が入ったって話。前の研究発表会で聞いてね。里帰りも兼ねて、今度の休みにでも行ってみようかと思ってるの」
「あー、なるほど」

男探しかと思いきや、ばっちり本業と両立してるところも、アカネの美徳だと思う。
他にもアカネのすごいところはたっくさんあるんだけどね!

も一緒に来ない?ママ、あんたに会いたいって言ってたわよ」
「んー、あとでスケジュール帳と相談してみる」






「カウンター通してくるから、…あ、そうそう、レポートで使う本も探さなきゃいけないんだった」
「んじゃ、そこらへんでぶらぶらしてんね。全部終わったら声掛けて」
「あんまりちょろちょろして迷子にならないでね」

お・な・い・ど・しですから!

また子ども扱いされた。
頭からぽこぽこと怒りの湯気を出しながら闊歩していると、気づけばいつも時間を潰すファンタジー小説の棚とは別の書庫の中にいた。

この学園の図書館はありえない数の生徒のありえないほど多種多様なニーズに合わせるために、ありえない量の本を所有している。
よって、めちゃくちゃ広い。毎年神隠しされる生徒がいる、なんて七不思議にあげられるくらい。

だからよほど通いなれた生徒か職員でないと、奥まで入らない。だって迷うから。
……うっわ、数分前の自分を殴りたい…っ!

「…どうしよう、」

迷ったらその場で待機。これ遭難者の原則。幸いお弁当を食べたばかりだから餓死の心配は当分無い。
奇跡的に誰かが通るのを待つか。いつものところにいないから、アカネが職員に連絡してくれるかもしれない。

……あーもう泣きたい。わたしったら馬鹿だなあ、ほんと。
このまま孤独死したら図書館で迷子になったまま死んだ女子生徒の霊とかいって七不思議に参入するんかな。それはいやだ。活字を見たら一分で眠りにつくわたしが図書館にすみつくなんて。

そう思うと、なんだか力が抜けてしまった。
ずるずると床に腰を下ろして、棚に寄りかかる。ぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜて、あーとかうーとか小さく呻る。何かしてないと、不安でしかたがないから。

あーあ、王子さまじゃなくていいから、誰か助けて。

「……、?」

神はわたしを見捨ててなかったようだ。
早速助けがっ…え、

「シルバー…くん?」

顔を上げて声の方角を探すと、通路には王子さまがいた。え、っと、幻覚?
ぱちぱちと瞬きをして、それでも足りないから擦って…やっぱり、そこにはシルバーくんがいた。

「そこで何をしている」

シルバーくんの目が、きつく細められる。
そりゃあね、靴で入る図書館の床に座り込んでたら変人にしか見えないだろう。

「えっと、その……」

どうしよ、迷子になりましたって正直に言えばいいんだろうか。言ったら、更に引かれないだろうか。
でも、シルバーくんの目は、下手な嘘はすぐに見抜いてしまいそうだ。見上げながら思う。

「…迷ってしまって。ごめんなさい」
「?どこに謝る必要が、…まあいい。ついてこい」
「どこへ?」

あぁもう馬鹿。さっき反省したばっかじゃない。

「一生迷ってるつもりか?」

そんなつもりっ…え、腰抜け、た?足が動かない。
その間にも、シルバーくんは背を向けていってしまう。【→孤独死】

「やだっ!」
「!?」

咄嗟に伸ばした腕は、かろうじてシルバーくんのシャツの裾を掴むことに成功した。

「…ごめんシルバーくん、…手、貸してくれないかな?……その、腰…抜けちゃって」

呆れ果てたシルバーくんが振り払って行ってしまいそうだったら、もう恥も掻き捨て!と馬鹿正直に伝える。
もうね、自分で穴掘って入りたい気分。…くすん。

でも、手、引いてくれたんだ。




「…わたしの名前、知ってたんだ」
「クラスメイトの名前くらい、覚えている」
「そっか、そうだよね。――…シルバーくんは、どうしてあそこにいたの?」

期待しなかった、って言ったら嘘になる。
でもま、そううまくはいかないもんだよね。

「レポートで必要な文献を探していただけだ」
「それって、もしかして歴史学のカタヤ先生の?だったら閉架図書にある資料を参考にすると評価高いよ。えっと、なんていったかな…レファレンスサービス使うと一発なんだけど」
「レファレンスサービス…?」
「図書館の職員さんにこういうこと調べてるんですが、って言うとね、関連ありそうな資料を集めてもらえるの。わたしはしょっちゅうお世話になってる」

自分で探そうとすると迷うから。と思っても、口には出さない。

は使えるサービスは存分に利用する派だ。
だからいつまで経っても配置を覚えられないのかもしれないが、効率が良いならそっちの方を選ぶ。

「…あ、ごめん。なんかわたしばっかりしゃべってるね」
「いや、助かる。実は探していたものが見つからなくて、諦めようとしていたところだった」
「良かった。ちょっとはお役に立てそうかな」

役に立てたなら嬉しい。
…でも、こんな事務的な話じゃなくて、もっと甘酸っぱいものを求めてしまうのは罪でしょうか。

「……(ごくっ)、シルバーく、」
!!あんたどこほっつき、……」
「……」
「……」
「……」

六点リーダーの内訳。上からシルバーくん、わたし、アカネ。
三すくみってこういうことじゃないかって位お互いがお互いを見合って、口を動かせないでいる。

ちなみにこの無言の間をいち早く脱出したのはシルバーくんだった。

「…もう迷うなよ」
「あ、うん。ありがとう、また改めてお礼させてよ」
「必要ない」

図書館の扉の向こうに消えていくのを、なんとなく見守る。
……ダディ、クール。

「……あんた、話せたじゃない。っていうか何があったか、あとで詳しく話してもらいましょうか」
「…はーい」





「…といったことがありました、以上!」
「ふーん…、まぁ良かったんじゃない?まず話せて。だけど相手がお礼いらないって言っても、素直に従うかそれでもお礼するかは見極めないと」
「見極め、ですか」
「諸刃の剣よ。律儀な子だと思われるか、しつこいと思われるか。まぁ、案内くらいだったら、それネタに明日話しかければいいくらいじゃない。前より話しかけやすくなったでしょ?」
「ネタっていうな。…でもま、そだね。いっちょ頑張ってみっかな!」

 

2011.01.27. up.

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