寒いのは苦手でもないし嫌いでもない。ただ、夏の方がお得感はあるよな、とは思う。
どういう意味かって?ふんわりとした手編み調のマフラーに顔をうずめるのはそりゃあ可愛いと思う。
けど正直その何枚も重ねた服の中がどうなっているかの方が気になるわけで、それはイヤラシイとかそういうのじゃなくて、あれだ、男の本能ってやつだな。そういうこった。
「あーもう死ぬ。死ぬって。ねぇゴールド、あたしが死んだらどうする?」
「なんで?」
「寒さで」
そんな理由で死んだやつにはどうもしねえ。
一方それなりに付き合いの長いは、寒いのが大嫌いだという。
南国育ちにはこの地方の冬は耐えられないといって出歩きたがらない。分厚い布団を剥いで、毛布を剥いで、引っ張り出すのは冬限定の日課。
ホウエンといっても場所によってはスキー場があるように、冬には至極当然雪が降るのだが、その事実を突きつけると、いつもは耳を塞いで聞こえない振りをする。
端から答えなんて求めちゃいないは、どうする、と聞きながら静かに待ちもしない。
もこもこの手袋に包まれた指を摺り合わせながらやばい死ぬ、死んじゃう、とぶつぶつ呟くのは、放っておくと次第に呪詛じみてくる。いい加減通行人に通報されかねないので、オレは適当に話題を変える。
「そういや、」
うん?と言いながら、口の上までマフラーで覆おうとするに、それ、しゃべれるのか、と眉が寄った。
傍から見たら変人。こんな格好往来で出来る程度に中身も軽くオカシイ。てかアホ。まぁ、付き合ってるオレも大概だけど。
「しゃべれるよ。で、なに?」
「頭ン上に、雪積もってるぜ」
やべ。話題変わってねぇ。帰りたい、をまるで隠さなくなったに焦る。
けれど出してしまった言葉は今更どうしようもなく、とりあえずうっすら積もった雪をはらってやって、自分がかぶっていたニットの帽子をかぶせて耳を覆うくらいまで引っ張る。
鼻下までのマフラーに、目の上までのニット帽。
黒いサングラス掛けたら完璧、だ。オマワリさんここにどう見ても怪しい女がいるッス。
「ゴールド、は、」
もこ、と変な擬音を立てながら、が首を傾げる。
「そんな寒くねえよ」
「そっか。ありがと。――あ、ねぇ、」
袖を引かれて振り返ると、全国チェーンのハンバーガーショップの看板を見上げたが、今日はじめて笑顔と呼べるものを顔に浮かべた。
「寄ってこ?」