Lucid Dream




「…あなた様でしたか」
「……?」


駅員とは温度の違う視線に、違和感を覚える。しかしそれも次の瞬間には全て吹き飛んだ。


「本日はバトルサブウェイご乗車ありがとうございます。わたしくサブウェイマスターのノボリと申します!」
「…ぅぉっ!」


なにこの突然の高テンション。
この人セリフが長ければ長いほど興奮するタイプ(?)なのだろうか。


「さて次の目的地ですがあなたさまの実力で決めたいと考えております。ポケモンのことをよく理解なさっているかどんな相手にも自分を貫けるか……勝利もしくは敗北どちらに向かうのか……では出発進行ーッ!!」


「ゲンガー、おねがい!」
「ダストダス、お行きなさい!!」


一番手がダストダスってことは、相手のポケモンはゲーム通りダストダス・ギギギアル・イワパレスなのだろうか。
…しっかし……、最後に挑戦したのが昔過ぎて技構成も持ち物もなんも覚えてないぞ!?

ダストダスとゲンガー、タイプ相性は悪くない。
ダストダスの種族値は攻撃95特攻60、普通は物理型に育てる。だけど特攻技のレパートリーの多さから、彼のダストダスが特殊型でないとは言い切れまい。サイコキネシスも覚える。でも普通は攻撃型だ。

そしてダストダスの特性は確かあくしゅうとくだけるよろい。
物理攻撃を受けると防御が一段階下がり、素早さが一段階上がるくだけるよろいは、特殊技しか覚えていないゲンガーは関係ない。しかしあくしゅうって何だったっけ?何割かでひるむのか?しかしどのタイミングで?あーもー今更考えたって仕方ないか!!


「ゲンガー、シャドーボール!」
「ダストダス、サイコキネシス!」
「…ッ!」


先手を取ったのは勿論ゲンガーだった。しかしシャドーボールで削れたのは半分強ってところだ。
対してダストダスのサイコキネシス、特攻が低いとはいえ7割近く削られる。次打たれたら確実に落ちる。やっぱ変えとくべきだったかなぁああ!!

しかし、次のシャドーボールでダストダスが落ちるのは確実だ。
…ってなんかあのダストダスなんかもぐもぐしてない!?食べ残し?いや…、あ!


「くろいヘドロッ!?」
「正解でございます」


うわ…っ、しかしそうだよな、毒タイプ一匹だったら持ってておかしくない、てか持っててしかるべきだ。
しかしこの回復でHPは半分以上になる、急所に当たらない限り、シャドーボールは確定2どころか確定3だ。きあいだまは半減、10まんボルトだってシャドーボール以上のダメージにはならない。

しかも後続を考えれば、急所狙いに賭ける場面ではない。

ゲンガー、次で落ちる。
どうする、死に出しでガブリアスを降臨させるか?しかしゲンガーはまだ活躍できる可能性が十分にある。


「ダストダス、サイコキネシス!!」
「戻ってゲンガー!行け、ガブリアス!」


ダストダスのサイコキネシスは、ガブリアスに当たった。
しかし見た限りでは2割削ったかってところだ。うーん…やっぱ換え時ミスった!


「ガブリアス、じしん!」
「…ッ、」


ガブリアスのタイプ一致地震がダストダスに襲い掛かる。
弱点でダメージは2倍。考えるまでもなく確定1で落ちる。


「…ギギギアル、お行きなさい!」
「ガブリアス、もう一回じしん!!」


素早さで勝るガブリアスの地震が、再び命中する。
ギギギアルがシュカの実を持っていたなら耐えるが…、


「ふふ、オッカの実でしたか?」
「…えぇ、ご名答です。――イワパレス!」


最後のポケモンはイワパレス。
タイプはむしといわ。特性はがんじょう、もしくはシェルアーマー。
新技からをやぶるとの相性の良さから、がんじょうの採用率が高い。…まぁ、からをやぶるを覚えているか分からないけどさ!


「ガブリアス、ドラゴンクロー!」
「!?…イワパレス、受け止めなさい!」


ガブリアスがイワパレスへと肉薄する。そして鋭く尖ったツメでイワパレスを切り裂いた。
鈍い金属音が響く。…金属音?いわタイプのポケモン相手に?

ガブリアスが身を翻し、の目前で再び身構える。…気になってガブリアスのツメを見ると、先程まで無かったはずの傷がついている。 岩を削って傷ついた?…まさか。そんなやわなツメじゃない。


「……!!」


思い当たってイワパレスを見ると、その頭に見慣れない黄色のヘルメットを被っていることに気付く。


「ゴツゴツメット…っ!道理でガブリアスがダメージ食らってるわけだ!」
「ええ。以前と同じ道具ですが、お忘れでしたか?――イワパレス、シザークロス!!」
「…ッ、」


ゴツゴツメットのダメージを含め、ガブリアスのHPが半分以上が削られた。
落ちる。次で落ちる。


「ガブリアス、じしん!」
「シザークロス!!」


ガブリアスの地震がイワパレスに命中するが、しかしイワパレスを瀕死にすることは叶わなかった。
攻撃直後の隙を突き、イワパレスがガブリアスに肉薄する。そしてクロスに掲げたツメが、ガブリアスを襲った。


「あっ…」


その瞬間、鈍い音が響いた。
――程なくして、ガブリアスが地に落ちる。


「……ッ、ガブリアス、よく頑張った!おねがい、ゲンガー!!」


ガブリアスを戻しつつ、ボールを投げる。
ゲンガーは先の戦いですでにHPが3割程となっている。次の一撃に全てをかけるしかない。


「シャドーボール!!」


――そして、イワパレスが地に落ちた。


「……勝、った」


「ブラボー!」
「!!(ビクッ」


勝利の余韻に浸っていた私は、突然の叫びに、心臓が止まりそうになった。


「あなたさまはその実力で勝利という目的地に見事到着なさいました!」

「ですが人生はまだまだ終わりません!次の目的地が決まりましたらそこに向かって全力でひた走ってくださいまし!」


まし!あたりで彼の背後に東映的な波しぶきが見えた。
…え?分かるよね?あの岩に荒波がぶつかってばしゃーん!から始まる東映映画のことだよ?


「…お、終わりですか?」
「終わりでございます。それにしても、何故あの時ストーンエッジを打たなかったのでございますか?」
「え?」
「ガブリアスのことです。イワパレスとの一戦、地震もしくはドラゴンクローのどちらかをストーンエッジに変えていれば、そこで勝敗は決していたはずです」
「えっ」
「そもそも、何故あそこでドラゴンクローを選ばれたのですか?おなじ攻撃技なら、地震の方が威力は上。わざわざドラゴンクローを選ぶ必要などありません」
「…えっ」


なんでこの人こんなに言うの?
特急列車並みにミスを指摘すれば、私が喜びそうに見えたの?


「……だったら、あなたはどうなんですか?」
「?何か仰いましたか?」
「あなたはどうだって言ってるんです。まずなんですかあのギギギアルのタイミング。ガブリアスが場に出てるってのに素早さに劣るギギギアル出して、しかもオッカ持ち?今時初心者でもやらないミスですよ。現にイワパレスは、わたしの指示ミスがあったとしても、実際ガブリアスを倒してるっていうね」
「……」
「それから、私から言わせてもらえばダストダスの技構成もありえませんね!あの子どうして特殊型にしたんですか?攻撃種族値95が泣いてますよ!」
「…おっしゃる通りです」
「はぁ…。正直、残念でした。こうしてサブウェイマスターと戦えるなんて、」


夢の中でしか無理だろうから。

脳内で自虐して少し冷静になると、…すぅっと、肝が冷えた。
……わたし、なに言ってるの…?


「…!すみません、言い過ぎました!!」
「いいえ、全て、あなた様のご指摘の通りでございます。ここまでたどり着いたあなた様に、ご満足いただけなかったのは、わたくしの責任でございます」


土下座する勢いで膝を折ったの手を引いて立たせると、彼は深く頭を下げた。
そうして、固く口を結んでを見下ろすと、ややあって再び口を開いた。


「しかし、これだけは言わせてくださいまし。バトルサブウェイは、ポケモンバトルを楽しむ全てのお客様のための施設。中には種族値や個体値、努力値を知らずとも、深い絆で繋がれたパートナーと共に戦う時間を得るためだけにいらっしゃるお客様もいらっしゃいます」
「……」
「そしてここ、21両目に初めてたどり着く頃には、ポケモンバトルの奥深さに少し踏み入れようとされている。そのためにわたくしがいるのです」
「…つまり、三値を理解していなくても、戦略や駆け引きによっては勝てる相手でないといけないと?」
「お客様には失礼ですが、しかし事実でございます。そして、その先を望まれる方には、スーパートレインの運行によってお応えしております」


……分かってる。
スーパー用に育てたポケモンでノーマルに来て、それで心行くまで戦えると思った私が間違っている。
けれど、私の実力では、ノーマルでないと、彼らには会えないのだ。
いくら素晴らしい能力のポケモンを用意しても、いくら優れた道具を用意しても、プレイヤーがまずまずの能力じゃスーパーでは勝ち進めない。48連勝なんて夢のまた夢だ。


「…次の駅には、まだ着きませんか?」
「えぇ。あなた様は想定時間よりも大幅にお早く勝利なさったので、到着には後5分程かかる予定でございます」
「そうですか…。じゃあ、もう少しお話できますか?」
「わたくしでよければ。どうぞこちらにお座りください」


彼の示す座席に座る。私が座るのを確認すると、彼もまた、少し距離を置いて隣に座った。
いくら夢だから、ドットじゃないからといって、彼に言ったって意味なんて無いのに。だけど彼に聞いてほしかった。


「えっと、…わたしは、本気のあなたと戦いたいと思っています。もうずっとそう思ってて…、」
「存じ上げております」
「え?」
「あなた様がスーパーシングル、そしてスーパーダブルにどれ程ご乗車くださっているか、わたくしを含め、バトルトレイン関連の駅員は皆把握しております」

「……なんですかそれ。諦めが悪いってみんな思ってるってことですか?口だけとか、知ったかぶりとか、そう思ってるってことですか!?」

一度口を開くと、もう止まらなかった。

「当たり前ですよね、あんなにタマゴ産んであんなに考えて育ててるのにいつも途中下車でっ、しかも最近なんて特に酷いしっ、なんですか1両目で負けるって…スランプにもほどがありますよ!」
「そうかもしれませんね」


そうじゃないよ、あなたは頑張っているよ、そう言ってもらいたかったのに、しかし彼から返ってきたのは求めていたものとは正反対だった。
けれど彼が存外穏やかな顔をしていたから、思わず言葉を止めてしまう。


「っ、」
「あなた様は今、スランプに陥っている。それは確かだと思います。諦めが悪い、それも正しいでしょう。しかし、それは欠点でしょうか」
「……」
「諦めの悪さは、言い換えればあなた様自身の粘り強さです。ポケモン勝負は、どれだけ正攻法でなくとも、どれだけみっともなく耐え忍ぼうとも、最後に一匹でもポケモンが残っていた方が勝ちです。そういうバトルを、あなた様は一度も経験されませんでしたか?」


そう問われて、目を閉じた。
ゲーチスとの戦い、チャンピオンとの戦い、そしてこのバトルサブウェイも、最初は旅のパーティや好きなポケモンの組み合わせで挑んでいた。 いつの間にか負けが見えた瞬間にリセットボタンを押す習慣がついていたが、はじめは一撃で倒されてはげんきのかけらを使い、一撃で倒されては次は倒されないようにと考えに考えていたのだ。

目を開いて、再び彼を見る。


「…しました。何度も」
「そうして掴んだ勝利があるのに、負けが続いたからといって欠点と割り切ってしまうのは、勿体無いと思います」
「…はい」
「ひとつだけ、わたくしからアドバイスを。――もっと、ポケモンを好きになってくださいまし」


ポケモンを、好きに。


「種族値や型に捕らわれず、好きなポケモンを、好きなように育ててみてください。バトルサブウェイで勝つことだけがポケモンの楽しみではありません。あなた様は今、“強いポケモン”に囚われすぎているように思います」


まもなく駅に到着する旨のアナウンスが、車内に流れた。

彼は音も立てずに立ち上がると、の目前に手を差し出す。
電車が減速しつつある中で、その手にが自分の手を載せると、彼は軽く引いて立ち上がらせた。


「差し出がましい真似をして、申し訳ありませんでした。しかし本心からの言葉でございます」


終着駅に到着した。、電車が完全に停止し、扉が開いた。
…行かなきゃ。私が出なければ、このトレインは発車できない。

顔を上げ、彼を見上げてから、頭を下げる。


「対戦、ありがとうございました。…とても楽しかったです」
「こちらこそ、ありがとうございました」

頭を上げ、扉へと足を進める。
挑戦者が降りると、トレインはホームを発車する。ホームに降りれば挑戦は終わりだ。

ホームに降り、そしては振り返った。
目覚めた時にこの記憶が消えていようとも、せめて、トレインが発車するところまでは見送りたい。


「!」


扉の内側で、彼がを見下ろしていた。


「失礼、お伝えし忘れたことがありましたので。――我々鉄道員にあなた様を悪く言う人間は一人もおりません。あなた様の悩みは、トレーナーであれば誰しも共感するものですから」
「…また、挑戦してもいいですか?」
「ええ、もちろん」


「またのご乗車をお待ちしております、様」








そうして私は、目が覚めた。

2012.03.22. up.

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