「あれ、さんじゃないですか。お疲れさまです」
さっきも思ったんだけど、なんなんだろうこの変な補正。ホストかよってレベルで人の名前連呼するし(それは確実に偏見である)、こっちはまったく知らないってのに顔見知り感が半端ない。
深層心理ではそういう願望があるんだろうか、だとしたら今すぐ死んでしまいたい。
…結局、7連勝して中間駅に途中下車した。具体的にどこなんだろうここ。いい加減目が覚めてもいい頃だと思うんだけどね。願望だったサンタテオツーは出来たよ。
それと、あのテンションは治らなかった。
意識してても治らなかったし、意識しようとすると技名を叫ぶのが恥ずかしくなり、結局指示が遅くなってポケモンに睨まれるのだ。
もうこんな自分を受け入れるしかないと4両目あたりで気付いた。サブマスの黒い方だって無表情高テンションじゃない、似たようなもんだって。
そうそう、3匹目のポケモンはガブリアスだった。
もはや語ることもない厨ポケだが、敢て言わせてもらうなら『計算されつくした600族』。あの種族値の無駄の無さは最もゲーフリに愛されたポケモンとしか言い様がない。
個人的にはブースターちゃんを救済してください。もふもふ可愛いよ。フレアドライブちょうだいよ。
「続けて対戦しますね?それでは参加するポケモンを選んでください」
「……えっ」
いやいやおかしいよ駅員さん。
そこは対戦しますか?でしょう?たしかにAボタン連打してたけどさぁ!!
しかし目の前の駅員はにこにこと笑っており、自分の発言になんの疑問も持っていないようである。
「…じゃあ、この子と、この子とこの子で」
「分かりました。ではトレインにどうぞ」
2周目はゴウカザル・ウォッシュロトム・ドータクンだ。
なんてことは無い、さっき選ばなかったポケモンを選んだだけ。しかし急造にしては割と良いバランスだと思う。
進化前しか出てこないノーマルトレイン2周目なら、なんなくクリアできるだろう。
――いい加減、わたしだって気付いた。
これは、サブウェイマスターに会うことがクリア条件の夢だと。
Aボタン連打していれば進んだゲームのバトルサブウェイとは違い、一両一両に時間が掛かっている。
それも当然だろう。ゲームでは、技エフェクトをオンにしていたとしても1ターンはせいぜい30秒かそこらである。
しかし実際には技チャージから実行までにタメがあるし、さくさくと技を選択・指示することだって出来ない。体感的には十数倍掛かっている。
1周目を7連勝しただけでかなりの時間が掛かっていると思う。しかし目が覚める気が全くしない。明晰夢だと、意識を強く持ってしまうとそこで目が覚めるはずなのに。
妄想力だか精神力だか知らないが、サブマスに会うまでは絶対に目覚めるかよ!と脳が動いているのなら、飽きるまで付き合うしかないだろう。
幸い明日は日曜日だった、だから丑三つ時まで育て屋のじいさんの前を行き来してたわけだし。
「…っと、ロトム、でんじは!」
「でんじは厨うっぜー!!ダゲキ、じしん!」
「うっせー、だったらラムの実持たせとけっての!ボルトチェンジ!!」
…やば、口悪くなった。
さすがに7両目ともなると今までの相手とは違う。
そうでなければでんじはなどの補助技を使わなくても、いままで通りかみなり、ハイドロポンプ等の攻撃技ゴリ押しでいけただろう。
ただ、まだ3匹目、ドータクンは一度も場に出してない。
彼、いや、彼女?性別の無いドータクンを三人称でどう呼べばいいか分からないが、とりあえずあのドータクンは技構成的に自分の力一本では勝てないのだ。
つまり、どくどく撒いてひたすらめいそう積んで時々はサイコキネシス打って、危なくなったらねむるという、ドラピオンやスカタンクが来たらどうしようもない居座り耐久型なのである。
ちなみに持ち物は食べ残し。カゴの実と迷ったが、食べ残しの方が使いやすかったために今はそうなっている。
そのため、ウォッシュロトムがでんじはを撒くと色々と問題のあることが今更ながらに分かり、軽く反省している。後悔はしていない。
「ゴウカザル、インファイト!」
麻痺で動きの鈍ったダゲキにインファイトが命中し、ダゲキが仰向けに倒れる。
特性がんじょうはボルトチェンジのダメージで発動しない。これで終わりだ。
「うわっ!あー…、負けました」
「ありがとうございました」
握手した後は、ポケモンを回復させつつ中間駅に着くのを待つ。
これで14連勝。1周目より更に時間が掛かっている。
――いい加減、飽きてもいいんじゃないだろうか。これで、起きたら全部忘れてたとかだったら泣くよ。いや忘れてたら泣きようがないけどさ。
「…なぁなぁ、バトル中は色々言って悪かったな」
「こっちも言い返してたし、お相子ってことで。でもごめんなさい」
「ゴウカザルにロトムってことは、キミはシンオウ出身なのか?」
「え?いや、違いますよ」
正しくはプラチナで使ってたパーティをそのままソウルシルバー経由で連れてきて、BWで孵化した子たちだ。だから出身はイッシュで合っている。
しかしこのメンツだと、わたしの全身から溢れるシンオウへのラブ!って感じに見えなくもない。しかもラストはドータクンだっていうね。ハハッワロス、全くの偶然だよこれ。
今度ガブリアスも連れてWi-fiダブル行くか。で?って言われること確実だけどな。
「じゃあ、カントーの出か?あっちの顔してるよな」
「カントー…、いや、ジョウト…?」
むしろ山だよ。無かったことになってるようちの出身県。
というか、あっちの顔ってどっちなんだろう。私からしたらあんただって色白な日本人にしか見えない。
にしても、イッシュって今更だけどどういうところなんだろう。日本国イッシュ村みたいな?毛色の違う人はたくさんいるが、聞こえてくるのはどう聞いたって日本語だよ。でも青髪ってどこ出身扱いだよ。…あぁ、夢だからか。夢だからか!一瞬現実かと思って深刻に考えちゃったよわたしのあんぽんたん!!
「あ、駅に着くみたいだな」
「…ハッ、」
少年の声で我に返る。気付けば電車は減速の途中で、そろそろ駅に着くようである。遠目にも駅員の姿が見えた。
ここ知ってる、(自称)14歳おばあさんのいる中間駅だ。
…ってまたテンションおかしいっての!どうしてだ、電車がいかんのか?バトルがいかんのか?
「ここでバトルしたのもなんかの縁だし、連絡先交換しない?」
「ぅえっ、ごめんなさい持ってないんで!携帯持ってないんで!未開の地出身でほんとすいませんんんん!」
人生初ナンパが夢の中とか切なすぎるんですけどォ!
あと別に携帯は持ってますよ!同県出身者さん嘘言ってごめんなさい!みんな普通に持ってますよ!ド○モしか使えない地区もあるけどね!!
「え、あ、ちょっ」少年の制止を振り切って、開き始めたドアへと駆け出す。
駆け込み乗車はいかんけど駆け出し降車はどうなんだろうやっぱいかんのか?…そりゃいかんよね、プラットホームで待ち受けていた駅員に怒られたわほんとすみません。
「今時ライブキャスターも持ってないのかよ。……でも、携帯って何だ?」