5分前が伝えられたのを最後に、無線は沈黙している。
ガントル(かわらずの石持ち)とドテッコツ(かわらずの石持ち)をボールに戻し、はそれぞれレールを取り除いた二つの線路の中間に立った。目測通りなら、疾うに追いついているはずだ。終わっていれば何かしら伝えられるだろうに、しかし無いということは、まだ逃走中というわけだ。緊張が高ぶる。その時、
『さま、上です!』
上空に、暗色の戦闘機が浮かび上がった。その腹部には『R』の文字、ロケット団のイニシャル――迷いは無い。
「シャドーボール!」
ヤャンデラから放たれたシャドーボールは、過たず左翼に直撃し、爆発した。機体は激しく揺れ、いくつかの部品を落とした。ややあって持ち直すと、すぐに目視できない距離まで飛び去っていった。
――ジュエルを使っても、さすがに戦闘機相手は無理か。
これ以上の追撃を諦め、すぐに頭を切り替える。
の目前には、制御を失った貨物車が迫っていた。何があったのか、車両の上にポケモンと人の姿がある。貨物列車から切り離されているとはいえ、このまま進めば、速度を落としきる前に脱線する。賭けるしかない、
はポケットから二つ目のジュエルを取り出し、彼へと投げた。
「最大火力で…サイコキネシス!!!」
「大変見事でございました、さま」
「お疲れ様、さん」
気力も体力も使い果たし、その場にへたりこんでいたは、その声にのろのろと顔を上げた。
振り返れば、果たして二人のサブウェイマスターと――…車両から降りた少年たちが並んでいた。
彼を視界に入れた瞬間、は動き出していた。先ほどまで息をするのも億劫だったというのに、疲れなど感じなかった。立ち上がって、駆けだす。
「あの…助けていただいて、」
「本物のサトシくんだっ」
思わず抱擁をしてしまいそうになったのを何とか理性で押さえつけ、は彼の手を握った。10年以上見続けたサートシくんが目の前にいるという現実にどきがむねむねして色々と爆発しそうであった。
サトシは、突然の握手と名指しに瞬きを繰り返した。
「わたしは、カントーの出身です。サトシくんのことずっと応援してたから、会えて嬉しい。シンオウリーグは惜しかったね。あんな伝説複数催眠厨(という名のタクト)、爆発してしまえばいいよね、ね」
「でんせつふくすうさいみんちゅうって何ですか?」
「さま、サトシさまを穢さないでくださいまし」
「人を汚物みたいに言わないでいただけますか、ノボリさん。興ざめです」
冷静になってみると、彼の手を結構な力で握り続けていたことに気付いた。「わ、ごめんね、」と謝って手を離し、彼の左右に立つ軽く引き気味の少女と何か面倒くさそうなテンションの青年に目をやる。
二人とも、ドットで見た覚えがある。最初のジムのジムリーダーの一人・デントと、最後のジムのジムリーダー・アイリスだ。アイリスは、ブラックユーザーのにとっては謎の幼女キャラであったが、目の前の彼女は幼女というよりは少女で、しかしジムリーダーというわけでもなさそうである。デントは記憶通りであるが、肩に乗ったヤナップが可愛らしい。
初対面であることに変わりはないので、改めて名前を名乗ると、二人が自己紹介と相棒の紹介をしてくれた。三人は、三人と三人のポケモンたちを救ったヤャンデラにお礼を言いたがっていたが、力を使い果たしたヤャンデラはモンスターボールに引っ込んで出てこなかった。
「ポケモンソムリエのデントくんと、ドラゴン使いのアイリスちゃん、ね。このたびは事件解決にご協力いただき誠にありがとうございます」
「いえいえ、地下鉄を愛する身として、当然のことです。それはそうとして、前のサブウェイコンベンションではお見かけしてませんが、新しく入られた方ですか?先ほどのシャンデラのシャドーボール、ストロングなだけでなくクレイジーでビターな大人のテイストも感じました!あなたのような駅員さんを知らずにいたなんてぼくは!」
「(何、サブウェイコンベンションって…)わたしは臨時職員ですから。お気になさらず」
テンション高く迫り寄るデントに両手で牽制しつつ、は後ずさる。
先ほどサトシに近づいた時、自分もこんな感じだったのだろうかと恥じ入りながら。
そうこうしている間も無線で連絡を取り合っていたサブウェイマスターが、手を叩き、四者の注意を引いた。
「さぁ、カナワタウン駅まで歩こう」
「地下鉄が完全に復旧するまで、我々サブウェイマスターが、カナワ車両基地を案内致します」