Lucid Dream




「女の子に勧めるアルバイトっていったら、普通清掃員とか被り物の中の人とかだと思いますよね」
「被り物いうなや。それに中の人なんておるわけないやろ。ああいうのはな、夢と希望とエスパーポケモンの力で動いとるんや」
「それはそれでどうなんですか」


住み込み、の条件につられ、簡単に首を振ったのがバカだった。
――ただ今午後11時、線路の上。終電はまだ先だ。都会ってすげー。

業務内容は、『地下鉄路線の巡回』。つまり、アルバイトというのは、警備員であった。
は鉄道員のそれに似た青色の制服を着ているが、決してコスプレではないのである。繰り返す、これはコスプレではない。右手に持っている懐中電灯も別に小道具ではない。

どうして警備員をするはめになったのか。話は一週間ほど遡る。
最近、無人のはずの地下鉄路線に不審な影が(どう考えてもロケット団です本当にありがとうございました。)報告されているそうだ。 そこで、サブウェイスタンプラリーの開催という名目でバトル路線を休止し、バトルサブウェイ勤務の全職員を巡視に回しているものの、現時点で解決に至ってないという。
スタンプラリーイベントは残り一週間で終了であるが、安全が確認されない限り、イベント後も路線の運行に支障がでる。そこで、早急に解決するため、警備員を増やしているのだ。

その話を聞いた時、死人が出そうだと、不謹慎であるがは思った。
しかしバトルサブウェイを生きがい、どころか、バトルサブウェイのためだけに生きている廃人は決して少なくない。バトルサブウェイが無くなるとなったら…まぁ、ここはアニポケの世界なのだから起こり得やしないだろうが。

巡回時間は変則、というより定時巡回に加えてATOシステムに反応がある度に確認。そのため、警備員は常に待機していなければならない。住み込みという条件も当然である。(ちなみにの他にも、同じようにスカウトされたトレーナーが何人もいるという。いまだ顔は合わせていないが、スカウト場所はサブウェイ構内というから、おそらく鉄オタかポケ廃人のどちらかであろう。ぜひお会いしたいものである。)
雇われた巡回警備員はずぶの素人であるためベテランの駅員と組むことになっているが、運行している線路のすぐ脇を歩くため危険と隣り合わせであることに変わりはない。

なんというブラック企業。
しかしサトシくんたちが来ない限り解決されることはないだろうな、と知りつつも、言ってしまえば食い扶持をつぶしてしまうため言わないも大概である。


「にしてもお前、初めて会うた気がせえへんな。どっかで会うたか?」
「うわっ、いい歳して仕事中にナンパとか止めてくださいよクラウドさん」
「ヤャンwww」


初めて会った気がしないと言いたいのは、こっちだ。
上司はまるで変わってるってのに、このおっさんはカケラも変わってない。一緒にトリップしたんじゃないかと疑うほどだ。かれこれ一時間はこうしているが、上司部下的な配慮が保たれたのははじめの5分だけだった。お互いに。

始めての警備員アルバイトで、組んだ相手が某終着駅さんだったのは彼がバトルサブウェイ勤務の中で一番の古株だからで、運命なわけではない。


「おまえらアホか。――っと、そろそろ電車通るで。気ぃつけ」
「はーい」


クラウドの言葉に、一つ隣の線路に移り、立ち止まる。先を行って道を照らしていたヤャンデラもまた動き、隣の線路へと移った。相変わらず変な鳴き声をしている。

ややあって、足元から振動が伝わり始める。クラウドを見習って帽子を手で押さえつつ『つば』を下げ、目を異物が入らないようにする。――過たずトレインが姿を現し、そして爆音爆風と共に通過した。ナイスタイミング。

あ、そうだ、やることはもう一つあったんですよ。
通過するトレイン内外に怪しい人影ポケ影が無いかを見るのも私の仕事だ。駅を出発する時に報告された数と合えば問題なし、増えてればどこぞから侵入されたということで、逐次報告しているのである。
その責任の重さたるや、時給換算にしてなんと基本給+120円である。


「はい報告」
「乗客8ポケモン3、連絡通りであります」
「了解。――管制室、こちらクラウドや。B地点異常なし。報告終わりやで」
『了解。引き続きお願いします』


イヤホンを通して、返事がかえってくる。
あー足が棒のようだ。しかし休憩の時間はなく、次はD2地点までトンネル全体を確認しつつ移動である。それで今回…今日じゃない、今回の勤務は終了である。――明日あたり足がひどいことになりそうだ。明後日きたら泣く。


「ごくろうさん。初めてにしては悪くなかったで。それにしても、自分、動体視力えぇな」
「いやー…もっと褒めてください」
「そこは謙遜するところやろ」
「他に成長したとこ無いんですもん」
「なんや、努力値振り分け失敗したんか?――あかんわ、イッシュの姉ちゃんに勝てるとこないやん」
「種族値から違うじゃないですか…ってもしかしてセクハラかこれ。訴えますよ訴訟大国」


クラウドの視線がそれとなく胸あたりをうろついていたため、目を眇めて睨みつける。

第一、イッシュの人間と勝負するのが間違ってるんだ。
そりゃ、わたしだってやれるもんなら個体値V厳選して更に252振りたかった。しかし種族値個体値が限りなく低いところにいくら努力値振った(努力したって)って、もともと高い種族値の相手を上回ることは無理なのである。
しかし劣化ガブリアスと巷で囁かれているフライゴンが地割れやとんぼ返りでガブとの差別化が(多分)成功してるように、わたしのちっぱ…大きくないそれだってどこかで活かされるはずなのだから同じスタートラインに立とうってのが間違ってる。むしろわたしのちっぱいの活かし方を考えるのが有意味であって……ってあぁまたいらんことに頭使ってる…。こんな気持ちになるのも全部このおっさんのせいだ。恨みを込めて隣の中年男を睨みつける。


「おーこわ。――まー、一週間とはいえ、サブウェイ住み込みでバイトか。難儀やなぁ」
「だったら時給半分でいいので仕事半分にしてもらえるよう言ってもらえません?」
「諦めて働き」
「わぁひどい。渡る世間はオニゴーリですね」


「イッシュじゃおらんけどな」「ユキメノコはいっぱい見ますけどね、バトサブで」そして先制氷礫でガブリアスを上から殴ってくんだ。勘弁してほしい。

このように、駅員は余裕で廃人トークに付き合ってくれる。 ボスが常識人であってもバトルサブウェイは正しく廃人施設で、そして廃人駅員のトップに立っているのがあのボスであるとは、あぁ、なんという世界だ。
なんでもボスには弟がいるそうだが、今日は出勤日でないという。怖いもの見たさで会ってみたいような見たくないような…兄があぁなのだから弟も変わっているのだろうか。どうしよう子ども駅長だったりしたら。禿あがるほど撫で回してやろうか。

クラウドへ適当に相槌を打ちつつ、一人妄想を広げているうちに、目的のポイント着いた。クラウドの懐中電灯に照らされ、壁にD2という印字が浮かび上がる。
その他は…――おお、見事に真っ暗だ。さすが地下鉄。…ってちょwwwヤャンデラどこいったwww道理で暗いわけだよwww


「お前、上の空やったやろ」
「クラウドさん、観察眼ありますね」
「いやー…ぎょうさん褒めて」
「そこは謙遜するところでしょう。…って繰り返しネタで笑いを取るのは難しいですよ」
「わいとしたことがスベってもうたか!て始めたの自分やないか」
「ばれたか」
「アホ、からかうなや」


…だからって頭叩かなくてもいいじゃん。


「で、どこ行きました?」
「D1地点通り過ぎたあたりでボスのシャンデラとかち合っていちゃこいとったわ」


ヤケモンなのにリア充wwwまさかの勝ち組www


「――え、ボスさん、放し飼いにしてるんですか?危なくないですか?」
「なんやねん放し飼いて。違うわ。シャンデラはそこらの駅員よりもサブウェイに精通しとる。どこかのアホとちごうて、ひとりで巡回できるんや。今日は白ボスおらんし、今は緊急事態やからな、とにかく人手が足りんのや」
「そうか、スタンプラリー達成したトレーナーが来なかったら、バトルもないですしね。エネコの手どころかシャンデラ…金属?の手も使うとは、さすがバトルサブウェイ。鬼の所業」
「言い出したのはシャンデラや。ボスは引き留めとったけど、まぁ、背に腹は代えられんってな」
「シャンデラ姐さん男前…!!抱いて!!」


じゃねぇよ。親?に黙って何いちゃこらしてんだよ。

美しさ極振りのシャンデラ姐さんと『俺自身が論者になることだ』(ドン)などといって論者化したヤャンデラとの間にどんなヒトモシが生まれてくるのか非常に気になるが、しかしそんなことになったら申し訳なさすぎてこっちのノボリさんにもあっちのノボリさんにも顔合わせられん。
あっちのノボリさんは関係ないだろ?って?同じカオ前にして罪悪感わかない私じゃないんでね!(チキン乙)


「子どもは無理や、心配いらん。お前のシャンデラ、踏まれそうな勢いでヘタレとったで。むしろ踏んでくださいって感じや」
「ドМ開花!?」


耐久力まるでないんだからそういうところで頑張らなくていいよ!?
愛は地球を救っても特性を変えることはできないよ!?


「ちょっと追いかけてきます!」
「待ち」


走り出すが、しかし腕を引かれ、おまけに線路に足をとられる。
転ぶ、と直感し、咄嗟に身をよじるが、その前にクラウドの胸に倒れこんだ。頭痛い。


「一人で行かせるかアホ」
「えっ…」
「こんなとこで人身事故起こされたら、ボスに殺されるわ」


ちょ、乙女心返せ。
くっそ、一瞬とはいえこんなおっさんにときめくなんて!死んでしまいたい!!


「…なんや」
「べつにー!」


2012.08.20. up.

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