おかしい私Wi-Fiトレインに乗ってたはずだぞー?
だってのに、目の前にいるのは、どう見ても黒い方のサブウェイマスターです。本当にありがとうございました。
Wi-Fiトレインってのは、過去にWi-Fiトレインに挑んだ世界中のPCと戦えるバトルサブウェイの路線の一つだ。通常のバトル路線と違い、この路線にはマスターがおらず、純粋に連勝数を求めるトレインだ。何故か色違いポケモンにやたらと遭遇する。どうしてだろう(棒)
列車のカラーリングは水色であり、色に合った爽やかなバトルが展開される…はずもなく、ランク1の1人目から600族や準伝説がガチ構成で出てくるように、そのバトルはひたすらエグい。ただし相手は個体値引き下げかつ交換無しの、当然ながらCPU操作であるから、Wi-Fi・レーディング対戦に比べれば、勝つのは容易ではある。あくまで当社比ではあるが。
話を戻すが、私が挑戦していたのは、Wi-Fiトレインである。車両内でサブマスに会うはずがない。
だから、顔を合わせた時には、取り繕うこともなく反応してしまった。
「バトルサブウェイにようこそ。わたくしサブウェイマスターのノボリと申します」
「はぁ?」
それに対し、対面する男はもの凄く衝撃を受けたような顔をしていた。そして私は鳥肌を立てた。
いままで、歓迎されこそすれ、全否定されるような反応を返されたことはないだろう。ここにいる挑戦者は彼らと戦うために各トレインに乗っているのであって、邪険に扱われるわけがないのだ。男の反応にも納得はいく。
しかしそれが違和感だった。この人は、私の知ってる『サブウェイマスター』の『ノボリ』じゃない、かもしれない。
の知る『ノボリ』は、黙っててもいなくても廃人臭が漂う(同族=廃人だけが分かるような感覚的なものであって、実際には無味無臭である)人だってのに、目の前の男からはまるでそういったものを感じられず、それどころか爽やかである。
そう、例えるなら午後7時枠のアニメに出演してそうな…――そんなのノボリさんじゃねぇよ午前25時からの出演じゃねぇとP○Aから苦情くるのがノボリさんなんだよ廃人のくせに爽やかとかふざけんな――以上心情代弁終わり。
何か変なものでも食べたか、そうでなければ今日はエイプリルフールかハロウィンだったろうか。と思うも、こんな器用な真似ができる人じゃないと脳が即座に否定する。
双子の弟の方は兄に比べ演技が上手そうだが、もし目の前のこれが弟のいたずらだとしても、こんなたちの悪い冗談は言わないし言うメリットもない。
……もしかしなくても、『 本 人 』か。ハリセンボン並に毛という毛が逆立つ。
「じょ、冗談」
「?」
「じゃないんですよねー…」
ありがち過ぎて、変な笑いが脳内で沸き起こった。
この状況。『時』だか『空』だかを越えてしまったのだとしか考えられない。まさに時かけ状態である。
両手で数えられない程度には『世界』を越えている身としては本当に今更で、むしろ焦れという方が難題なのだから、リアクション待ちなら別の人を巻き込め迷惑だ、と冷めた気持ちで思う。
なお、こういう展開では、慌てて元の世界に戻ろうとして『条件はクリアしているはずなのに、帰れない!!』となるのが定石である。
の場合なら、ミッション『サブウェイマスターに勝利』をクリアしても帰れないとかそういう感じになるだろうか。となれば、目の前の男と戦っても、意味が無いということになる。
目の前の…。
――…強いていえば、平行世界にはこんな爽やかなノボリさんがいるってことのがびっくりだよ。
「お困りのご様子ですが、どうかなさいましたか?」
何度見ても、見た目は黒ボス…サブマスノボリそのものである。
しかし廃人でない(かもしれない)ノボリさんを、ノボリさんと呼んでいいものか。
ノボリさんは廃人であるからノボリさんなのであって廃人でないノボリさんは果たしてノボリさんであるのか…、
「お客様?」
仮に廃人でないノボリさんがノボリさんでないとしても、サブウェイマスターであるノボリさんを目の前にしてバトルしないでいるとかそんなの……ポスターの裏にスイッチを見つけた時くらいに回避不能なフラグだっての。
「あの、」
「はい」
だからその余裕っぷりは何なの?トレイン内なのに無駄に高テンションじゃないのはどういうことなの?なんで挑戦者ガン無視で出発進行!しないの?どうして、
「どうしてバトルしないんですか?」
「何ですって!?」
「ヒィ!…い、いきなり目ぇ開かないでくださいよ!怖いなぁもう」
ノボリさんがカッってなった。主に目が。
え、そ、そういう方向に盛り上がっちゃうの?――それから「……何ですって、だと?(小声)」え、なにそれ一部の大きなお姉さんの中で流行りそう。
「サブウェイスタンプラリーを見事制覇しただけでなく、積極的にバトルを求めるその姿勢、大変素晴らしゅうございます!このノボリ、普段はギアステーションより更に地下深く、シングルトレインを担当しております。このような場所でのバトルはイレギュラーではございますが、あなた様のような素晴らしいトレーナーとこうして出会えたのも何かの縁でございましょう。本日はサブウェイスタンプラリー開催による特別ダイヤでの運行、勝利か敗北か、目的地の設定はあなた様に委ねられております――では、出発進行!」
長い上に早い。早すぎる。よく舌が回るものだと感心する。ちなみに何を言っているのか一つも聞き取れなかった。
そんな超速長台詞の後に、ノボリさんはモンスターボールを構えた。
あぁ、構え方は一緒なんだ、と思った瞬間、赤い光線がはじけ、ノボリさんのポケモンが現れる。
「デラッシャ〜ン」
「ぶはっ!」
「!?」
それを目にした時、私の中で何かの箍が外れた。
「え、なに、色っぽい!?なんか色っぽいですよノボリさん!!こんなに色っぽいシャンデラ初めて見ましたよ!?」
「そ、そうおっしゃられましても…」
「個体値厳選で飽き足らずそっち方面にも厳選したんですか!?このシャン廃め!」
「誤解でございます!!」
ご謙遜、この容姿は美しさとかしこさにポフィンを全振りしたのでしょう!?
ミュージカルどころかコンテストにまで手を広げているなんて恐ろしい男(ひと)!!このシャンデラなんて、姿を現すだけでボルテージ最高潮が狙えるわっ!!
って、そういうのは置いといて、…え、シャンデラ?
「…ここ、スーパーシングルトレインでしたっけ?」
「いえ、サブウェイスタンプラリー期間中は全てのバトル路線を運休させていただいております。ここは車両に模してはありますが、ギアステーションに特設された可動式バトルフィールドでございます。…案内が無かったでしょうか」
「サブウェイスタンプラリー?可動式バトルフィールド?」
なにそれ、おいしいの?
配布イベントか?そんな、一部の人しか喜ばない上に容量を食いそうな七面倒なイベント、わざわざ作るわけない。
だったら、そんな一部の人が改造で作ったイベント?いや、ここまでしたらWi-Fi回線で弾かれるだろうよ。
…ということは、ここはゲーム『ブラック&ホワイト』の平行世界じゃないってことだ。
マンガ、とか、アニメとか、そういうスピンオフの世界にとんだってことになる。――うわぁ世界線どころじゃない。とんだ異世界だわこりゃ。
世界が違うとなればノボリさんのシャンデラがやたら色っぽいのも納得である。
けれどポケスペは作者が変わってから読んでないし穴久保は手も付けてないし合体物はネタでしか知らないしアニメはダイパまでしか見てない。幼馴染に譲られた電撃(以下略)は全巻持っているが、あれは初代で終わっている。
知識がどこまで通用するのかが不安だが、しかしゲームとまるで掛け離れた世界観でもないようだから、ひとまず安心する。
とにかくここは、スタンプを集めればサブウェイマスターのシャンデラと戦える世界なわけで。
「顔色が良くないようですが、もしかしてご気分が優れないのでは?」
「あ…、あー、すみません、ちょっと眩暈が…」
地下鉄を巡ってスタンプを集めさえすれば、サブウェイマスターノボリのシャンデラと戦える世界なわけで。
……プレイ時間999とんでカンストしたのはいつだったかなぁ…ハハ……ハァ。
「でしたら、少し救護室で休まれてはいかがです?」
「!とんでもない、黒ボスとガチバトれるってのに止めるわけないじゃないですか!いつ強制送還されるともしれないってのに!」
「くろ…?」
「!あ、いや…こっちの話でして…――興奮してバトルを止めてしまってすみません。シャンデラもごめ…ほんと色っぽいねシャンデラ」
「デラッシャンv」
「見間違えでなけれえばドヤ顔でウインクしたよね今。気を取り直してさぁ全速前進DAっと…」
ハートマークを散らせるシャンデラにうっかり心を奪われつつ、自らのモンスターボールへと手を伸ばす。
特攻お化けの名を欲しいままにするシャンデラに対して、どの子を先発にするか…、
「…あれ?」
慌てて、自分の臀部…おしりを見下ろす。
そこには、常であれば6つのボールがついているはずであった。
しかし、空振った手。そこにあるのは、
「ひとつ…?――ひとつぅ!?」
「どうかなさいましたか!?」
ど、どこいったよマイステディ!?
慌てるノボリさんを無視して、むしりとるようにしてその唯一のボールを掴んだ。覗き込む、
「――う、っそ……」
「お客様!?」
もしかして、とバッグの中に手を突っ込む。
この世界が『ポケスペ』でなく『アニメ』の方だったら、特別なトレーナーでなくてもあれを持っていたはずだ。そして、本来ついてないはずのあの機能がついてたはず…――果たして、ポケモン図鑑はそこにあった。確信に変わる。
開いて、手当たり次第にボタンを押す。
「…www」
……ノボリさんが世界によってあぁなるなら、私だってこうなる可能性があったってことなのだろう。
ったく、『これ』が隆盛を極めたのは、何代も前だってのに…。しかしこの世界の私が扱うのに、私に出来ないってことはないだろう。
「まぁいいや。バトルしましょう」
「「「まるで何事も無かったかのように!」」」
「突然叫ばないでくださいまし!!」
突然ノボリさんが片耳を押さえて叫んだものだから、びっくりして図鑑を落としてしまう。
ちょ、科学の粋が!!
「…ノ、ノボリさん?」
「はっ!――申し訳ございません、部下が少し…」
荒ぶったのですか。
ノボリさんが押さえているのは、耳に差し込まれたイヤホンだ。
ということは、これ、監視…じゃなくて見られてるのかなぁ。管制室とかそういうのかなぁ。憧れられてるんだろうなぁ。見たところ普通に良い上司っぽいしなぁ…。ちょっとは遠慮するべきなのかなぁ。
でも…んんwww相手の選出が分かってる以上、我が負けるのはありえないwww
この勝負、もらいましたぞwww